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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #46

  目次

 見上げると首が痛くなりそうなほど巨大な鈍色の球体が、宙に浮かんでいた。まるでジグソーパズルのように分割された装甲の隙間から、エネルギーラインが蛍光色を放っている。
 球体の周囲では、土星の輪のごとき鋼鉄の円環が大小二つ、それぞれ異なる軸で回転していた。内側のリングには無数の砲台が全周囲に伸びており、対して外側のリングは巨大な鎖のように見える。
 甲参式機動牢獄。重装甲、大火力、高輸送能力。動く前線基地だ。
 動力源となる〈原罪兵〉ひとりでは運用できず、十数名程度のクルーが同乗している、らしい。
 装甲の一部が展開し、内部から人影が多数、出撃してくる。
 流線形のシャープな甲冑に、背中から綻びかけた花の蕾のような突起が生え、そこから鋭角的な光の翼が伸びている。
 乙伍式機動牢獄。罪業変換機関から供されるエネルギーを飛行能力に振り向けているため、規格化罪業場武装は展開できず、代わりに長大な電磁加速式アンチマテリアルライフルを抱えている。
 さらに地上では蜘蛛に近い形状をした甲弐式機動牢獄が複数、その節足を踏ん張らせ、地面にアンカーを打ち込んでいた。機体が折れ曲がり、結果生じた装甲の隙間から巨大な荷電粒子砲を伸長させる。
 ――確保ができないなら殺してしまえ、と?
 その確保の可能性を潰したのは向こう側なのだが……どうにも、上層部と機動牢獄とで意志の統一がまったく成されていない、雑な組織構造が目立つ。
 と言っても仕方がないのかもしれない。絶罪殺機などという、機動牢獄を上回る武力の存在を想定しない施政を今までずっとしてきたのだろう。
 アーカロトは即座に絶罪支援機動ユニットの底部にある罪業場収束器官から、碧白色の炎を噴射させる。
 急上昇。慣性はまったく感じない。
「オイ逃げるのか? さっきみたいに攻撃かき消せばいいんじゃねえの?」
「無効化できるのは罪業場武装だけだ。尋常な物理学に則った火器ならば、命中する可能性はある。そして当たれば余波だけで僕たちはひき肉になる」
 アーカロトは寝っ転がり、組んだ腕に頭を乗せた。
「まぁ、当たらないけどね」
 瞬間、展開した機動牢獄たちが一斉に攻撃を開始した。
 甲参式の外側の鎖リングがバラバラに分解され、その欠片一つ一つが内側のリングから伸びる砲台の筒先に陣取った。
 直後に眩い光が周囲を灼く。内側のリングから放射状に中性粒子ビームが射出され、待ち受ける鎖の中を通過した瞬間、角度を変えて絶罪支援機動ユニットに殺到。
 無数の光線が収束する一点に、すでにアーカロトたちの姿はない。慣性中立化罪業場によって搭乗員を守った絶罪支援機動ユニットは、おおよそ航空力学を完全に無視した無茶苦茶な機動で光の矢を連続回避する。
 回避先に、電磁加速されたタングステン合金弾のシャワーが待ち受けていた。乙伍式たちによる狙撃だ。機動牢獄のパワーアシスト機能によって、戦車砲並みの火力を個人で携行できる。
 絶罪支援機動ユニットが節足を蠢かせ、罪業ファンデルワールス装甲に対して斜めに敵弾を当て、受け流す。まともに直撃すると損害を受ける可能性はあった。
 次の刹那――地上の甲弐式部隊から撃ち放たれた荷電粒子砲が、回避不可能な散布角をもって殺到。飛散した重金属粒子が迫る。

【続く】

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