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BranCo!#12 決勝審査員インタビュー【前編】

こんにちは!BranCo!学生スタッフの栗原・羽田です。
「BranCo!」は、博報堂と東京大学教養学部教養教育高度化機構が共催する、“大学生のためのブランドデザインコンテスト”です。課題となるテーマについて様々な視点から調べ、その本質を考え抜き、魅力的な商品やサービスブランドのアイデアをつくりだして競い合う、チーム対抗形式のコンテストです。
今回はテーマが「遊び」であるBranCo!第12回の決勝プレゼンについて、審査員を務められた博報堂BID局(当時)の宮澤正憲さんと竹内慶さんにお話を伺いました。
前編はお二人のこれまでのご経歴やBranCo!決勝の全体総評を伺いました。

インタビューさせていただいた竹内慶さん(左)、宮澤正憲さん(右)

①これまでのご経歴

――現在まで、どのようなお仕事をされてきましたか?

宮澤さん:博報堂に入社して最初の配属はマーケティング局というところに入り、商品開発の仕事をしていました。

そこから、2回目の配属を経て、当時はあまり日本では浸透していなかったブランドを学ぶためにアメリカのビジネススクールに行きました。アメリカで使われていたブランドは、いわゆる広告というよりは、経営としてのブランドという感じだったので、面白いなと。その後、ブランド・イノベーション・デザイン局 (BID)の原型である、ブランドデザインチームを作りました。

―竹内さんは、そのブランドデザインチームに入られたのでしょうか?

竹内さん:そうですね。2003年ぐらいに、ブランドデザインチームに途中からジョインさせてもらって、20年ぐらいブランド系のお仕事に携わっています。

ブランディングのやり方自体を自分たちで開発する、いわば博報堂にとっての商品開発みたいなことをやりつつ、それをクライアントさんに提案して、「これからのブランドにはこういうことが必要だから、一緒にこういうブランド作りませんか」みたいなことをやっています。開発と実行の両方を進めることに面白さを感じながら仕事をしてきました。

②BranCo!決勝の全体総評

―決勝プレゼンをした、6チームの総評をお願いします。

竹内さん:全体的に、インプットとコンセプトまでがとても良くて、ちょっとアウトプットでこぢんまりしてしまった、もしくは広がりすぎてしまったという印象ですね。

インプットに関しては、チームそれぞれが独自の調査手法を使っていて、とても面白かったと思います。例えば、今回のテーマである「遊び」を自分たちなりに次元に分けてみたり(※1)、遊びに見える姿勢の調査をしてみたり(※2)、まさにAI対人間じゃないですけれど、人間のリサーチャーが創造性を発揮するからこそできる調査に、それぞれのチームが挑戦してくれていたと思います。

※1 「ななわたし」チームのインプット
※2 「ミケのおさか〜な」チームのインプット

コンセプトも、着眼点の切り口にシャープさがあるチームが多かったですね。例えば、ドタキャンをする側もされる側も幸せになるブランドを創る(※3)とかは、特に着眼の切り口がシャープで、「実現したらいいな」と期待させてくれるコンセプトでしたね。

※3 「株式会社すいとーと」チームのコンセプト

宮澤さん:アウトプットに関しては、自分が感じた「エモさ」を、カルタを通して共有するという「カタる」のアウトプット(※4)のクオリティが高いと感じました。ただ、アウトプットの全体の総評としては、レベルが高かった前提であえて言うと、実現が難しそうだったり、狭いところに行ったりしたチームが多かった印象がありますね。

※4 「思考咲く子」チームのアウトプット

―「コンセプトの切り口がシャープ」とは具体的にどういったことなのでしょうか?

竹内さん:意外性と納得感の掛け合わせがあることだと考えています。意外すぎると突拍子もなくて、納得感だけしかないのも普通なので。例えば「会いに行けるアイドル」というコンセプトは、それまでは遠くから眺めるものだったアイドルに会いに行けるという、今までなかったとハッとさせる部分と、言われてみればそれがあたかも当たり前だったかのような、普遍性と驚きを両立しているコンセプトです。このようなコンセプトを切り口がシャープだと表現しています。

個人的には特に、リフレームしているコンセプトが好きです。例えば「古い家」ではなくて「味がある家」と言い換えるように、固定観念で変わらないと思われているもののフレームをずらすみたいな、我々の価値観にずらしを作ってくれるようなコンセプトが個人的には好きだし、良いコンセプトだなと感じます。

―今回の6チームは、意外性と納得感のあるコンセプトが良いアウトプットに繋がらなかったということでしょうか?

