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第二章一話 追跡デバイス

第二章 順子

早く第二章も終わらせてしまおう。最初の一話はタケシの一人称で。
その後は三人称と順子のモノローグで。
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性同一性障害と勘違いして悩む
義理の妹に悩むぼくの物語
第二章一話 追跡デバイス

タケシの引っ越しの当日、カエデの発案で、美久とタケシ、カエデのアイフォンに位置情報共有と携帯電話追跡アプリをインストールした。
「あ!そうだ!いいことを思いついた!」とカエデが言う。「なんですか?」と美久が訊く。「あの、節子さんと紗栄子さんと佳子さんが拉致されて強姦されかかったって言ってたでしょう?」「ハイ、北千住は物騒なんです。ゴメンナサイ」「まあ、美久さんとお兄でのしちゃったんだからね。すごいよね?」「あれはたまたま運が良かっただけです」「そうそう、危ないわよね。それで、美久さんアイフォンでしょう?私もお兄もアイフォンだから、三人のアイフォンに同じ位置情報共有と携帯電話追跡アプリをインストールしておくのよ。そうすれば、危ない場面でも場所がわかるじゃない?おまけに、抜け駆けもできない!エッヘン!名案でしょう?節子さんと紗栄子さんと佳子さんのスマホにもインストールしちゃいましょうよ?それで、六人がみんな居場所がわかるから、拉致されても追跡できるじゃない?」
「うん、確かにそれはいいアイデアかもしれない。特に、節子と紗栄子と佳子は半グレに目をつけられているようだし、みんなで位置情報を共有すれば助けに行けるね。美久、どう思う?」「はい、私はかまいません。その方が安全でしょうし。でも、楓さん、わたし、抜け駆けはしませんよ」「わかってます。美久さんはそういうひとじゃありません。じゃあ、早速、インストールしちゃお。美久さんは、節子さんと紗栄子さんと佳子さんにインストールしてあげて、設定してあげて。わたしが今やってみせるから」とカエデは美久とぼくのアイフォンを取り上げて、アプリをインストールし始めた。

 北千住から神泉に帰るメトロの中で、ドアの横でカエデが腕を絡めてきて密着した。胸を押し付けてくる。「カエデちゃん、体も顔も近い!胸も当たってる!ちょっとお酒臭い!」「なあに、お兄、チューはダメだけど『まあ、手ぐらいならいいでしょう』って言ったじゃない?」「それは言いましたが、しかし、そんなにベタァ~として良いとは・・・」「いいじゃん、このくらい。ふふふ、今ごろ、美久さん、ヤキモキしてるかなぁ~。ねえ、お兄?」「うん?」「美久さんって、可愛いね?二才年上だけど、私は可愛いって思う。ああいう人がタイプだったんだ?お兄は?」「そういうわけじゃない。自分の好みのタイプなんてわからないよ」「ふ~ん、ねえ、水川あさみとゴクミとどっちがいいの?」「カエデちゃん、それ、美久に対する反則にならない?」「誤魔化すのね。まあ、いいわ」

 神泉の家に戻った。ダイニングテーブルに座るとカエデが「ハイ、お水」とコップをわたしてくれた。(日本酒、飲みすぎだよなあ)カエデも水をごくごく飲んでいる。アイフォンを取り出した。「美久さん、どこにいるかなあ?どれどれ?・・・あ、お兄、美久さんは分銅屋ってところにいます。あの女将さんのお店でしょ?」「うん、そうだ」「ねえねえ、美久さんもこの位置情報共有と携帯電話追跡アプリを見ていると思わない?」「そんな、ストーカーじゃあるまいし」「防犯用、護身用と言って下さい!LINENしちゃおう」「え?誰に?」「美久さんに決まっているじゃない」「い、いつの間に?」「ふん、お兄、女をなめてもらっちゃこまるわ。スピーカーフォンにするわね」

「あ!もしもし?美久さん?」「あ!楓さん」「今日はお世話になりました。今ね、神泉の家。美久さん、どこにいるの?分銅屋さんでしょ?」「え?は、はい、そうです」「あ、これ、今、スピーカーフォンですからね。お兄もそばにいて聞いてるよ。ねえねえ、美久さん、追跡アプリ、試してみた?」「え?ええっと・・・」「見てたでしょう?お兄と私の現在地?」「・・・ハ、ハイ、ちょっとのぞいてました」「やっぱり」「ゴメンナサイ・・・」

