終極決闘 #2
「腕を磨きな。いつかまた俺を殺しに来い」
聞こえているはずもないだろうがそう言い捨て、ヴォルダガッダは踵を返した。
今度はもっと楽しませてくれることを、心から渇望し。
だが――その願いは叶わなかった。
何年か後、下克上野郎はどこか別の部族の大族長となり――崖から落ちて死んだ。
どいつのせいでもなく、キノコ酒で酔っ払ったあげくの不注意であった。
その事実を知ったとき、ヴォルダガッダは石の盃を握り潰し、ちょうど足元をウロチョロしていたゴブリンを蹴り殺した。
――馬鹿が。
ふざけるなよ。
くだらねえ死に方しやがって。
戦いもせずに、てめぇ、ナメてんのか。
殺してやろうか。
反射的にそう考え、もう殺すこともできないということに気づいたとき、ヴォルダガッダは全身の関節に冷たい不快感がわだかまり、思わずその場に腰を落とした。
しばらく、立ち上がる気がしなかった。
無常。閉塞。孤独。気鬱。
飲み込まれ、溺れ、息が詰まりそうだった。
なんだよ。
この世界は。
何だってんだよ!!
●
――今、こいつは。
ヴォルダガッダは、思う。
片膝をついた黒いヒョロカスを見ながら。
あの日、我が身を蝕んだ、「どこにも行くことができない」感覚。
――あの日のオレと同じだ。
奇妙な同情とも共感つかぬ想いが、汚染幽骨の総身を満たした。
認めた相手に期待を裏切られ、何も落着しないままあっさりと死なれてしまう。
どれほど無念であろうか。どれほどムカっ腹が立ったことであろうか。
そして、その激情のぶつけ先が死ぬという事実を前に、どれほどの虚しさを覚えていることであろうか。
――それは、駄目だ。
絶対に、そんな悲劇があっていいはずがないのだ。
ヤビソー。
オレに、生きるということの鮮烈さを初めて教えてくれた友よ。
今こそ、その恩に報いよう。
オレは決して、テメーを孤独にはしない。
『オレはケっして、テメーを裏切っタりしなイッッ!!!!』
このまま削れ死んでいいわけがない。このまま滅び去っていいわけがない。
わかる。わかるとも。その無念、この世の誰が笑おうと、オレだけは笑わない。
ヴォルダガッダは、目を見開いた。
掌の中に、歪んだ魔導大剣の重みを感じた。
まるで水中に浮かんでいるような心地だった。
不安定に揺らめく水越しに、黒くほっそりとした輪郭が見えた。
『ヤァビィソォォォォオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!』
水中から、飛び出す。
今まで水と思っていたものは、汚染幽骨で形成されたアゴスの神体であった。神の心臓部に存在した魔導大剣をつかみ取るようにして、ヴォルダガッダは新たな肉体を得ていたのだ。
慣れ親しんだ、生前のサイズと質量で、ヴォルダガッダは躍りかかる。
過去最高の速度で。過去最強の精度で。
「神籟孤影流斬魔剣・龍式弐伝――」
ゆえに、悪鬼の王を出迎えたのは絶対零度を越えた、温度という尺度すらも崩壊させる究極の殺意。
「――〈尾〉。」
瞬間、総十郎の黒影が二つに分離した。
片方はヴォルダガッダの巨腕に絡みつき、関節を極める。もう片方は極められ固定された腕の先にある煉獄滅理の根源――魔導大剣へと撃刀の狙いをつける。
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