量子計算学習ノート - 極分解と特異値分解


この記事は「量子コンピュータと量子通信 (オーム社)」の読書ノートです。


線形オペレータの一般的な性質についてはこれまでで十分議論できていないが、極分解と特異値分解を用いることで、線形オペレータをユニタリオペレータと正のオペレータで表現することができる。ユニタリオペレータと正のオペレータについてはある程度性質が理解できているので、線形オペレータ全体の理解の助けになるだろう。

まず、極分解は次のような定理だ。

$${A}$$をヒルベルト空間$${V}$$上の線形オペレータとする。このとき$${A}$$に対してユニタリオペレータ$${U}$$、正のオペレータ$${J, K}$$が存在して、$${A = UJ = KU}$$と書ける。この正のオペレータ$${J, K}$$は$${A}$$に対して一意であり、さらに$${A}$$が可逆の時、ユニタリオペレータ$${U}$$も一意に求まる

極分解定理

これを証明しよう。今、$${J=\sqrt{A^*A}}$$とおくと、これは正のオペレータだからスペクトル分解$${J = \sum_i \lambda_i |e_i\rang \lang e_i|}$$が与えられる。ここで$${|\psi_i \rang \equiv A|e_i\rang}$$と置く。定義により$${\lang\psi_i | \psi_i \rang = \lang e_i | A^* A |e_i \rang =  \lambda_i^2}$$であることがわかる。

$${\lambda_k \neq 0}$$な$${k}$$にのみ着目しよう。このような$${k}$$に対し、$${|f_k \rang \equiv |\psi_i\rang/\lambda_i}$$と置くと$${\lang f_k | f_l \rang = \lang \psi_k | \psi_l \rang /\lambda_k \lambda_l = \lang e_k |A^*A|e_l\rang / \lambda_k\lambda_l = \delta_{kl}}$$となり、$${\{|f_k\rang\}}$$は正規直行系を成す。

グラム・シュミットの直交化法によって$${\{|f_k\rang\}}$$をCONS$${\{|f_i\rang\}}$$に昇華させる。このCONSを用いて$${U = \sum_i |f_i \rang \lang e_i |}$$なるユニタリオペレータを作る。こうすると$${\lambda_i \neq 0}$$な添え字$${i}$$に対しては$${UJ|e_i\rang = U(\lambda_i |e_i\rang) = \lambda_i |f_i\rang = A|e_i\rang}$$である。一方$${\lambda_j = 0}$$なる添え字$${j}$$に対しては、$${UJ|e_j\rang = {\bold 0}}$$かつ$${A|e_j\rang = |\psi_j\rang}$$である。が、そもそも$${\lang\psi_j | \psi_j \rang = 0}$$であることから$${|\psi_j \rang = {\bold 0}}$$が導かれるため、$${UJ|e_j\rang = A|e_j\rang = {\bold 0}}$$であることが明らかになる。

以上より$${A = UJ}$$であることは示された。さて、このような正のオペレータ$${J}$$が複数存在していたと仮定する。仮にこれを$${J' \neq J}$$としよう。両辺に左から転置共役$${A^*}$$をかけると$${J'^2 = A^* A}$$が求まり、帰結として$${J' = \sqrt{A^* A}}$$が得られる。これは$${J' \neq J}$$に矛盾するので、$${J}$$は一意である。また$${A}$$が可逆であったとすると$${J}$$が可逆である必要がある。実際可逆でなかったら$${U^*A( = J)}$$が可逆であることに矛盾してしまう。したがって$${U = A J^{-1}}$$が一意に求まる。

一方で$${K = UJU^*}$$と置くと、これは$${J}$$と同様に正のオペレータであり、$${A = UJ = UU^*KU = KU}$$となる。$${AA^* = K^2}$$より$${K=\sqrt{AA^*}}$$が導かれる。

次に特異値分解定理を示す。これは極分解定理とスペクトル分解定理を組み合わせたものである。

$${A}$$を正方行列とする。このとき$${A = UDV}$$を満たすユニタリ行列$$U, V$$と、負でない要素を持つ対角行列$${D}$$が存在する。

特異値分解定理

特異値分解定理の対角行列$${D}$$における対角成分を行列$${A}$$の特異値という。

証明は以下のように簡単だ。

極分解定理によりユニタリ行列$${S}$$と正の行列$${T}$$を用いて、$${A = ST}$$と書ける。ここで$${T}$$は正の行列だからユニタリ行列$${V}$$による基底変換によって$${T = V^*DV}$$と表すことができる。したがって$${A = SV^*DV}$$と書くことができるようになる。$${U \equiv SV^*}$$と置けば目的の表現を得る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?