「謝らなくてもいいのに。だって、このアプリはそういうものなんだから。私も美久さんの現在地チェックしたし。安心してもいいです。私は抜け駆けはしません。ちょっと、地下鉄の中で腕組んだだけ」「う、腕を組んだの?」「だって、チューはダメだけど、腕を組んでもいいって」「そ、そうですよね。腕くらいなら・・・」「ええっとですね、私、春休みの陸上の練習が終わっちゃって、休みなんですよ。それで、明日、午後、秋葉原にでかけられますか?」「午後二時以降だったら大丈夫ですけど。なんで?」「お兄は朝からアパートに行けばいい。でも、昼間一緒の機会を邪魔してやろうと思って」「楓さぁ~ん」

「ウソウソ、あのですね、防犯用グッズの買い物に付き合ってもらおうと思って。行きます?」「ハイ、まいります」「じゃあ、明日、アキバの電気街口で二時に待ち合わせでいいですか?」「わかりました。タケシさんは?」「それは美久さん、お兄にご自分で聞いて下さい。私は三人デートでも二人でもいい」「了解!タケシさん、明日は?」「朝九時ぐらいから行くつもりです。引っ越しの片づけがあるから」「わかりました。私も朝顔だしちゃダメ?」「美久がよければいいですよ」「了解!明日、お会いしましょう。合鍵も返さないといけないし・・・」「ああ、合鍵持ってましたね。いいですよ。そのまま持っていて下さい」「こら!お兄!同棲相手じゃないんだかね!ま、いいかぁ」「楓さん、ありがとうございます。タケシさん、私、うれしい!」「じゃあ、美久さん、また明日。バイバイ」「ハイ、失礼します」

「ねえ、お兄、美久さんてキュンキュンしちゃう。こりゃあ、可愛いや。お兄がノックアウトされたのもわかる」「あのね、カエデちゃん・・・」「いいって、いいって。丁寧語でヤンキー口調がときどきでるし。天然だし」「まあ、天然だな。裏表ないよ、美久は」「どうして、今まで節子さんの言うように男っ気がなかったんだろうなあ」「節子や紗栄子、佳子なんかの面倒を見ていて、興味がなかったんじゃないの?」「ふ~ん、あんな美少女を男の子がよくほっておいたものね?」「だって、この前までギャルスタイルの北千住のヤンキーの元総長だったそうだから、男は近づきがたかったんじゃないのか?」「よくそういう近づきがたい女の子に一目惚れされたもんよね?お兄も?」「そんなことぼくは知りません」「まあ、そういうのが目前にもう一人いるんだけどね」「カエデちゃん、勘弁して」「ふん、まあ、いいわ。今晩は面倒なんで店屋物ですまそう?」「そうだな、カツ丼でも食べるか?」

 その晩は、カエデとカツ丼を食べた。日本酒が覚めてきたけど、二人でビールを飲んだ。(高校生が晩酌しちゃダメだろ?まあ、いいか、ドイツなら朝から飲んでるし・・・)
 
 翌朝は、ぼくは八時に家を出た。カエデは洗濯して家の掃除をしてからアキバに出る、と言っている。「お兄も来てもいいけどね、今日の買い物は女性用の防犯グッズだからね!」と宣言している。
 
 二時に美久と一緒にアキバの電気街口に来た。カエデが改札で待っていた。カエデは黒の上下のスェットに薄水色のセーター、パンプス。美久は花柄のワンピースに黄色いセーター。「楓さん、こんにちは」「美久さん、可愛い。幼妻みたいだよ?」「ええ!そう見えるの?」「うん、キュンキュンしちゃう」「え?」「まあ、いいから、いいから、行きましょ」と言って人混みを抜けてスタスタ行ってしまう。ぼくたちは後を追いかける。美久はカエデに気を使って手も握ってこない。ちょっとさみしい。

 ゴミゴミした通りをぬけてカエデはビルに入った。二階に行く。知っている店なのか、迷わず店に行って入ってしまった。店員さんとも顔見知りのようだ。カエデが美久に「私もちょっとメカオタクっぽいところがあるんだぁ」と言う。
 
