ベイビートと採算とケプラーと。1
先日、といっても一月も前なのですが札幌学院大学の演劇研究会が公演していた、「ベイビート」という舞台を観てきました。
以前、出演者の方と知り合いになった事があり、前売りチケットを購入させて頂いたのです。
観終わってヒシヒシと最初に感じたこと、それは
商業演劇との空気感の違い
でした。
更に、演劇のお金についても色々考えていると、話が「幸せな出逢いってなんだろう?」というところまでアタマが飛んでしまいました。
演者側からしたら「純粋に芝居を楽しんでよ!」と言われそうですが笑。
と言うことで、雑感をごちゃ混ぜにしてみたら意外と美味しくなりそうな話、「と・と・と。」第1回目は「ベイビートと採算とケプラーと」です。
少々お付き合い下さい。
1 そもそもベイビートはどんなお話だったの?
ある男が地下鉄に乗っています。
周りの乗客は皆うつむき、疲れて寝ています。
男の前には子供が一人、どうやら退屈しているようです。
そこで男はこう話しかけます。「昔話をしてあげよう。」と
そこから話は一気に転回、おそらくその男の父親であろう、ある中年男性の、「精子」達の話に変わります。
精子達はその中年男性の中で、来たるべき「非常事態(笑)」に備えるために身体(?)を鍛え、更に全くモテないその中年男性を、いわゆる「ムラムラ」させるために手を打ちます。
彼らの奮闘は実を結び、ある日、とうとうその「非常事態」がくるのですが…というお話。
2 この舞台、どうだった?
このお話、個々の演じている方の癖をよく捕らえた配役だったり、伏線が上手く回収されていたりするなど、全体にとても良くできたお話だったと思います。
演者の方にとっても、精子という話の特徴上、演者を多く出すことができるため、舞台経験がなかった方も勇気を持って出演できる舞台だったのではないでしょうか。
特に今回「精子を鍛える学校の校長」役という、なかなかアレ(笑)な配役をされた方は、学生の身でありながら壮年の男性役という難しい演技をしなければならず、更に舞台終盤まで動きのある演技をし続けるなど、苦労が偲ばれる演技をなさっていました。
何より「精子の世界」というぶっ飛んだ脚本笑。
面白かったです。
逆に、精子の世界観という共感しづらい中での話だったため、没頭しきれなかったこと、演出に一部「笑い」によって物語そのもののバランスを崩してしまうようなところがあったことが少々気になりました。
3 「空気感の」違いって何だったの?
前述したとおり、今回のお話は要約すると、「非モテの中年男性がsexして、出産する事を精子側から見た話」ということになります。
家族連れで観に行きたいとは思えるでしょうか?
また、カップルで行きたいか?と言われると、微妙な空気になりそうで行きづらい。
中、高齢の方も身につまされそう。
つまり今回の舞台、ぶっ飛んでて面白いけど、商業演劇としてはリピート客を見込むことが出来ないので、脚本を採用しない可能性が高いのです。
そんな脚本を、演者も、更に観客も気にせず楽しんでいるその空気感が、僕はとても新鮮に感じられたのです。
4 学生演劇の「成功」ってなんだろう?
商業演劇において成功することとは、
金銭的収益があること
に尽きると思います。
しかし、学生演劇についていえば、金銭的収益の必要はありません。
では学生演劇の成功とは何なのでしょうか?日本学生演劇プラットフォームというサイトがあったので参考にしてみました。
『出会う』
すべての地域の若者が関われるプラットフォームを目指す
『育む』
地域を越えた対話や批評など、出会いから生まれた芽を育む
『広がる』
大学卒業後、プロアマ関わらず演劇との関わりを続けていけるシステムや風土の醸成
(日本学生演劇プラットフォームHPより
https://jst-platform.wixsite.com/home)
このサイトの内容を参考にすると、
・演劇などを通じ、様々な地域活動との連携強化
・演技の技術そのものを含めた各種スキルの向上
・人脈づくり
が出来ているかが一般的な学生演劇の成功と言えるのでしょう。
5 今回の舞台、成功だったの?
今回僕が見た限り、舞台はほぼ満席、僕個人としてもとても満足した舞台でした。
では、他の観客の方はどうだったのでしょうか?
今回、満席の観客を見渡すと、観客の8割は役者さんと同じ「学生」と思われる若い方ばかりでした。
今回の舞台は札幌学院大学の演劇研究会、66回目の定期講演会です。
彼らの今までの経験上、観客の大半が札幌市内の学生さん、もっと言えば札幌学院大学の学生の方が来られることは十分予想できたことでしょう。
更に今回僕が支払った前売り券は、500円という価格でした。
これが当日券になると700円。
実は違う舞台も同時公演されていたようで、この公演と一緒に見ようとすると通し券800円となります。
これが商業演劇となると、概ねチケット1枚3,000円くらいから、ではないでしょうか?
この、破格とも言える値段設定も、観客の客層(つまりは学生)に合わせたワンコイン価格だと言えます。
つまり、舞台を通じて、当然演技力だけではなく、様々なスキルを習得するとともに、ワンコイン価格で多様な方に観てもらい、人脈や連携の足がかりに出来た。とすれば、この公演は成功だったと言えるでしょう。
そして、その「本来の成功を決める人」とは僕のような本来外様の人間ではなく、演者が、裏方が、そしてこの公演を通じて何かを得ようとしていた誰かが決めることなのです。
しかし、収益を発生させる必要がないとはいえ、この安さで採算とれるの?
なんてことについて、ちょっと思いを馳せて見たところでまた次回。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
また、フライヤーの掲載を快諾していただきました
北海学園大学演劇研究会
(HP:https://doramagakuen.wixsite.com/mysite
Twitter:https://twitter.com/hgu_enken)
の皆様にも深く感謝申し上げます。ありがとうございました。
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