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姉妹の再会

  目次

 〈鉄仮面〉に率いられたアンデッドオークの大群は、忽然と姿を消した。
 驚くべきことに――〈鉄仮面〉が「大いなる森の意志よ、転移の門を開きたまえ」と唱えた瞬間、本当に〈聖樹の大門ウェイポイント・アクシス〉が起動したのである。屍者の大群衆は次々と水球の中に入ってゆき、オブスキュア王国から姿を消した。

「うそよ……そんなの……」

 ツインテールの少女は、愕然とそのさまを見ていた。

「聖なる森が、アンデッドなんかのために門を開くなんて……!」
「とはいえ認めぬわけにはいくまい。広大なるオブスキュア王国の全域に、一瞬にしてオォクどもが展開した理由があれ、というわけである。」
「そんなのありえないっ! 聖樹の意志はあたしたちエルフにだけ応えてくれるはずよっ! 神代の昔からずっとずっとそうだったんだからっ!」
ではそれが答えなのであろうな。」

 少女は、目を見開いて総十郎を睨んだ。

「どういう……意味……?」
今から百二十年ほど前に卓越した剣腕を誇るエルフの勇者が亡くなったのではないかな?」

 ――百二十年待った。今更異界の英雄などと言うたわけた存在に邪魔をされてなるものか。オブスキュアは破壊する。この森は焼き尽くす。それだけのために、現世にしがみついているのだ。

 〈鉄仮面〉の言葉が、そしてシャーリィの涙が、あるひとつの確信を総十郎に抱かせた。

そしてその勇者の亡骸は行方不明になってゐるのではないかな?」

 少女の見開かれた目に、すこしずつ涙が盛り上がっていった。震えながらぽろりぽろりと頬を伝い落ちる。

「ちがう……そんなの……ちがう……嫌……そんなの、ないよ……」

 両手の甲で目を擦り、肩を震わせた。
 そばにいた騎士が、沈痛な面持ちで少女の肩を抱いた。すると少女は、騎士の胸板に顔を埋めて泣きじゃくった。

「その……異界の英雄どのよ、シャイファ殿下は気丈な方なれど、その事実はいささか重すぎる。お客人の前で申し訳ないが、落ち着くまで少々お待ちいただけるかな」
「それは一向に構わぬが……殿下、とな? ひょっとしてシャーリィ殿下の姉君であらせられるのか?」
「シャーリィ!?」

 少女――シャイファががばりと顔を上げた。
 泣き腫らした目で、今度は詰め寄ってくる。

「あの子は無事なの!?」
「安心めされよ、無事である。ともかく、殿下と、殿下が召喚なされた残り二人の英雄も交えて、話をしたく思う。」

 その瞬間、

「おぉーい! ソーチャンどのーっ! 〈道化師〉捕まえましたよーっ!」

 リーネ・シュネービッチェンの声がした。
 見ると、リーネ、烈火、フィン、シャーリィが連れ立って、歩いてきているところだった。

 ●

 ぽてぽてとシャーリィは駆け寄り、シャイファに抱きついた。
 爪先立ちで姉に頬ずりする。

「こ、こら! もぅ、他の人の前で……」

 しっかりと抱き留めながら、シャイファは目尻を下げた。

「あんたなんでこんなところにいるのよ。ぽやっとしてるんだから、母上のところにいないとダメじゃないの」

 シャーリィは、姉の耳元に唇を寄せ、何事かを囁いた。
 シャイファの目が見開き、細かく震え始める。

「ばか……」

 すがりつくように妹の小さな体を抱きしめ、震える唇でなじる。

「ばかばかばかばか……っ! なんでそんなことあたしに相談もなしにやっちゃうのよっ! あんたがしゃべれなくなって、周りの人間がどれだけ悲しむと思ってんのよこのばかばかばかぁっ!」