竹内さん:このコンセプトで、このアウトプットなんだという納得感はあると思うんですよね。ただどうしても、どのチームも自分たちでアイデアを考えるうちに、だんだんそれに思い入れが生まれて、信じすぎてしまうんです。信じるのは大事なんですけど、やっぱりどこかで「これ本当にやるかな」とか、「めんどくさくないか?」とか、立ち止まって考えることが大事なんですよね。ビジネスコンテストではないので、採算性は問わないんですけど、この施設作るのに一体いくらかかって、どうやって回収するみたいなイメージは持っておいた方が良いと思います。

だから、コンセプトからアウトプットへの一貫性という意味での納得感はあるけれど、そのアイデアが実現して、多くの人がそれを使うイメージが湧くかどうかっていう意味では、難しいアイデアもあったという感じですね。

宮澤さん:そういう意味で、アウトプットでは施設やアプリを考えがちですけど、よっぽど中身にこだわりがないと、ちょっと安直に聞こえる感じがありますね。どうしても「遊び」っていうと、「遊ぶ行為」が頭に思い浮かぶ人が結構多くて。物理的に遊ぶ場じゃなきゃいけないと縛られてしまっている人は、アウトプットが遊具とかゲームとかになりがちなので、ちょっと違った切り口から考えてみてもいいのかなって思います。

―インプットやコンセプトが良いのにも関わらず、アウトプットがあともう一歩だったのはなぜでしょうか。

宮澤さん:インプット→コンセプト→アウトプットってやっていくと、ロジックは立つんですけど、「遊び」から離れがちなんですよね。だんだんやっているうちに、 面白いんだけどこれ遊びかな?という指摘を受けるチームが多かったと思います。ただ遊びにどうやって戻そうかなと考えると、やっぱり遊具とか場みたいなものが頭にちらつくんですよね。戻し方をちょっと誤っている感じがします。

本当にアイデアが出ないなら、そもそもコンセプトは面白いが、 アイデアを生まないようなものになっている可能性もあるので、もう1回コンセプトのところを見直してみるといいですね。そこまで戻れると、もうちょっと一貫していいものができたのかなって感じはしています。

③BranCo!優勝へのポイント

―「インプット」「コンセプト」「アウトプット」の間を、行ったり来たりすることが大事なのですね。

竹内さん:そうだと思います。便宜上、リボン思考もインプット・コンセプト・アウトプットってステップ論に見えますけど、実際の仕事の中ではアウトプットしてみて、違うなと思ったらコンセプトに立ち戻ってみることは結構やります。調査も1個だけではなくて、何かを発見してプロトタイプとかを作ったら、それの使いやすさとか受け入れられ方を検証する調査をやったりしたりします。

宮澤さん:やっぱりリニアに考えないっていうのは結構ポイントです。テンプレートに入れると何かコンセプトが出て、そこからアウトプットが出るようなイメージがあるけど、もし本当にそれができるのであれば、AIで十分だと思います。でもそれだと面白いものが出ないってなった時に、あえて戻って行ったり来たりするっていう思考は、人間にしかできないですよね。

だから、まさにブランコのように複合的に行ったり来たりするっていう思考のプロセスそのものがポイントでもあるので、そこをやらないとなかなか面白いアイデアまでは辿り着かないと思います。

―実際のお仕事の中で1回膨らんだアイデアを戻していく作業の時に、気を付けているポイントはありますか?

竹内さん:どこまで戻るかは難しいので、チームでやるときは、大事な部分をピンのように留めておくことを意識しています。インプットで、ここの調査の発見は面白いから信じた方がいいよねとか、このコンセプトはいいなって思ったものは、一旦そこでちょっとピン留めする感覚で借り止めみたいなことをしています。そして、どうもアウトプットが違うぞと思ったら、ここまで戻ろうって。戻ることによって、今まで考えてきたことや、チームが空中分解しないように、どこまでは信じられて、どこまで戻るか、みたいなことを意識しながらやりますね

あと、大丈夫だと思っていた段階のもう一段階前まで戻るということをする時に、良いと思っていた部分を勇気を持って捨てることができるといいのかなと思います

―来年以降、BranCo!に参加する時に気をつけた方がいいポイントは何でしょうか?

宮澤さん:これは毎年ずっと言い続けていますが、ロジックに酔いすぎちゃうと、一見面白いが、やっぱりなんか違うという「風が吹けば桶屋が儲かる」的な話になりがちなパターンっていうのはすごく多いので、そこは気を付けた方がいいと思います。

【後編はこちら

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■プロフィール

宮澤正憲 (Miyazawa Masanori)

博報堂執行役員
東京大学教養学部特任教授/ 立教大学ビジネスデザイン研究科客員教授

東京大学文学部心理学科卒業。博報堂に入社後、マーケティング局にて多様な業種の企画立案業務に従事。2001年に米国ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院(MBA)修了後、イノベーションのコンサルティングを行う次世代型専門組織「博報堂ブランド・イノベーションデザイン」を立上げ、多彩なビジネス領域において実務コンサルテーションを行っている。
また、現在東京大学教養学部にて発想教育プログラム「ブランドデザインスタジオ」を運営するなど、ビジネス×高等教育をテーマに教育活動も推進中。立教大学ビジネスデザイン研究科客員教授 。
『東大教養学部「考える力」の教室』、『「応援したくなる企業・組織」の時代』、『「個性」はこの世界に本当に必要なものなのか』など著書多数

竹内慶(Takeuchi Kei)

博報堂生活総合研究所 所長補佐
立教大学大学院ビジネスデザイン研究科客員准教授

2001年博報堂入社。マーケティングリサーチ、コミュニケーション戦略、商品関発等の業務を担当した後、博報堂ブランド・イノベーションデザインに創設期から関わり、2004年より所属。「論理と感覚の統合」「未来生活者発想」「共創型ワークプロセス」をコンセプトに、さまざまな企業のブランディングとイノベーション支援を行っている。アルスエレクトロニカとの協働プロジェクトでは、博報堂側リーダーを務める。著書に『ブランドらしさのつくり方』(ダイヤモンド社/共著)等


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