見出し画像

中学生はトマトなんだ。【コーチの手記】

前書き

久しぶりの執筆活動について、私を突き動かしたものはやはり子ども達の熱量でした。「心が動く瞬間に成長がある」と私は常に思っていますが、そんな瞬間にいつ出会えるかなんて誰にも分からないものです。そして、この感動の瞬間をどのように迎えることが正しいのか、日頃から考えていました。成長する選手とそうでない選手の違いは?
私はなぜ競技者として成長することができたのか、そんな分析を指導という環境にいながら行ってきました。そして、これはスポーツに限らないこと。
大人(実社会)も同様であり、もはや人間が感動(≒成長)を求める理由なのかとも感じる今日この頃です。命を授かるところから人間は自然と成長していきます。果たして自然とも言えるその成長そのものは、「豊かさ。」心が動いた回数なのかもしれません。

今回は中学生の成長をテーマに日頃のコーチングに生きるような私なりの指導の歩み、備忘録としてまとめていきます。

中学生の時間軸について


子どもが体感している時間の長さ

どんな言葉を使えばいいのか分かりませんが、時間が流れる速度は年齢や個体によって異なるのは既知の事実ですよね。犬と人間では流れる時間が違うように、大人と子どもでもその時間の体感速度は違います。人生経験や興味関心によっても異なります。
夢中になる時間はあっという間に過ぎ、苦痛は長く感じますよね。
現代を生きる子どもたちは、私たち大人が過ごしていた子ども時代よりももっと時間の流れが遅いのではないかと私は考えています。

便利な世の中になり、あらゆるコンテンツが充実している今、子どもたちは私たちよりもずっと合理的思考を兼ね備えており、無駄な事に対して時間を割かない傾向にあります。
子どもたちは昔以上に忙しくしていゆえに、全体的に退屈な時間を過ごしている感覚なのではないかと思っています。

スポーツが「娯楽」として定着してきているのは、競技志向に対する環境の変化も影響しています。昔ではあまりなかったスポーツレクリエーションの充実が環境を変えています。
今回のテーマとは少し逸れてくる内容なので割愛をしますが、楽しいと感じることしか継続する事ができない子どもにとってレクリエーション性を充実させて厳しく辛いものを取り除いた結果、日本のスポーツシーンではレクリエーションとアスレチックが混在している競技シーンが常態化しています。
簡単にまとめると『楽しければいい』と『勝ちたい』に対して線引きのない状態です。

娯楽の時間は短く感じ、自身を成長させるための厳しい時間は長く感じる。
つまり、本来のアスリートとして過ごさなければならならい時間は長く感じ、その他の時間は短く感じる。

これがまさに、私が中学生と時間を過ごして感じた当たり前のことです。

この時間が流れる速度がどの程度のものなのかを知る事がコーチチングにとって非常に良い物差しになると考えたので、一度整理しました。
コーチングはプランニングが非常に大切です。
PDCAをうまく回す事が何よりも大切だと思います。そこで正しく振り返りを行うこと、どのようなタイミングで行うべきなのか、成果はどのくらいで出るものなのか、これを測るために時間の流れというものを知る必要があるのです。

準備の3ヶ月と成長の1ヶ月


日本の公教育はおおよそ3ヶ月のスパンで教育を行います。ここでは教科を推し進める時間の長さとして約3ヶ月としましょう。
子どもはこの3ヶ月という生活スパンで成長する『癖づけ』と学年を終える事で得る年単位の成長が『癖づけ』されています。
ここがスポーツにおいても重要という形になります。

実際の出来事に触れて解説します。

ステップ1:計画

私がライバルチームとして指定したチームをAチームとします。
課題は【メンタルの成長】と設定し、
昨年度の3学期の目標としました。
内容は練習メニューを個の能力を向上させる事、運動理論を中心にしたアスレチックトレーニング及びアジリティトレーニングと心肺機能向上を目指したランメニューです。
【厳しいトレーニングを積んで自分と戦うこと】がメンタル成長の鍵だと仮定して行いました。

目標期間の設定は12月の後半に行い、3学期に入る前に共有し、具体的なプランを立てました。

ステップ2:ゴールの設定

3月の終わりにAチームとのマッチメイクを設定してそこまで定期的な振り返り(Aチームを想定したマッチメイク)をし、シーズン目標の設定を目指しました。

ステップ3:ミーティング

Aとの対戦を控えた1ヶ月前に選手にゲームの課題をミーティングで伝達し、そこまでの成長課題を提示しました。

ステップ4:実際のゲーム

実際にAチームとのゲームを行いました。
指導をしていたチームはシーズン目標を達成する事ができず、私の主観としては子どもたちに対して求めたものが返ってこず、私のモチベーションが下がる結果となりました。