 顔を傾けて頬を押し付け、わんわん泣く。
 ひとしきり涙を流すと、しゃくり上げながらも小さくつぶやく。

「……でも、おかげで助かったの……あ、あり、がとね……」

 二人は目を閉ざし、しばしお互いの体温と鼓動を確かめ合った。

「シュネービッチェン卿、どうやら務めは果たせたようだな」
「は、はい! ロンサール卿! 卿のご指導ご鞭撻の賜物ですっ!」
「お主のことは父君より頼まれておる。その忠道、ゆめ忘れぬよう。それで、後ろの者たちが……?」
「はい、シャーリィ殿下が召喚なされた異界の英雄たちです。そこのでかいのがクロガミ・レッカ」
「俺は天才だァーッ!」
「で、その隣の眉目秀麗な方がソーチャンどのです」
「小生はロリコンである。」
「で、こちらのかわ……こほん、凛々しい少年がフィン・インペトゥスどのです」
「え、えっと、えっと、プリン大好きでありますっ!」
「……随分と、その、ユニークな御仁らだな」
「いや、まぁ、その……そうですね……」

 そこへ、シャイファとシャーリィが近づいてきた。

「フィンくんに、レッカくんに、ソーチャンさまね。まずは妹の招きに応えてくれてありがとう。オブスキュア第二王女のシャイファ・ジュード・オブスキュアよ。ひとまず、シュペールヴァルクの王城まで来てもらえる?」
「確かオブスキュア第一都市であったか。伺うとしよう。」
「……レッカどの? 顔色が優れないようでありますが……」
「……モヒカンだった……」
「え?」
「いや貧乳がモヒカン化してなかったから、ひょっとして王家は適応対象外なのかと期待してたけどあのシャイファとかいう奴もやっぱモヒカン化してた……」
「ふしぎでありますねっ!」
「テメーこの事実の絶望感をまったくわかってねーなコラァ!! この世界に来てからまともに拝めたパイオツが乳ゴリラだけとかどう考えてもおかしいだろうが!! ハーレムは……ハーレムはどうしたァァァァァァァァッッ!!!!」
「アホなこと言ってないでとっとと行くぞ。オブスキュア女王、シャラウ・ジュード・オブスキュア陛下がお待ちだ」

 リーネがやれやれとかぶりを振りながら言った。

 システムメッセージ:サブキャラ名鑑が更新されました。
◆銀◆サブキャラ名鑑#5【シャイファ・ジュード・オブスキュア】◆戦◆
 百六十七歳 女 戦闘能力評価:C
 エルフの王女。ジト目翠色ツインテール。古式ゆかしきツンデレ。
 オブスキュア王国第二王女にして次代の玉座を担う王太女。しかしどちらかと言えば森を駆け巡って狩猟に打ち込むほうが好き。その弓術はエルフ基準でも卓越したもの。獲物の解体から料理まで完璧にこなす高いエルフ嫁力を誇る。反面、あまり自分の気持ちを表に出すのが得意ではなく、無愛想になりがち。ついきつい物言いをしてしまって、後で一人で後悔しながら落ち込むのが常。こんなんで次代の女王として果たしてやっていけるのか、将来の不安に懊悩中。母と妹はそんな彼女のツンデレ気質を見透かしており、萌えている。シャイファ自身はそのことにまるで気づいておらず、戸惑っている。変な家庭である。Bカップ。
 所持補正
・『カリスマ』 自己完結系 影響度:B+
 理屈では説明しがたい威厳。シャラウと相対した者は、言葉にできない荘厳な感銘を受け、彼女に従いたくなる。広い視野と高い志と深い寛容さを併せ持った者のみが到達しうる境地。国難を前にして、彼女は覚悟と決意を新たにした。
・『■■■■』 因果干渉系 影響度:■
 ■■、■■■、■■、■■などに■わらず、シャイファの■■への■■■にプラスの補正がつく。だが■■に■れる■■を■えるのが■■■■になる。つい■■■■した■■をとってしまうが、それが■■な■■を■くことはない。
・『■■■』 因果干渉系 影響度:■
 ■■に■する■■■■な■■。■■■■■■の■■■に、■■二十%のバフがかかる。つまりどう■えても■■しそうにない■■でも、それが■■■■であるならば、二十%の■■■が■■される。

【続く】

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