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【BranCo!の漕ぎ方 #3 OUTPUT編】魅力的なアウトプットのつくりかた

こんにちは。昨年度優勝者/学生スタッフの内山です。『BranCo!の漕ぎ方』も第三回。ついに最終回のOUTPUT編です。

今回来ていただいた審査員は、第二クリエイティブ局のコピーライター/プロダクトデザイナー/テクノロジストの髙橋良爾さん。早稲田大学建築学科在学中にデザインプロジェクト「VITRO」を結成し作品を発表。グッドデザイン賞ベスト100やCNET JAPAN Startup Award、小野梓記念賞芸術賞を受賞しています。2015年に博報堂に入社し、TVCMから商品開発まで幅広く担当。BranCo!2014のブロンズ受賞者でもあります。

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今回は髙橋さんに、コピーライティング・プロダクトデザイン・テクノロジーという三つの視点からアウトプットについてお話していただきました。
今回も博報堂ブランド・イノベーションデザインの岩佐数音さんに参加いただいています。髙橋さんとは学生時代からの知り合いだったそうです!


三足のわらじの反復横跳び

内山:
自己紹介をお願いできますか。

髙橋:
髙橋良爾です。「爾」の字が難しいです。もともと早稲田大学建築学科在学中にデザインプロジェクト「VITRO」を結成して、照明装置「Dew」や、えんぴつの万歩計「Trace」、世界最小級のArduino「8pino」などの作品を発表したりしていました。それと、ミラノサローネやSXSWなどの展示会に参加して、作り手、買い手、売り手と直接話す、ってことをやっていました。

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えんぴつの万歩計 Trace

もともと博士課程に進もうと思っていたんだけど資金難に陥って、BranCo!に出場したのがきっかけで博報堂を知り入社することになったんだよね。BranCo!で優しい社員と会って、「ここなら生きていける!」って思って。今はクリエイティブの部署で、スタートアップのリクルーティングのサイトを作ったり、ゲームソフトの企画・制作からプロモーションまで手掛けたり。

内山:
職種がコピーライター兼テクノロジスト兼プロダクトデザイナーとのことですが、ここまで幅広く活動されている人はクリエイティブの中でもあまりいないんじゃないでしょうか。

髙橋:
そうだね。テクノロジー系の企画のときに、特許申請を僕がやることもあって。これはテクノロジストとしてだね。ゲームソフトつくったりUIつくったりはプロダクトデザイナーとしてだし。広告とかの文章を考えるときはコピーライターだし。常に反復横跳びというかんじ。

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岩佐:
ちなみにBranCo!に出てきたときは「みゅん」の案を出したんだよね。

内山:
ボヴェさんも桃井さんも「歴代で一番良かった!」と言ったあの案ですね


30点のものをさっさと出してみる

内山:
早速ですが、アウトプットのコツについて教えてください。

髙橋:
僕はプロダクトデザインっていうバックグラウンドもあって、「30点のクオリティーのものをさっさとつくってみる」ということは意識してるかも。1つの発見から3つくらい仮でアウトプットを作ってみて、人に見せる。人からの反応をみることで徐々に焦点距離を合わせていく。みたいな感じ。でも僕がこっちのほうが性に合ってるというだけで、このやり方が絶対正しいということはないと思う。

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内山:
プロトタイプをつくって、検証をして改善させていく、という流れはデザイン思考の考え方ですね。人に見せる際のコツはありますか?

髙橋:
これは「何が良い案か」という話につながると思っていて。そもそもブランドデザインにおける良い案とは、「アイデアを選別してくれるフィルターになる言葉(=コンセプト)を体現できているか」だと思う。
それを前提としたうえで、アウトプットの良いか悪いかは、3軸あると思う。
1つが、愛されるか。2つ目が、役に立つか。3つめが、噂になるか
どれか1つでも強く満たしているものが、良いアウトプットなんじゃないかな。

一つ目、愛されているかを検証するのは、人の顔をみれば一秒でわかる。「あ、この人この商品全然気に入ってないな」って。
二つ目、役に立つかはお母さんに聞いてください。「それスーパーで似たようなの買えるよね」とか、クリティカルなフィードバックがもらえると思う。やっぱり家計を司ってるのは大きいよね。リアルな金銭感覚があるから。
三つ目、噂になるかは簡単。TwitterにあげてRTされるかどうか。ちなみにぼくは一度もバズったことありません(笑)。

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内山:
なるほど。3つの軸で検証していくんですね。

岩佐:
こういうのって、建築だったりプロダクトデザインをやっていた経験が活きているの?

