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汚れなき人 第6話:匂い
スタッフ「お疲れさまでした。」
ゆづ「高木さん」
高木「お疲れさまです。」
ゆづ「今日一緒に帰りませんか?私好きなラーメン屋があるんですけど、一人では入りにくくて、、」
高木「いいですね!是非連れてってください」
高木さんは、うちの院では一番人気の整体師だ
背も高くて、声も良い、顔も綺麗な顔してる
だけど、夏でも絶対に長袖を着ていたり、やたら肌の露出が少ないのがちょっと気になっていた
高木「柚子の匂いだ」
ゆづ「さすが!分かります?ここのラーメン柚子を使ってるんです」
高木「凄く美味しいです!連れてきてくれてありがとございます」
ゆづ「とんでもない、私のわがままにいつも付き合ってくれてありがとうございます」
高木「菅野さんはとても素直な人ですね。」
ゆづ「そんな事ないです。自分の事しか考えてないだけです。」
高木「ぼくは菅野さんが準備してくれた部屋で詐術するのが好きなんです。シーツもタオルもいつも暖かくていい匂いがするんです。菅野さんの気配りを凄く感じます。」
ゆづ「そんなとこ気づいてくれるんですね、わたしにはまだそれぐらいしか出来ないので。高木さんの詐術は本当にすごいです。無駄のない動きで力加減も絶妙。」
高木「いやいや。全然ですよ。ぼくはハンデがありますからね。これしか出来る事がないんですよ」
ゆづ「高木さんは」
私はいつも長袖を着ている事を聞こうと思ったけど、辞めた
まだ踏み入れちゃいけない領域な気がした
店の客「あれ?ゆず?ゆずだよな?」
ゆづ「??」
うわ。お店の時の客だ。無視無視。
客「急に店辞めたって言われたからビックリしたよー。お前にいくら貢いだと思ってんだよ。」
ゆづ「人違いです。すみません。お会計お願いします」
客「おい!無視すんなよ。金返せよ」
男が、私の財布を無理やり奪い取ろうとした
ゆづ「ちょっとやめてください」
その時、その男を壁に押し付ける高木さんの姿が目に入る
男「痛ててててててててて」
高木「どなたか存じませんが、女性に手をあげるのはどうかと思います。」
男「手だしてねぇし。俺はただこの女と話しをしようとしただけだよ。痛えなぁ離せよ。」
高木「お店の方にも迷惑になりますから今日は別のところで食べてはいかがですか?」
男「わかった、わかったよ。」
男「ごめん。あの時ゆずに貢いだ事を後悔してるわけじゃない。無視されて悲しかったからカッとなった。」
ゆづ「こちらこそごめんなさい。荒井さん今までありがとございました。良かったら身体の疲れ解しにきてください」
荒井「覚えててくれたんだ。整体?指名するよ」
ゆづ「お待ちしてます」
(店を出る)
ゆづ「さっきはありがとうございました。高木さんあんな事できちゃうんですね、、何かやられてたんですか?」
高木「合気道を少しだけ。ちゃんと話せたら普通の方だったみたいで良かったです」
ゆづ「はい。本当は荒井さんが怒るのもわかるんです。昔のわたしは今とは全然違くて、男の人をお金にしか見えてなくて。ただお金を貯めることだけが生き甲斐にしてきたので、随分酷いことも最低な事もしてきました。」
高木「お金は生きるために必要です。ぼくは、、ぼくも同じようなものです」
ゆづ「いやいや。高木さんとは全然違います。高木さんはどうして整体師になろうと思ったんですか?」
高木「目が不自由なぼくがつける職業には限りがありましたし、専門技術になるので、極めるならこれしかなかったんです。言ってしまえばこれしか選択肢がなかったんです」
ゆづ「この世の中は平等じゃないですもんね。合気道も護身術ですか?」
高木「ただでさえハンデを背負ってますからね。いざというときに迷惑をかけないようにしたかったのと、、大切な人を守れるようにです。」
ゆづ「大切な人、、いるんですね」
高木「いや、今はもう。」
ゆづ「彼女さんですか?」
高木「いえ、母です。」
ゆづ「あ、お母さま」
高木「と言っても血は繋がってなかったんですけどね。ぼくは生まれてすぐ障害があることが分かると実の母は子育てを放棄して、子供が出来なかったおばに引き取られました。叔母はぼくを本当の子供のように愛してくれました」
