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絶罪殺機アンタゴニアス 第一部 #61

  目次

「さて、今回は大本命だ。まず間違いなく百二式以降の型番の罪業変換機関を腹に収めている。こいつで最後だ。ようやく計画を次の段階に移行できる」
 剃刀よりも酷薄な目を嗤笑に歪ませ、ギドは端末をこちらに向けた。
 子供たちは一斉に画面をのぞき込む。
「女の人?」
「きれーだねー」
「くそおとななの?」
「そうだよ。こいつは子殺しア~ンド親殺しの役満ビッチだ。生きててもしょーがないクズだし、アタシの計画のために死んでもらうとするよ。名はアメリ。「蛭子喰らい」なんてあだ名で呼ばれている」
 アーカロトは目をすがめる。
「そんな重罪人の情報、〈法務院〉に独占されているはずだ。万に一つも殺されたりしないために。いったいどうやって手に入れた?」
「あ? アタシはお前に自分の交友関係をいちいち報告しないといけないのかい? 女にゃ秘密が多いんだよ」
「卑劣な逃げ口上だな。まぁいい、それで、その〈原罪兵〉はどこにいるんだ」
「〈美〉セフィラ。そこの地方政府である〈教団〉の本尊に収まっている」
「……〈法務院〉が確保していないのか? 親殺しにして子殺しの女を?」
「どうやらその女、「青き血脈」の端くれらしい」
 シアラがびくりとした。
「そいつが自分の意思で〈教団〉のご神体に収まってるってんだから、〈法務院〉としてはどうにも手出しがしづらいみたいだね。いかれた身内一人掣肘できないんだから、あそこも大概宗教狂いじみてるよ」
 そんな〈法務院〉の権威に傷をつけかねないスキャンダル、隠蔽されていないわけがないのだが、ギドの情報網とやらはいったいどういうものなのか。
 ――かつては〈法務院〉の高位の人間だった?
 青き血脈へ見せる異様な殺意は、その時のなにがしかが原因か?
「けっこうな長旅になるな。向こうに拠点確保してんのか?」
「当然だろ、アタシを舐めんじゃないよ。お前が生まれるより前に十のセフィラぜんぶ巡ったっつーの」
 ギドが葉巻を吹かす。
「つうわけで、ガキども、旅支度だ。しばらく〈栄光〉にゃ戻れないからね」
 ざわ、と戸惑う声。生まれて初めて〈栄光〉セフィラを出ることになるのだ。当然、不安にもなろう。
 さっさと立ち去ってゆくギドを尻目に、アーカロトは残された端末の画面をようやく視界に収めた。
 血のような夕闇色の髪を伸ばした、朗らかに笑う娘だった。青き血脈の例に漏れず、人類のイデアじみた美貌だ。黙っていても、何もせずとも、崇拝対象になってしまうであろう神性を帯びた眉目。
 堕ちたる現人神の一柱。
 暗い目の男は、自らの子供が二親殺しを達成することで罪業供給源として上の次元に至る可能性を見せつけられた。
 その目論見を、別の方向で達成した人物。
 親殺しにして子殺し。それはつまり言葉のままの意味の上に、「青き血脈を二人も殺した」という事実すら上乗せされている。
 そのような魂から発現する罪業場がいかなる性質を帯びるのか、アーカロトには正直想像もつかなかった。間違いなく、この時代の人間の中で最も罪深い部類の怪物だ。

【続く】

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