髙橋:
展示会に出品していた経験がすごい活きてる。展示会って、実際に手に持ってもらったときの表情を見れるからいいよね。口では「いいですね」って言ってるけど全然気に入ってないのがわかっちゃったりとか。それと、展示会って子どもからおばあちゃんまで、本当に色々な人が来るんだよね。ターゲット以外の人も来るからこそ、意外な視点での感想がもらえる。「こんな小さな光で意味あるの?」とか「これすぐ壊れそうじゃない?」とか。自分が目的にしてないこともバンバンツッコまれる。でもそのときに、目的にしてなかったことに気づかされる。そうすると「自分はこれを照明だと思ってたけど、切り口を変えれば全然違う存在になれるのかもしれない」ってなって、アウトプットの解像度が上がる。そういう意見はかなり貴重。

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岩佐:
業務で受容調査をするときはターゲットにしか話を聞いてなかったな~。新作のパソコンの受容調査だったらサラリーマンだけ、とか。子どもに話を聞くことってまずない。

髙橋
このプロダクトがどういう面でみられているのかを再発見するという意味で、いろいろな人に見せるということはおすすすめ。

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線香花火のような照明 dew

ブランドデザインは「常識の否定」ではなく「常識をズラす」

内山:
これまではクリエイターとしての髙橋さんへの質問が多かったので、今度はBranCo!審査員としての髙橋さんに質問します。いままでBranCo!を審査する中で、記憶に残っているアイデアはありますか?

髙橋:
実は一次予選の審査員はやってるけど二次予選以降はあまり毎年見てないんだよね(笑)。
でも去年の「逆秘密」は、一次のときにブランドに広がりそうな感じがしてよかったかな。

岩佐:
え、一次の審査員って髙橋くんだったの?

内山:
そうなんですよ。

髙橋:
僕はブランドというものを、再現性があるか、複数の商品に一気通貫する思想があるか、って視点で見てる。そこの考え方は建築に近いかも。一人でドアからトイレから配管から何やらって設計することはできないけど、「私が達成したいことはこれです」っていう共通認識をつくることで、みんなで作れる。それは商品も一緒で、コンセプトの軸がフィルターとしてあって、そこを通してアウトプットをつくっていく。そういう意味で、「逆秘密」という概念は強かったし、そこから色々広がっていきそうだなって思った。だからこそ一次のアウトプットはあれじゃないって思ったけど。

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岩佐:
一次は違ったん?

内山:
傘の内側を「秘密」、外側を「逆秘密」に見立てて、のブランドを提案しました。

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髙橋:
「逆秘密」がよかったのは、名詞×名詞なところだと思う。形容詞×名詞はただ修飾してるだけなんだよね。「優しい世界」とか。でも名詞と名詞を掛け合わせることで、みんなの常識とはズラせたコンセプトになった

逆秘密フィルター

この「常識をズラす」っていうのは建築的な考え方なんだよね。アドルフ・ロースって人は、彫刻を大理石の模様に置き換えたり。ミースって人は石の積み上げをガラスにしてみたり。
「常識の否定」だと、そこにマーケットがなかったら話題になっておしまいになることが多い。広告はそれくらいやったほうが目が引けていいと思うけど、ブランドデザインはそれではダメだとおもう。「人はご飯を食べる」を否定して「いいえ、食べません。食べない人のためのブランドです」は厳しいでしょ(笑)。「本当の気持ちはこうだよね」ってちょっとズラしてあげることが、建築だったりブランドデザインで重要なんじゃないかな。

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世界最小級のArduino 8pino


編集後記

今回は、学生時代から様々な作品を発表してきた髙橋さんだからこその視点で、ブランドデザインについて話してもらいました。とりあえず仮でアウトプットをつくってみて、そこから人に見せることで徐々に精度を高めていく、というやり方は、BranCo!だけでなく様々なクリエイティブに応用できそうです。是非皆さんも、アイデアを考える中で迷ったときには、髙橋さんのお話を参考にしてもらえればと思います。


今回『BranCo!の漕ぎ方』を連載するにあたって、お話を聞かせていただいた津田さん、桃井さん、髙橋さんはもちろんのこと、岩佐さんをはじめとするBranCo!運営社員の方々、拙い原稿の確認をしていただいた広報室の方々など、多くの人に手伝ってもらってインタビューを公開することができました。本当にありがとうございます。

最後に出場者の方に向けて、連載を読んでくださり本当にありがとうございました。この連載が少しでもBranCo!に挑戦する際に糧になれば幸いです。

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髙橋良爾(たかはしりょうじ)
第二クリエイティブ局 コピーライター/プロダクトデザイナー/テクノロジスト

早稲田大学創造理工学部建築学科在学中、課題の評価がCばかりで「学外でがんばってみよう!」と思い、2011年にデザインプロジェクト「VITRO」を結成。照明装置「Dew」や、えんぴつの万歩計「Trace」、世界最小級のArduino「8pino」などを発表。自分で悩むより、他人に聞いたほうが早いし楽しいという気持ちから、2013年よりミラノサローネやSXSWなどの展示会に参加。2015年博報堂入社。コピーライターとしてTVCMから商品開発まで行う。BranCo!の審査では、内山くんのコンセプトに満点をつけつつ、その傘はいらないかなと思った。
岩佐数音
ブランド・イノベーションデザイン イノベーションプラナー

東京大学教養学部卒/同大学i.school修了/同大学大学院情報学環教育部修了。博報堂ブランド・イノベーションデザインにて、未来洞察を起点とした事業開発・街づくり、エスノグラフィーを活用した機会領域策定、ブランド開発などに従事。
内山
BranCo!2020優勝。一次予選のあと、髙橋さんに「良いアイデアだけど生理的に受け付けない」といわれる。


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