見出し画像

絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #43

  目次

「よせ、君たち! 投降する! 絶罪殺機の繰り手たるアーカロト・ニココペクは〈法務院〉に身柄を預ける! だから今すぐ関係ない人々への虐殺を止めろ!」
 反射的に、そう叫んだ。
 ギドへの不義理になるが、どの道〈法務院〉上層部との接触は必須事項だ。渡りに船と前向きに捉えよう。
 酒場に押し入ってきた乙陸式機動牢獄の小隊は、一斉にこちらを見た。
「ア? 投降?」
「そうだ。投降する」
 しん、と急激な沈黙が場を満たした。
 めじ、と異様な音がして振り向くと、機動牢獄の一人が壁に架けられていた銃器を無造作に握り潰しているところだった。
「おい……フザけたことぬかすなよ……」
「投降……? 何言ってんの……?」
「ちょっと意味が分からないですね」
 アーカロトは、眉を顰める。なぜ彼らは怒りを滾らせている?
「僕を確保するよう命令を受けて来たのだろう? さっさと仕事を終わらせてやると言っているんだ。何が不満なんだ」
「フザけるなよ……なんで抵抗しねえんだテメェ……! お前、お前が逃げ回ってくれなきゃ、お前、あっちゅう間に自由時間が終わっちまうだろうがァーッ!!」
 絶叫しながら罪業場長銃を乱射。
「どんだけこの時を待ってたと思ってんだよォ!! いい加減にしてくれよォ!! 俺らがなにしたって言うんだよォ!!」
「殺す……! 早く……早く……!」
「嫌だ!! せっかく出たのに……一人も犯さず終われるかってんだよ……!!」
 止める間もなかった。数十名が一斉に罪業場弾体を連射し、乱射し、斉射し、酒場に残っていた人々をほぼ一瞬で肉片に変えた。
「おい、君、アーカロトくん。頼むから考え直して逃げてくれないか。これは君のためを思って言っているんだ」
 そのうち一人が語り掛けてくる。
「君たちは……」
 自分の声が硬く尖るのを感じる。
「私たちは人を苦しめて殺したくて生きているだけなのに、どうして君は投降するなんてそんな、ひどいことを言うんだい? 人の心がないのかい? ここにいる全員、普段はカンオケの中で感覚遮断措置を受けながら拘束されているんだ。やっと巡ってきた憩いの時なんだよ。それをそんな、投降するなんて。お願いだから逃げ回ってくれ。私たちをなるべく長く手こずらせてくれないか。君を追う片手間に関係ない人を殺したり犯したりできないじゃないか」

 轟音。

 アーカロトは沈墜勁を込めた踏み込みで相手の懐に潜り込むと、通天砲を鳩尾に捻り込むと同時に発砲。
 銃撃と勁力が乗算的に噛み合い、戦車砲並みの運動エネルギーが発生。罪業ファンデルワールス装甲が融解して上方に飛散し、次いで内部の肉体が赤い霧と化した。遺された下半身がびくんびくんと痙攣する。千切れた脊髄がムカデのように踊った。
 渾身の功夫。全身から汗が吹き出し、力が抜ける。尻餅をつく。
 今までのどの勁力射撃とも比較にならないカロリー消費。暗い目の男はこんなものを何発も撃てたのか。
《繰り手のカロリー消費が戦闘行動に不可欠な閾値に近づいたことを確認/警告:敵性体の無力化を確認できず/脅威度判定を大幅に上方修正/緊急非常事態/罪障滅除プロトコル:停止/唯我殲滅プロトコル:起動》
 アーカロトは、止めなかった。
「アンタゴニアス、一機だけでいい。絶罪支援機動ユニットを唯我殲滅プロトコルで起動させろ。こいつらにお前自身が出張るのはもったいない」
《了解/こは業にあらず/こは罪にあらず/こは罰にあらず/我ら道を外れ、義に背き、己が都合にて人を殺め奉らん――》

【続く】

こちらもオススメ!


小説が面白ければフォロー頂けるとウレシイです。