 カエデは店員さんに「こんにちわあ」と挨拶する。「あ!こんにちわ」「今日はね、GPSの発振器、リアルタイムトラッカーを見に来ました。防犯用ね」という。店員さんはあれこれ出してきた。カエデは、デザインがいまいち、ごついやつじゃなくて女の子がネックレスにぶら下げていても不自然じゃないやつありません?と言う。店員さんが銀色のミニモノリスみたいなプレートをカエデに見せた。
 
 店員さんが「これね、奥さんが浮気してるって疑っている旦那が買っていくんだ。アクセサリーに見えるし、奥さんのハンドバックに忍ばせてもいいやつ。データSIMが必要だけどね。月に500円くらいかかる。それは別に買って」という。「電池はどのくらい持つの?」とカエデが聞くと「そうだなあ、二週間から四週間くらい?USB充電。スマホでリアルタイム追跡と指定した日時の足取りをスマホのアプリで簡単に把握できる。パソコンのアプリでもできるよ」「複数のデバイスは登録可能?」「最大十台まで。会社のセールスマン向けにも使える」
 
「ヨッシャア、これだ、これ。お兄さん、いくら?五台欲しいんだけど?」「税込み12,732円だけど。ポツ八で色つけて・・・1万円でどう?」「もう一声!」「しょうがないなあ」「ねえねえ、私に免じて!」「美人に詰め寄られちゃあなあ、ポツ七五で、税込み9,500円でどうだ!」「やった!それでオッケー!クレカでいいよね?」「わかりました。お嬢ちゃんには負けるよ」とカエデは五台買った。

 アメックスのゴールドのクレカで支払う。「カエデ、よく買えるな?高いだろ?それに五台も?」と言うと、カエデは舌を出して「へへへ、私、ママのカードのサプルメントホルダーだから、ママが支払うの。五台って、美久さん、節子さん、紗栄子さん、佳子さん、それに私用です。お兄はいらないでしょ?」「それって・・・」「あら、気にしないで。私の下着の買い物よりも安いじゃない?」と言って平然としている。美久に「私はお嬢様じゃないの」と言った割には発想がお嬢様だよ、それじゃあ、とぼくは思った。
 
 店員さんは一台をカエデのアイフォンにセットした。店のデータSIMを試し刺しする。「デバイス名をつけるんだ。何にする?」「漢字で楓にできる?」「できるよ、ほら」とアイフォンを見せる。美久とぼくがのぞきこむと、もうマップに位置情報がインジケートされている。「電波が届かない場所もあるけど、その前後の位置は追えるからね。取説にデスクトップ用アプリのURLが書いてあるからそこからドルしてインストして下さい」「バッチリじゃない。ありがとう」と店員さんの手を握ってカエデは盛大に握手する。ちょっと照れてる店員さん。

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 その店を出ると、別の店でカエデは「スタンガンじゃあ、取り出す時に大げさで大きいし・・・小さい口紅タイプの催涙スプレーがいいか。美久さんは空手ができるからいらないかもしれないけど・・・」とぶつぶつ言って催涙スプレーも五本買ってしまう。美久に催涙スプレーを見せて「美久さん、これ口紅みたいでしょ?ストーカーなんかにこれをシュッとやると、激痛で目が開けられなくなって、30分以上は確実に行動不能にできるのよ」などと物騒なことを説明している。「お兄と喧嘩したらかけちゃえばいいのよ」(おいおい)「シュッとですか?」と美久がぼくに催涙スプレーを向ける。「美久、美久ちゃん!」「タケシさん、冗談ですよ。でも、わたしと楓さん以外と浮気したらかけます」「・・・」(美久さん、カエデと会って性格変わってません?)
 
 北千住に戻って、美久とカエデはテレフォンショップに行った。データSIMを買うのだ。カエデは自分の分。美久は自分と三人組の分。「美久さん、デビットカードとかプリペイドカードはダメですからね」「ヘッヘェ、私も持ってるもん」と言って三井住友のゴールドカードを出す。「お父さんのサプルメントカード。護身用だから、後でお父さんに言っとくわ」(こいつら、結構ちゃっかりしてんじゃないか?天然の美久でも女は侮れない・・・)
 