ゆづ「そうだったんですね、、あのー言いたくなかったら全然言わなくて良いんですけど、もしかして身体の露出を控えてますか?」
高木「半袖着ないからですか?」
ゆづ「はい、あ、でもやっぱり答えなくても良いです」
高木「ぼく、、肌を女性に触られるのが苦手なんです。」
ゆづ「え?」
ビックリした。私とちょっと似てる
そのくせ自分は触る仕事をしている。っていう皮肉さ
ゆづ「ああ、、、、これも答えなくても良いんですけど、もしかしてトラウマがありますか?女性にたいして」
高木「、、、菅野さんもですか?」
ゆづ「わたしは、、、かなり特殊ですけどね。幼い頃から家にしらない男性はよく出入りしてて、母が出かけているときに男性に体を触られたりはよくしていました。普通ならトラウマになるんでしょうね。でも生きていく為に自分を自分で商品化したので、そうすると不思議と割り切れて、どんなに汚いやつとでもどんなに最低なクズとでもお金さえもらえればなんでもしました。いつの間にか真っ黒になってました。すみません。こんな事ドン引きですよね。」
高木「菅野さんは綺麗です。見た目だけじゃなく、中身も。とても綺麗です。だけど、ぼくには自分をわざと傷つけているようにも思えます。」
ゆづ「それもあるかもしれません。だけど、信じてくれないかもしれないですけど、完全には許してなくて。私まだバージンなんですwそこだけは死ぬ気で守ってきたんです」
高木「愛してる人がいるんですね」
ゆづ「高木さんってエスパーなんですか?どうして分かったんですか」
高木「頑な意識が感じられたので、多分誰かの為じゃないとそこまで強い覚悟にはなれないんじゃないかなと」
ゆづ「いつ会えるか分からない人なんですけどね。高木さんは、、、」
高木「ぼくの叔母はぼくの事を本当に愛してくれました。だけどある時その愛情が普通とは違う愛情だと気づいてしまった。それでも子供ながらに叔母の歪んだ愛情を一生懸命受け入れようとしました。だけど、、大人になればなるほど身体は正直で、、、ぼくは結果的に叔母を酷く傷つけてしまったんです。」
ゆづ「それって、、」
高木「その頃近所に住む同級生の女の子がいて、その子に見られてしまって。誰かが通報して、ぼくは高1の時に施設に預けられました。そこから叔母には会っていません」
ゆづ「会いたいですか?」
高木「分かりません。多分あの人はぼくを恨んでるでしょうから」
ゆづ「そんなこと、、」
愛情表現ってなんなんだろう。
ただ私たちは愛されたかったし、愛したかった。その愛情に答えたかっただけなんだ
ゆづ「高木さんの事を心の底から愛してくれる人きっといると思います。おばさんではなく、きっと別のだれかです。」
高木「、、、」
ゆづ「もう解放されても良いと思いますよ。その叔母さんの呪縛から。私も高木さんには幸せになってほしいです。そんな人に出会ってください」
高木「、、、初めて菅野さんに会って時柚子の匂いがしたんです」
ゆづ「あ、私しつこいぐらい柚子が好きなんですよ。結局自分大好きで恥ずかしいんですけど」
高木「汚れなき人。」
ゆづ「え?」
高木「柚子の花言葉です。愛していたと思います。この名前を菅野さんにつけた人は、ゆづさんの事沢山愛してだと思います」
ゆづ「あ、ありがとうございます」
どうして、、
どうして私が一番欲しかった言葉を言ってくれるんだろう
ゆづ「お互い幸せになりましょう。触れたいと思える人にいつか出会えるように。」
高木「はい」
私たちはお互い背負ってきた過去をなんとなく話した
高木さんが人とある一定の距離を置いていた理由も分かったし、人はみな何かを抱えながら傷つきながら、それでも頑張って踏ん張って生きているんだなと改めて思った
高木さんの目がもし見えていたら
高木さんは今頃実のお母さんにきちんとした愛情を受けて育てられて、トラウマもなく、普通にモテた人生だったんじゃないかなって思う
目で見えてる世界なんて所詮一部だ
私は高木さんには本当に幸せになってほしいと思った
だから私も、、、
ねぇ先生、先生は私と出会った事後悔してる?
私は先生と初めて喋った日の事をよく思い出すの
まだ何も知らなかった唯の先生と生徒だった時のことを
ごめんなさい
でもやっぱり会いたいよ