ここまでの出来事は1月から3月の中旬、実に2ヶ月強の時間の流れになります。

ステップ5:再評価

反省の結果、個々の努力が足らなかったとし、体づくりをテーマとした1月からゲームまでの期間よりさらにハードなメニュー構成や達成目標を掲げて4月の後半まで実施しました。
内容の変更はランメニューをさらに増やし、且つパッシングを伴うものを採用、ドリブルの制限とRead & Reactの強化を追加し、アスレチックトレーニングメニューの追加も行いました。今までの2ヶ月強に3ヶ月、さらには3ヶ月目を超えた辺りから約一月に渡りより厳しい内容を実施した形になります。

ステップ6:目標の再設定

新たな目標の設定として、課題の査定に使っていたAチームとのゲームから約一月後に一軍チームと二軍チーム分けを材料に使い、メンタルアップを狙いましたが、締切は4月後半のカップ戦としました。前述のステップ5の気持ちの持ちどころはこのカップ戦に設定されて、厳しい練習に取り組んでもらいました。

ステップ7:成長イベントの発生

カップ戦では各々の結果に『感動』する選手が出てきました。感動というのは自らが主体的に感情を動かす何をした、という定義で語りたいと思います。涙を流す、悔しさを露わにする、手応えを感じる、コーチとして選手に寄り添っているとそんな心の挙動に敏感になっているかと思いますが、シーズンの中では見せてこなかったそんな瞬間に数多く出会いました。

ここまでの期間だ起きていた事象、前述のステップについて図にまとめてみたいと思います。


時間軸を基準としたイベントを表した図

語らなくてはならないのは個体差という部分です。おそらくこれはチームの成長課題を主体的に捉えたタイミングということになります。
「コーチはそんなこと言っているけど私は(周りより)力がある。」そう捉えている選手がいたり、そもそも何のことを言っているか分からない、成長後のイメージを持たないなどの目標への理解力への差がそこにはあったと推察します。

そこから実際に成長しようと課題を真っ直ぐに捉えるために1ヶ月の時間があったとします。
実際のピーキングとして、選手が追い込まれ始めたのはシーズン当初から1ヶ月が進んだ辺りでした。中学生にとっては主体的ではなく、やらされる時間が流れてからメンタル面が辛くなるまでの1ヶ月、これは理解をするまでにかかるギャップのような時間、大人と比較すると子どもと大人のタイムラグと言えるでしょう。

そこから感動までの3ヶ月を振り返ると、自らが自身の課題を理解して定めるまでの1ヶ月、そこから頑張り始めた次の1ヶ月、課題のゲームが散々な結果となり落ち込みながらも取り組んだ1ヶ月、そして迎えた感動のゲーム。
これが中学生が成長に使った時間の流れという結果になりました。

大人であれば1ヶ月で行う事が出来る「成長」に対して要するに時間は大人の3倍であるのが分かります。よく言われる啓発系セミナーの効力の切れ目は1ヶ月。人間のメンタルアップは1ヶ月置きに行い、そして継続することで確かな力となる。本質を捉える事ができれば一瞬で成長するのがメンタルですが、その後の習慣に落とし込むためには1ヶ月の時間が最低でもかかると思います。

そう考えたときに3倍の時間が子どもには必要だったと結論づける事が出来ると思います。
※もちろん子どもの資質によって異なることは大前提です。私が指導している子どもはあくまで地域レベルであり、育成のど真ん中にいる子達なので標準的なデータになると思います。

成長の在処は?子どもの成長が一瞬と言われる理由


子どもたちに流れる成長の時間感覚について理解は出来たのですが、成長の本質というのは感動の中にある訳ではなく、感動の後にあるものですよね。
感動したから成長した、ということではないです。
心が動いた瞬間は自身を省みることができ、次に取り組もうと変化を起こすチャンスがあるだけで、コーチングが必要になります。
感動の瞬間=コーチングのチャンスということです。したがって、最も重要な時間はその後の1ヶ月、そして継続の2ヶ月という事になります。なぜ最も重要な時間が1ヶ月という括りになるのかというのは、その1ヶ月で行った変化や新たな取り組みに対して次の2ヶ月に継続して行える確信を持つための評価が必要になるからです。
先ほど同様に感動の瞬間が来なければいけないという事です。
成長を確かめるポジティブ要素がないと次の3ヶ月を無駄にするケースが生じるということ。子どもの時間の流れは大人の3倍であることを考えるとこの1ヶ月は最も重要な時間といえるでしょう。

私はこのタイミングでもある実験をしました。
同じに異なる体験をし、同じ感動をした2名の選手に対して個別のコーチングを行いました。
それぞれAさん、Bさんとします。

Aさんは自身の成果に対しては手応えを感じたがチームとして掲げていた目標を達成できない事に悔しさを感じ、リアクションをした。
Bさんは自身の課題が達成できない事に対して日頃から感じていた悔しさをチームの目標が達成できないことをきっかけにリアクションした。