 当然のように分銅屋に行く。途中で美久は三人組を呼び出した。「こんばんわー」と言って三人で分銅屋の暖簾をくぐった。先客がいる。南禅さんと羽生さん。この人たち、分銅屋に住んでいるんだろうか?女将さんが自衛隊組にカエデを紹介した。女将さんは昨日あったことを彼女らに既に話しているようだ。
 
 南禅さんが「あら、この方が兵藤くんの妹さん?楓さん?」「ハイ、兵藤楓です。よろしくお願いいたします」とペコっとお辞儀をした。「ふ~ん、美久ちゃんといい楓さんといい、兵藤くんは美少女、美人に縁があるのね?それで童貞だなんてね」と南禅さん。(南禅さん、それ関係ないって)「それで、三人で今日は何を?」と聞かれたのでカエデが今日の買い物の說明をした。「ふ~ん、確かに最近ますますここらは物騒だからね。位置情報がわかれば助けに行かれるし。兵藤くん、美久ちゃん」とぼくらの方を向いて「今度は私と羽生くんの分も残しておいてね。みんなのしちゃダメよ」と言う。北千住といい、自衛隊といい、やっぱり神泉とは違うようだ。
 
 三人組が来た。カエデが「昨日はどうも」と言って三人組のアイフォンを出させた。「護身用に位置情報を共有するの」と説明する。美久が「おまえら、位置情報がわかっても気にしないだろうな?」という。「ハイ、ネエさん、大丈夫っす」と三人が言う。カエデがまず三人のスマホに位置情報共有と携帯電話追跡アプリをインストールした。美久のアイフォンも出させて、リアルタイムトラッカーにSIMを挿れて、それぞれアクティベートさせていく。ぼくのアイフォンも取り上げられて、六人のアイフォンにみんなの位置を表示させた。

「ほらできた」と行って、アイフォンとリアルタイムトラッカーを美久と三人組に渡す。「ネックレスで首にぶら下げてもいいし、ハンドバックに忍ばせてもいいのよ。これで拉致されても場所がわかる。それから」と言って催涙スプレーも渡した。「これでシュッとやれば、悪いヤツは30分以上は確実に行動不能にできるの」と説明する。「遊びで使っちゃダメですよ。唐辛子成分なんだからすごく痛くて目が開けていられなくなるみたいだから」と言った。「アイフォンのアプリはこうしてオフできます。トラッカーは・・・あれ?オンオフついてないんだ。えっと、アルミホイルで包めば電波は出ないんで、位置情報を知られたくなければそうして。でも、防犯上いつもオンがいいんだけど。トラッカーはUSBで二週間ごとに充電して下さい」とテキパキ言う。美久もそうだが、カエデもテキパキ派だ。
 
 三人組が「楓ネエさん、ありがとさんっす」と言う。「ちょっと、節子さん、紗栄子さん、佳子さん、私は同学年です」とカエデが言うと、「いいや、今から楓さんも美久ネエさんの次のネエさんと呼ばせて下さい」と声を揃えて言う。(北千住はおかしな縁ができる街だな)「わ、わかりました。でも、楓でいいです」「じゃあ、楓さんで」「楓ちゃんでいいです」「わかりました。楓ちゃん」やれやれ。
 
 南禅さんが「楓ちゃん、見せて見せて」とカエデのアイフォンとトラッカーをいじる。「へぇー、こりゃあ、便利だ。過去情報もわかるんだ。なるほど、自衛官に持たせて、帰隊しないやつをふん縛るのにいいな。羽生くん、キミも持ったら?風俗行ったら私がわかるように」と羽生さんにニヤッとしてトラッカーを見せる。「南禅さん、なんで独身同士が監視されないといけないんです?それとも南禅二佐、俺と結婚してくれるんですか?」「ヤダね、キミなんかと」
 
 みんなで雑談をしていた。そうすると、美久が「順子(この話の後半参照)もいればよかったのになあ・・・」とボソッと言った。「順子ってだれ?」とぼくが聞くと、節子が「ネエさん、後藤順子のことは話すもんじゃない。ネエさん、兵藤さん、確かなことがわかったら、お知らせしやすから。今は勘弁して下さい、後藤順子の話は」と言う。美久が腑に落ちなさそうに首をかしげている。「うん、まあ、節子がそういうのなら・・・」と美久が言った。女将さんは事情がわかっているのか、眉間にしわを寄せている。その時は、後藤順子の話はそれで終わったのだが、また後で大事になるような気がした。

順子






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