仕事とは?『タイタン』を読んで

野﨑まど 著、『タイタン』(講談社タイガ)を読みました。ここではネタバレを
避けるため、内容には触れていません。一応、本の外観から得られる情報は以下の通り。

タイタンと総称される12機のAI に全てを委ね、(ほぼ)全ての人類が《仕事》から解放された未来のユートピア、仕事に疲れた第2AI オイコスと、心理学を嗜む主人公、内匠成果が旅をする話

文庫版の外から読み取れる情報(帯を含む)

まずは著者、野﨑まどについて。この作家、一部ではそれなりに有名なのですが、典型的な知らない人には掠りもしてないタイプなので、少し紹介を。第16回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞受賞作『アムリタ』でデビューしています。ここまでで、「ラノベ作家かいっ!」って思いました?ある年齢層以上には、ラノベ=若年層向けの、表紙にマンガ絵が描いてある、タイトルがやたらと長い説明調で、剣と魔法が出てきそうで、なにかと異世界転生しそうで、登場人物らが喋りっぱなしで読みやすいけど内容が薄っぺらい小説の総称(読んだこと無いけど)→読むに値しない、と言うイメージを持っている方も少なくないでしょう。そんなの読んでいる暇があったら、漱石とか芥川を読め、と苦言を呈する方もいるかも知れません(谷崎や太宰を薦める人は少ない気がするのは何故ですかね 笑)。

純文学を崇高なものと考える人は一定数いるようですが、個人的には読書は所詮、趣味・娯楽だと捉えているので、読みやすいの最高じゃん、と思っています。当時の漱石とか芥川も、現代における村上春樹的な位置付けだったと想像しています。ノーベル文学賞を受賞した川端康成の作品だって表現力はどうあれ、娯楽小説でしょう?楽しんで読んでたら、それは全て娯楽なのですよ。

とにかくラノベだ。

ラノベの明確な定義は無いようです。それは他のジャンルとの融合が激しく、切り分けが難しいからのようです。それ故、「ラノベ?」というものまで含めれば現在、極めて多くの作品が出版されており、最も競争の激しい領域です。勝ち抜くのは大変なのですよ。そして玉石混淆でもあります。

野﨑まどが書く小説がラノベなのかはさて置き、その作品の特徴は衝撃的な描写もさることながら、既視感を感じさせない設定の新奇性にあります。そして、それらは単に奇を衒っただけのものではなく、著者が描きたかったものを浮かび上がらせるためには必要なものだったのだと納得させられます。さらには、その突き抜けた設定にリアリティーを与えるための言葉選びにも注目です。それは恰も、最先端の技術が新しい言葉を創出していくように。

SFの衣を纏わせてはいるものの(他のジャンルも書いていると思います)、その作品は哲学的でさえある気がします。僕がこれまでに読んだ野﨑まど作品は、『know』(ハヤカワ文庫JA)、『バビロン』(講談社タイガ、シリーズ3巻まで刊行中)、そして『タイタン』です。それぞれ「死後」、「自死(の権利)」、そして「仕事」がテーマとなっています。何か気づきませんか?そう。人にとって普遍的な題材であると共に、これらは奇しくも精神疾患を患っている者が思い悩みやすい事柄です。

普遍的な題材について掘り下げつつ、一流のエンターテインメントに仕上げる技術には驚かされます。そこには事前の徹底した情報収集があるようです。サービス精神旺盛な人らしく、どの物語も中盤は盛大に盛り上げてくれます。ただその勢いに乗って、終盤に「奇跡が起きて大団円」を迎えたりはしません。意外なほど現実的かつ、地味で静かな結末を用意してくれます。その点、予定調和的な安心感を求める方には不向きな作家ではあるかも知れません。いつも同じもの食べてたら飽きるでしょ。たまには変わったものも、いかが?

この記事、タイトルがほぼ「釣り」ですね。「仕事」についても、『タイタン』についても全然書いてない 笑。でも、これでネタバレは、ほぼ完全に防げたはず。

ご興味を持たれた方は『タイタン』、是非ご一読を。

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