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量子計算学習ノート

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量子コンピュータと量子通信 (オーム社) の読書ノートです。
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#線形代数

量子計算学習ノート - 極分解と特異値分解

この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。 線形オペレータの一般的な性質についてはこれまでで十分議論できていないが、極分解と特異値分解を用いることで、線形オペレータをユニタリオペレータと正のオペレータで表現することができる。ユニタリオペレータと正のオペレータについてはある程度性質が理解できているので、線形オペレータ全体の理解の助けになるだろう。 まず、極分解は次のような定理だ。 これを証明しよう。今、$${J=\sqrt{A^*A}}$$と

量子計算学習ノート - 交換子と反交換子2

この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。 この記事では前回定義した交換子と反交換子の性質を見ていく。 これは定義からほぼ自明なので、証明は避けよう。 これは $$ [A, B]^* = (AB - BA)^* = B^*A^* - A^*B* = [B^*, A^*] $$ となるためだ。 右辺を計算するとわかりやすいだろう。 $$ -[B, A] = - (BA - AB) = AB - BA = [A, B] $$ これは$

量子計算学習ノート - 交換子と反交換子1

この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。 2つの線形オペレータの重要な性質を多く導く交換子と反交換子について定義しよう。 2つの線形オペレータ$${A, B}$$が与えられたとき $$ [A, B] \equiv AB - BA, \quad \{A, B\} \equiv AB + BA $$ と定義される線形オペレータをそれぞれ交換子、反交換子という。 交換子$${[A, B]}$$が$${0}$$のとき、線形オペレータ$${A,

量子計算学習ノート - オペレータ関数1

この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。 ここからはオペレータに作用する関数について議論しよう。 まずは正規オペレータを変数にとって正規オペレータを返す関数を考える。このために正規オペレータのべき乗を議論しよう。 正規オペレータ$${A}$$がCONS$${\{|e_i\rang\}}$$によって$${\sum_i a_i |e_i\rang\lang e_i|}$$とスペクトル分解されているとすると、正規オペレータの$${k}$$乗は次

量子計算学習ノート - テンソル積3

この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。 ここまででベクトル、線形オペレータのテンソル積が定義された。だがこれらは抽象的なヒルベルト空間上の議論だったので、具体的に取り扱うには表現行列を考えていく必要がある。そのためにはクロネッカー積というものを導入する。 任意のサイズの行列$${M_A=(a_{ij}), M_B=(b_{ij})}$$が与えられたとする。それらのクロネッカー積$${M_A \otimes M_B}$$とは以下のように定義

量子計算学習ノート - テンソル積2

この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。 前回の記事ではベクトルのテンソル積とヒルベルト空間のテンソル積について議論した。この記事では線形オペレータのテンソル積について説明する。 $${V, W}$$をヒルベルト空間とする。そのテンソル積$${V \otimes W}$$上の線形オペレータとはどのような形をしているだろうか。$${V, W}$$のCONSをそれぞれ$${\{|e_i\rang\}, \{|f_i\rang\}}$$としよう。

量子計算学習ノート - テンソル積1

この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。 この記事では複数の量子系を1つの系として扱うときに利用するテンソル積を定義する。 テンソル積を定義するために、まず双対空間という概念を導入しよう。いつも通りヒルベルト空間を$${V}$$とする。$${V}$$の双対空間$${V^*}$$とは、$${V}$$上の線形汎関数の集合のことを言う。線形汎関数とは $${f: V \to \mathbb{C}}$$のうち線形なもの、つまり、$${|v\rang

量子計算学習ノート - 線形オペレータの性質

この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。 前回の記事では正規オペレータのスペクトル分解について述べた。この記事ではスペクトル分解をふんだんに利用して、各オペレータの役立つ性質を確認していく。 射影オペレータの性質射影オペレータ$${P}$$が与えられて、対応する固有空間を$${W}$$とする。$${W}$$のCONS$${\{|w_i\rangle\}}$$とすると、$${P = \sum_i |w_i\rangle \langle w_i

量子計算学習ノート - スペクトル分解

この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。 これまで種々の線形オペレータを紹介してきたが、この記事では正規オペレータの非常に重要な性質であるスペクトル分解定理について紹介する。 まず、対角化可能であったときに正規オペレータであることを示す。対角表現によって、$${A^*}$$は以下のように表現できることになる。 $$ A^* = \sum_i \lambda^* |e_i\rangle \langle e_i| $$ よって、以下が成り立

量子計算学習ノート - 様々な線形オペレータ

この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。 特別な線形オペレータであるエルミートオペレータ、そしてその中でも重要な射影オペレータについて見てきたが、その他にも重要な線形オペレータはいくつかある。この記事ではそんな線形オペレータたちを紹介する。 まずは正規オペレータである。次の性質を満たす線形オペレータ $${A}$$を正規オペレータという。 $$ AA^* = A^*A $$ 定義により、エルミートオペレータは必ず正規オペレータである。

量子計算学習ノート - エルミートオペレータ2

この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。 前回の記事では射影オペレータの定義について述べた。この記事では射影オペレータが線形オペレータなのか、またエルミートオペレータなのか、そしてどんな性質があるのかを議論する。 いつもどおり$${V}$$をヒルベルト空間とし、$${W}$$をその部分空間とする。$${P_W}$$を部分空間$${W}$$への射影オペレータとすると、射影オペレータが線形オペレータであることが証明できる。実際に証明してみよう。

量子計算学習ノート - エルミートオペレータ1

この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。 ヒルベルト空間$${V}$$上の線形オペレータ$${A}$$が $$ A = A^* $$ を満たすとき、$${A}$$をエルミートオペレータ、もしくは自己共役オペレータと呼ぶ。エルミートオペレータの中でも特に射影オペレータは観測を議論するうえで重要だ。これを定義するために射影定理について紹介しよう。 $${V}$$の部分空間$${W}$$を仮定する。$${W}$$に対し、以下のような集合$${

量子計算学習ノート - 転置共役

この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。 例によって$${V}$$をヒルベルト空間とし、$${A}$$をその上の線形オペレータとする。任意のベクトル組$${|v\rangle , |w\rangle \in V}$$に対して $$ (|v\rangle, A |w\rangle) = (B|v\rangle, |w\rangle) $$ を満たす線形オペレータ$${B}$$がただ一つだけ存在することが証明できる。この$${B}$$を$${

量子計算学習ノート - 固有空間と対角化

この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。 固有値、固有ベクトルの概念が定義されると固有空間と線形オペレータの対角化について議論することができるようになる。 いつものように$${V}$$をヒルベルト空間とし、$${A}$$を線形オペレータとする。$${\lambda}$$を$${A}$$の固有値とすると、固有ベクトルは実際無数のベクトルを取りうる。 このように$${A}$$の固有値$${\lambda}$$に対する固有ベクトル全体を固有空間