AさんとBさんの共通の条件としては、どちらもリアクションを表面に出さない、いわゆる我慢をするタイプの2人であり、今回の実験対象として選ばれた理由はリアクションを出さない選手が出したからとなりました。

Aさんにはひたすらにチームが強くなることに必要な要素や課題の解決方法(Aさんが向上するために必要な能力を題材)について指導をし、Bさんには個人課題の達成のために必要な能力、知識、要素(こちらもAさん同様にBさんが目標達成した際にチームが強化されるチームの弱点)を指導しました。


2人が見せた変化は個人の課題の解決に対して具体的に個人的なプレーを変化させた要素よりもチームを捉える目線やゲームに必要な要素に対する観点の変化、価値観の変化と共通していました。
自身の無力さを感じたタイミングで感動をし、生じた変化は個の向上というよりも個を活躍させるための手段に着目した、そんな結果となりました。
二つの実験(指導)は、それぞれ指導の内容が異なったとしても両者の心を成長させ、メンタルや人間性を育む機会となり、当然のように競技者としての資質を向上させる機会だったのです。

個の成長やチームの成長を求められる環境の中で得た学び、そして目指す変化は彼女たちの価値観の変化や視点の変化となったのです。それはおそらく大人が目論んだ【メンタルの成長】を個の能力を向上させる【要素たち】から導き出された結論となったのかと推察します。

この実験で行ったことは、たった2時間の個別指導とその後に行った個別指導のフィードバックによるものであり、子どもの成長が一瞬であるという裏づける約3ヶ月に渡る準備期間と実際にセットされた環境にある一瞬の取り組みによるものなのだと感じさせてもらいました。

大人は大きな環境という枠組みの中で正しい計画の下に子どもたちを手のひらで操り、時として正しい形で成長のシステムに押し込む事が非常に重要であると感じさせてくれました。
もちろん、この【閃き】と私が呼んでいる取り組みが自動でやってくる天才と呼べるような子どももいます。
多くの子が安全で、平和で平凡な日常を過ごしている中でこの閃きを勝手に作り上げることできないのです。だからこそ、大人は多くのシチュエーションを想像し、子どもに提供していく事が大切なのです。

成長の在処は子どもたちの感動の瞬間、閃きにあるということ。それは出来事としては一瞬かもしれないですけど、その一瞬のために過ごす期間がある。その期間が正しいものでなければ一生閃きには出会うことができないかもしれない。そんな当たり前だけど難しいことに気づいてみることは大切なのかもしれませんね。実際に成長するために必要な時間は感動の後の時間であり、習慣の変化や取り組みの変化にあるという当たり前のことを確かめておきましょう。

成長のアフターケア〜コーチングではなくティーチング〜


次の2ヶ月間について大切な事がティーチングの領域だと考えます。マインドセットが作られた子どもの学びとなる要素(学びとは知的好奇心や主体的な向上心からやってくる意欲にたいして提供される知識や経験)を作っていく事です。いわば、試練としましょう。
試練を達成する為に必要な手札を増やす作業と最終的に目標という壁を越えさせていく経験です。

主体的に取り組めるマインドセットと能力さえあれば向上は目覚ましいです。失敗体験と打開策を繰り返し提供する事です。
具体的に力を付けるのはこの期間になりますので二人三脚で行う必要があります。
チーム課題が個人課題と異なるケースも有りますので、ここでも個別指導が必要になるでしょう。(チームに提供するドリルが子どもに刺さらないケース)

しかし、ここが育成指導の本質です。
育成というのは0を1にする作業に最も時間がかかります。これは育成と呼べるプロセスではなく、一番最初にアスリート教育を行う部分であり本当の育成は子どもをアスリートという人種にした先からです。
早い子もいれば遅い子もいるし、アスリートになる事が出来ない子どもといます。
育成は1から100、1000とその選手のレベルを上げる作業ですので育成の本質はここです。
中学生として0から1を行うのは遅すぎるのです。でも、私は中学生がアスリートになれる人生のラストチャンスだと思っていますので、この段階でアスリートになれていれば競技者としてギリギリセーフだと思っています。

感動をし、成長を志す子どもを支える確かなら指導というところが大切なことは言うまでもないのです。ここで得る世界観が選手の将来を決めるからこそ、指導者は広い世界を見せて、コーチングのシャワーを浴びせて成長を促さなければいけません。家庭には食事というたくさんの肥料、栄養を与えてもらう必要があります。植物に例えるならば、指導が水、肥料が栄養、日光は家庭での愛情、そんなイメージを持っています。

