ダンス・ダンス・ダンス Dance dance dance

 村上春樹さんのファン(村上主義者)としては『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』は好きな作品群です。その先にあるのが『ダンス・ダンス・ダンス』です。未読の方のために多くは語りませんが、単独で読んでも充分興味深い作品です。
 個人的には、主人公の「僕」と同じようなライター稼業をしていた、当時の私にとっては「文化的な雪かき」という意味合いは他人事ではありませんでした。全体の印象としては寒い北海道と暖かなハワイとの対比が際立ち、主人公の中学時代の同級生(五反田君)の哀しさに惹かれます。
 この作品には、脇役ですが作家(牧村拓)が登場します。この作家は、青春小説作家から突然実験的前衛作家に転向して冒険作家となります。ウィキペディアによれば牧村拓(MAKIMURA HIRAKU)は村上春樹(MURAKAMI HARUKI)のアナグラムだそうです。「神戸で行われた村上の自著朗読会の場で、村上作品英訳の研究者の塩濱久雄がこの件に関して質問すると、村上自身がそれを認めた」との記述があります。「なるほど、そうなんだ」と思うとともに「神戸で行われた村上の自著朗読会の場」に私もいたのに、そのやり取りを聴いていたはずなのに、何も覚えていない自分の記憶力のなさに驚きます。
 牧村拓のモデルは開高健だといわれていますが、そういわれる前から、そうだろうなとは感じていました。青春小説作家・前衛作家・冒険作家として変化し続けるのも大変だろう、とただの読者である私でさえも思います。また、作品の中で開高健が言いそうなことを、牧村拓が言っているのも面白かったです。
 私はコピーライターを目指す若者だったころ、作家以前のコピーライター開高健に、過去の「名作コピー集」の中で出会っています。壽屋(サントリー)宣伝部でのPR誌『洋酒天国』の編集やトリスウイスキーのキャッチコピー「人間らしくやりたいナ」で、コピーのありようや広告のライティングを学びました。
 『ダンス・ダンス・ダンス』、牧村拓、開高健、若き日のコピーライターとしての自分、それ以前の自分。一つの作品を読むことで、懐かしい自分に出会うことができる。そういう意味でも、小説の持っている開かれた(開いていく)力を感じます。

追伸

 先日、私は記事の中で開高健の「悠々として急げ」という言葉を引用しました。うれしいことに好意的な反応がありました。同名本(開高健対談集)を再読して、開高健の魅力を再認識したいと思っています。何か再発見できたら、また記事を書きます。

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