見出し画像
  2020年の7月になった。最近は自動販売機ビジネスが好調で来月辺りにウーバーイーツを買収しようと考えている(中略)冗談はさておき、我々は今、こんがらがっている。レインボースプリングの末路のようにね。ハハハ、冗談はさておき、おっと、もうこんな時間だ、電車に間に合うように身支度を……なんだい? なんでもないのかい? ハハハ、時間は有限だ。正直言って今のは時間の無駄だった。君は我々と同行し陳謝すべきだ。そして人生について語らおう。いかんぞ、このままじゃ間に合わんぞ、我々はかなり慌てている、慌てざるを得ないが、いや、そうだな。諦めよう。君の言う通りだ、ハハハ。アメリカンコーヒーを一、二杯飲みながら慌てふためいていた先ほどの我々の滑稽さについて語らおう。お、雨だね。雨は好きかな? ほう、好きなのかい。では、どれくらい降ってほしいのかね? さあ遠慮はいらんよ、どれくらいだね? 海になるまで? ウハハハ、それは結構だ! 大陸が沈んでこの星は水浸しになるわけだ。そうなると我々はどうすべきか。いや、どうなるべきか。答えは一つ。エラ呼吸を覚えるしかないのだ。我々は魚類のように海中で生き長らえる。なーに、心配ご無用。哺乳類であることを誇っている方々には、酸素を大量に蓄積できる身体を手に入れ、鯨のように生きていく道を示そう。あるいは貝やタコやクラゲや……寿司が食べたくなるね、この話はやめておこう。さて、我々は、え? 雨は嫌い? 嘘をついた? ハハハ、君、変なところで嘘をつくんだね。天気の話題なんだ、正直に答えても良いのではないかな? 何? 我々が嘘ついたから、やり返した? ハハハ、なるほどな。だが故意でなかったんだ、許して欲しい。あまりにもアメリカンコーヒーと冷麦のつゆが似ていたもので、おっと、頭を深々と下げている、我々は今、頭を120度下げて精一杯謝罪しているのだから、君も、精一杯に我々を許すべきだ、そういう世の中こそ美しいというものではないか、うわっ、冷麦のつゆを我々の深々と下げた頭の上にこぼさないでもらえるかな、とても冷たくてたちまち風邪を引いてしまいそう、え? 本望だって? ハハ、それはひどいね、ハハ、それはひどい、相当ひどいよ、君、それはない、マジでないわ。我々がもし風邪をこじらせたら、どうするんだね? 君にも伝染る可能性が十分あるんだ、よく考えてみてごらんなさい。いいかい? 一人一人、そう、一人一人、総勢20人の我々を数えてごらん。一人、二人、三人と、数えていくうちに、だんだんと危険性を感じて、今日は風呂は入らず暖かくして早く寝たい、という気持ちになってくるだろう? うわぁっ、冷たいよ! 君! 冷たいって! 冷蔵庫新品だから! すげぇ冷えるんだって野菜室! やめっ、やめんか! これ以上を我々を怒らせない方がいい。なんでかって? 教えるわけねーだろ、おっと、冷麦のつゆはもう無くなったようだな? ハハハ、哀れ哀れ。君、哀れだよ。待ってあげるから床掃除しなさい。ほら、待ってる。我々、皆で待ってるから。あー最悪だわ。ほら、早く掃除しなさい。君のせいでこうなったんだから。あーあー、梅雨だからって冗談よしてくれよ、本当に最悪だ、びしょびしょじゃないか。これじゃあ、ゆっくりできないよ。そうだよ、当たり前だろう! これじゃあ冷麦食えないだろう! もう空っぽだろう、それ! 掃除終わったら買ってくるんだ、いいな? 雑巾で吸い上げたの絞ってバケツに入れても無駄なんだ。君は馬鹿なのかね? 我々の頭にかけたのだから……もう、これ以上くだらん説明をさせないでくれ。風呂に入ってさっぱりしてくるから、君は、そのまま掃除を続けるんだ。いいね? あと、終わったら買い物だ。いいね? 首を左右に振る、それはNOを意味するのだと君は知らないようだな、ハハハ、マジワロタ。我々のなかにはさっきから殺気立っている者がいる。冗談ではない。命が惜しければ新築同然の綺麗な床を我々に見せ、その床の上で土下座をし、床を舐め、つゆの味がしないか確かめるんだ、いいな? 我々は20人いる。そして一人の平均入浴時間はおよそ20分だ。計算はできるな? ハハハ、慢心が顔に顕れているぞ? 一つ忠告しておいてやろう。この一人の平均入浴時間はおよそ20分というデータはかなり古い。少なくとも五年以上前のものだ。ハハハ、動揺を隠せないようだな? そうだとも、今年の我々の入浴時間がどうなっているのかは気になって仕方がないだろう。ハハハ、急げ急げ。狼狽えている暇があったら、手足を動かすべきだ。さて、我々は風呂場へ移動するとしよう。おっと馬鹿な真似はやめておくんだ。我々全員が風呂場へ移動するわけではない。我々のうちの何人か、そう、さっき言っていた殺気立っている者たちが、君の行動を監視する。逃げようなどというハッピーハッピーな考えは今すぐに改めるべきだな。ハハハ、そうだ、ハハハ。床掃除は楽しいかね? ハハハ、ちゃんと、ソファの下も綺麗に拭くんだ、いいね? いや、飛び散ってないかは拭かないことに分からないだろう。いや、拭くんだよ。ソファの下も玄関も便所も窓際もキッチンも全部だ!いいね? 首を縦に振るんだ、もう一度訊ねよう、いいね? キッチンもきっちんとやるんだ。いいね? 何を寝ぼけたことを言っているんだね。全部君のせいなんだよ、分かるかい? 分かるね? 分かるね? うん、分かるね? 分からないのかね。おや、晴れてきたようだね。ハハハ、よかったではないか、君は雨が嫌いなんだろう? え? 本当は好き? だから、嘘ついていない? じゃあ、なぜだ、なぜ、我々に冷麦のつゆをかけたのだ、やり返したんだろう? 我々の故意でないミスを断罪すべく、は? なんとなく? なんとなく我々につゆをかけたのかね? なんとなく、空にするまでやったのかね? ハハハ、そうだったのか。では、こういうことだ、我々は誤ってアメリカンコーヒーと冷麦のつゆを間違った、そして、君は、なんとなく、冷麦を我々にかけた。これで正しいね? ハハハ、首を縦に振ったねぇ。初めてみたよ、ハハハ。では、全部事故だった、というわけだ。いや、そうだったか、これは実に平和な物語だ。そうだろう? 誰も悪意を抱いていないのだから。ハハハ、そうかそうか、これは愉快だ。ハハハハハ、すこぶる愉快だ。なんだね? 床掃除? ハハハ、続けたまえ。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?