愛情が水なのではないか?そんな家庭が最近では多いですがトップアスリートを見てみましょう。厳しさや過酷な環境で育った選手は数多いのです。スラム出身者、両親がいない選手、友人が殺された選手など愛情を失った選手が強い理由はそこにあると言われています。
愛情というものは厳しさがあるから知れるもの。愛情に溺れる環境では選手は育たないのです。だからこそ、競技において指導者は水をあげる存在であり、水なしで選手を一流になんて育て上げることは不可能と言えるのです。
トップアスリートに親がいなくても成功している選手がいる反面、コーチが居なくて大成した選手を見た事がないのがその理由です。
コーチングは水、その意識はとても大切なのです。水のやり過ぎも禁物ですよね。適切な量が大切です。

まとめ


選手を成長させるために必要な要素として、PDCAを成功させるために子どもに流れている時間軸を正しく把握することと、正しいスパンでの目標設定や育成指導を行うことが大切であり、根拠をもってそれらを円滑に進める事が大切なんだと感じさせられました。

3ヶ月という期間の設定は子どもの成長に密接な関わりをもち、この数字を基本とした育成に外れはないと思います。
この期間の中でいかに感動させ、プレーに対する想いを強く出来るか、己の弱点を見つめさせられるか、そしてその傷を埋める愛情や処方箋を出す事ができるかというのが大人の課題となるのです。

子どもは3ヶ月で成長する「トマト」と同じですね。トマトは種まきから約4ヶ月で収穫できる作物ですよね。

種まきが1ヶ月、理解に必要な最初のステップ。そこから3ヶ月で収穫です。そこまでに必要なことはコーチングという水まき、日光となる家庭の愛情、体を作る為、心を動かすための準備として肥料などの栄養。全てが与えすぎてはいけないものであるために、成長の速度や調子を見ながらその子のベストマッチを目指す工夫、命を育てることはなんでも共通なのかも知れないですね。

命を輝かせるためにバスケをしている、その大前提を見失うと全てが崩壊してしまうのが『育成』。そんな難しい世界だからこその面白さと【大人たちを魅了する子どもたちの美しさ】があるのでしょう。そんな美しさが大人たちが感じる幸せでもあり、過酷な思いをしてでも得たいと思う幸福なのかもしれませんね。

子どもの成長が一瞬だなんて感じてしまうのは大人の慢心で、大人と流れ流時間が3倍も違う子どもたちは、その一瞬のためにものすごい量の戦いをしているのかもしれません。輝くまでに最低でも3ヶ月の時間、戦っていることに変わりはありませんね。少なくとも、その準備期間を正しいものに変えてあげないと、その作物(成果)は永遠に訪れないか、腐ってしまうかの2択になってしまいますね。感動=成果が出ないと正しいとは言ってあげられなくなってしまう、そういうことですよね。

後書き

久しぶりの執筆、とても素敵な時間となりました。自身の文章の癖がどこか懐かしく、また書くことで気がつける自分自身の変化などが面白く、とても貴重な機会となりました。
表現をする立場の人間として、自分を見つめ直す機会というのは大切にしていきたいと改めて感じます。
文章を書きながらもたくさんの選手の顔やその選手を支える親御さんの顔がいつも思い浮かびます。
文を読むという時間が子育ての壮絶な時間に平穏をもたらす事ができれば幸いです。

私が子どもたちに毅然として厳しく接する理由は、まさにこの愛情という部分になります。
愛情というのは薬にも毒にもなるもの。失ってしまうと人間を壊してしまうほどの威力があるのに、愛情に溺れてしまうと生きている事が当たり前のように傲慢な人間になってしまう。人間はポジションによって自分を変えてしまうからこそ、愛情というものは貴重な存在にしたり、後から知れる屈折した状態にする。結果として、厳しいという言葉に繋がっているのかと思います。
私が授ける愛情は『気づくもの』そう位置付けて色々なところに見えるようにしているつもりです。人は愛情や幸せを探す生き物です。宝探しをしているうちは元気で居られるから、そうさせているのかもしれません。
哲学にはなりますが、この宝探しの冒険に出るから人は成長するし、様々な出会いがあるのです。

現代っ子に言わせれば【ツンデレ】かも知れないけど、デレに気がつけるからいい指導をしているのだと自分に言い聞かせています。笑
愛しているからこそ、厳しいことを言える。目の前でたくさん楽しい経験も辛い経験もしている、懸命に今を生きる子どもたちを前に、本当は抱きしめてあげたい気持ちだけどそれは彼女たちが掲げている夢を叶えた時にとっておこうと思っています。どんな夢かなんてのはどうでもいい。それぞれが掴む幸せの瞬間まで取っておこうと思っています。

自己満ですが、たまに書くことの大切なんかも感じています。


あなたのサポートでコーチ谷村は今日も活動ができます! ありがとうございます!そして応援よろしくお願いします!!!