神の化石 -ガリュンルガプ博物誌-
最初に言っておく。
この物語は夢オチで終わる。
その上伏線も一切回収されない。
なげっぱなしである。
つまり佐伯、お前が間違いなく不満を覚えるであろう物語だ。
だが、現実なんてそんなものである。
それを、今からわからせる。
心して読め。
しかるのちに凹めばいい。
その博物館には、神の化石が展示されている。
走る電車から眺める外の光景に、忍者もしくはマリオを走らせたことのない奴などいない。
誰もがやる。必ずやる。
窓枠に頬杖を突きながら、僕もまたその種の妄想を逞しくさせていた。
定期的に過ぎ去ってゆく電柱と、その後ろを流れてゆく住宅街。そして背景に鎮座する山々。
たまに塀の切れ目で回転ジャンプする忍者をぼんやり眺めながら、僕はふと疑問を感じた。
――なぜ、手前の物体のほうが速く過ぎ去ってゆくんだ?
大人ならば誰しも簡単に答えられる疑問なのだろうが、当時の僕は子供で、小学生で、佐伯加奈子、お前に授業をまとめたノートのコピーと連絡用紙を届けてやるためにわざわざ電車賃を払ったお人よしのぼんくらだった。
遠くの山と、その前の住宅街、そしてすぐそばの電柱。当然ながら、それらの位置関係は変化していないはずである。それぞれ速度の違うベルトコンベアに乗っているわけじゃない。動いているのは僕の乗る電車だけだ。
にもかかわらず、なぜ僕の目からはそれらが異なる速度で動いているように見えるんだ?
眉をひそめながら考えていると、急に奇妙な現象が目に飛び込んできた。
住宅が流れてゆく手前を、電柱が抜き去ってゆく、その瞬間。
まるでワイパーでかき消されたかのように家屋の群れが消え去り――そこに森が、出現した。
青々とした枝葉の中に、黄金や紅玉色など、無数の色を含んでいる。
色彩の洪水。
混然とひとつの植生の中で調和している。
次の電柱が隣を過ぎ去った瞬間、その絵画めいた森は消え、住宅街が再び姿を現した。
【続く】
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