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自分だけの問いに出合う「高校生フィールドワーク in 直島」

ベネッセアートサイト直島では、周囲の自然や環境と関わりあう作品の鑑賞を通じた自己・他者との対話や、作品の背景にある現代社会の課題、地域との関わり方など多くの視点を得ることを通して、一人ひとりが誰かの正解にとらわれることなく、主体的に考える場を提供しています。

今年の2月には、高校生を対象に「自然・建築・アートの共生」をコンセプトとしているベネッセハウス ミュージアムにて、作品鑑賞を通して自分なりの「問い」を立て、直島を舞台に自分の力で「問いへのヒント」を探究するフィールドワークを開催しました。

フィールドワークに参加した高校生は、作品鑑賞を通してどんな問いを立て、探究をしたのでしょうか。今回はイベント当日の様子をレポートします!

対話型鑑賞で自分の考えを言語化してみる

2月11日と17日に実施した「高校生フィールドワーク in 直島」には、中四国エリアを中心に計7名の方が参加してくれました。

「直島に一度行ったことがあり、その時の自分では感じられなかった/考えられなかったことを探してみたいから」
「アートに興味があるが自発的に動く機会がない中、この誘いが来たため参加してみようと思ったから」
「現代アート、人と話す事が好きだから」など、参加動機も様々です。

自己紹介と、フィールドワークに向けた意気込みを発表してから、2グループに分かれてベネッセハウス ミュージアムで対話型鑑賞を行いました。

ファシリテーターの問いかけに答えながら一つの作品を時間をかけて鑑賞することで、作品を観て感じたことやそこから考えたことをゆっくりと言語化していきます。作品を観た時にどこが気になるか、どんな気持ちになるか、何を連想するかは人によって異なります。また、作品を観て抱く印象は、観る人の記憶や価値観、習慣などと密接に結びついています。ファシリテーターが、鑑賞者が抱いた印象がどこから来ているものなのかを問うことによって、自分の内面にあるものや潜在的に持っている価値観に気付き、考えるきっかけに繋がります。

対話型鑑賞では、他の参加者の発言を聞くことで、自分にはない視点を知り視野を広げられたり、自分にしかない視点に気付けたりします。時間をかけて作品と向き合いながら自分が抱いた印象を言葉にし、ファシリテーターの問いかけをもとに印象を深堀りしていくプロセスを繰り返すことで、参加者は作品鑑賞を経て考えたことと自分の関心事や価値観とをリンクさせながら鑑賞を深めていました。

自分だけの「問い」を立てる

自分なりの考えを言語化するステップを踏んだ後、ワークシートを使って個人で作品と向き合い対話をするワークを行いました。

参加者は気になった作品を一つ選び、スケッチをしながら選んだ作品をじっくりと観察します。作品を選ぶ観点は、好き、嫌いにとどまらず、よく分からなくてもやもやする、なんとなく気になったから、などどんな観点でも構いません。その作品が目に留まったということは、どこかに必ず自分の関心事と繋がるヒントがあると考えています。

次に、作品を鑑賞する中で抱いた第一印象や気になったところをワークシートになるべくたくさん書き出し、それらがどこから来ているものなのか、その根拠を考えていきます。

自分の思考プロセスを自ら紐解くことで、自分のものの考え方を客観的に捉えられます。また、作品から抱いた印象と自分の内面にあるものとの繋がりを繰り返し考えることで、潜在的な価値観や思考の癖、自分が抱いている関心事に気付いたり、今の自分の「問い」を立てることに繋がっていきます。

最後に、作品鑑賞を通して考えた今の自分の「問い」を発表し合いました。「どの作品を観ても人に見立てて解釈をする思考の癖に気付いた」「作品の中にある違和感と自分の中にある違和感の存在がリンクしているかもしれない」
「作品のタイトルから想像が膨らみ、文字への関心が高いことに気付いた」などそれぞれじっくり作品を向き合う中で自分の内面との繋がりを見出し、自分だけの「問い」と出合えていました。

「問い」をもとにフィールドワークへ 

午後からは、それぞれが立てた「問い」をもとに、直島島内を自由にフィールドワークしました。それぞれ探究したいテーマに合わせて、李禹煥美術館か家プロジェクト、どちらを鑑賞しに行くか、そこでどんなことを考えたいか、目的地への行き方や交通手段も含めてプランニングします。

約2時間のフィールドワークを経て、最後は1日を通して考えたこと、気付いたことを全員でシェアしました。

「周囲との関係性における自分の中にある違和感の正体を考えたい」と話してくれた方は、李禹煥美術館の作品を鑑賞する中で孤独さが連想される作品に惹かれていることに気付き「自分が抱える違和感はイコールではないけれども、孤独感とも繋がっているように思った」と発表してくれました。

「アート鑑賞から得られた印象を音で表現する」をテーマにしてくれた方は、家プロジェクト「石橋」を鑑賞する中で得られた印象を「襖絵は落ち着いた、低めで長い芯のある音」、「穏やかで明るい感じの中庭は、少し高く楽し気な音」、「漆喰で塗り固められた建物は、改築されこれからの期待が込められていると思うので、高く少し長めの期待が感じられる音」、「崩れ始めている家は低く、中途半端に長く、小さく消えそうな音」と表現してくれました。

1日を通して高校生が得たもの

プログラム終了後、参加者からは様々な感想が寄せられています。

進路で自分が何を学びたいのか悩んでいたけどアートを通して気づけた。

午前中に自分の思考の世界を広げる体験をしたことで、本当に面白いと思える問いを立て、午後はそれを実際に考えることができた。

現代の高校生はあまり勉強以外で深く考えることが少ないと思うし、学校では学べ答えのない問いを探すこともないと思うので、それを探して自分の考えに答えを持つのはとても良いなと思いました。

スタッフさんを中心とした複数人による正解のない対話のかたちをとることで深い内省、違った価値観や見方、また他者の心そのものに触れられる点が良かった。

価値観が多様化し、先の見通しが立てづらい昨今の社会において、学校教育では探究学習が採用されるなど、テーマを自ら見つける力、そして柔軟な発想でアイディアを提案する力が求められるようになりました。そのためには、身の回りにアンテナを張る意識や観察力、正解を既存のものに求めるのではなく自分の正解を考え言語化する思考力・表現力が必要だと考えています。

今回のフィールドワークに参加した高校生は、見方に一つの正解のないアート鑑賞から自分だけのテーマや問いを発見し、普段とは異なる環境下でそれを多様な視点から探究できたのではないでしょうか。

自分の関心事や価値観に紐づく、自分だけの「問い」を設定する力は、探究学習においてのみならず、変化の激しい現代社会を生きる中で、進路選択など、自分で意思決定をしていく上でも活きる力になるでしょう。(大黒)


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