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煮干しラーメンと店員の話

僕はラーメンが好きだ。

だから今日はラーメンの話をしたいと思う。

その店は煮干しをたっぷり使った醤油ラーメンがおすすめの店で、一回食べに行ってからまたじわじわ行きたい気持ちになっていた。


そんなこともあって、仕事帰りに同僚とその店に食べに行くことになった。
駅前の店なので、コインパーキングに車を駐める。

駐車場は満杯だ。こんなときは、待っている時間も楽しい。店の前に椅子を並べて路地を人が歩いているのを眺める。久々の外食にテンションが上がった僕らは路地を見物する。どて焼き、昼から飲める大衆居酒屋、たこ焼き屋、韓国料理屋。制服様のコスチュームを着たカラオケバーの女の子たち。電車を降りて家路につく人たち。家に帰る人たちはなんだか嬉しそうに見える。

ラーメンを待つ時間は、こんなふうに人を見ているのが楽しいからスキだ。

しばらくそんな風にしてまっていると、店員が呼びにきた。あまり愛想は良くないが、ワクワクしているのでそれほど気にならない。

食べる前に、先程案内してくれた店員とは別の店員におすすめのラーメン2種類について聞いてみた。2種類のおすすめラーメンがあったから、同席した友人にも説明する必要がある。

少しぽっちゃりして、愛想はそれほどよくないが真面目そうな眼鏡の青年が答えてくれた。

「1つ目は、端的にいうとスープはうどんのような感じです」
「2つ目は、あっさりさっぱり系ですね」


「むぅ」と僕は以前に来た時に食べてうまいなぁと思っていたラーメンを店員から「うどん」と称されて、うなる。なんか、あんまり、うまい説明とも言えないように思う。わかりやすいけど、希少さを減らしてないかい?でもやっぱりどうしても、あれが食べたいので僕は通称「うどん」を注文し、友人はあっさり系を頼む。

雑談をしながらワイワイやっていると、程なくしてラーメンがやってくる。


トッピングにレアチャーシューとメンマ、わけぎ、刻み玉ねぎに煮卵と。麺は太麺ストレート。上澄みに少量の背脂。

さっそく、つややかなスープをすくい、飲む。そして麺をすする。煮干しの臭みはすくない。

まずは自分のスープをすすり、友人とお互いのスープを飲み合う。
ほぅまた違った味わいがある。

友人「あーなるほど、うどんやな、納得」
僕「そっちはゆうほどあっさりはしてへんな」

友人「そやなぁ」

僕「どっちもうまいな」

友人「うまいな」

そんな風にして幸せなラーメンタイムは続く。
刻み玉ねぎのトッピングがうまかった。友人も同意見。また来たいという。

アンケートを書くと次のトッピングが無料になるというので、僕はアンケートに適当に答えておく。頑張っていた店員をかいてほしいということだったが、それほどサービスには特徴もなく、やけに真面目そうで愛想の見えにくい眼鏡のぽっちゃり青年のことをかいておいた。ただ、名前をかいてというのに名札をつけてないのはうまくないと思ったけど。一生懸命そうでよかったことと、うどんの説明はおもしろかったから。納得できるが腑に落ちない感じも。

食事を終えて路地をあるいていると、「お客さん!」と後ろからさっきのぽっちゃり君が走ってくる。

「靴下をお忘れじゃないですか?」と素手に靴下を握りしめている。
今日しっかり仕事をしてきた僕の靴下。裸足がスキなので、食事中脱いでしまっていた。申し訳ないと思った反面、素手で靴下を握りしめている彼の真面目さに関心した。おそらく何も考えていなかったのかもしれない。思いついたらすぐ行動してしまうのかもしれない。教えてもらったことを淡々とこなす、素直な彼のことだ。嫌だけど、先輩に言われてもってきたのかもしれない。それともなんとも思っていなかったのかもしれない。わからない。

そんな彼に僕は「ありがとう」と答える。
そして、アンケートに彼のことをおすすめ店員として書いておいたことを自画自賛する。予知だ。

そのことを彼に伝えようとして、話しているのに彼は踵を返し、淡々とお店に帰っていった。マシーンのような正確さで。

あっけにとられて、狐につままれたような気分ではあったが、ここちよい満腹感と面白い彼に出会えて満足したラーメンの話。

あなたのワクワクが満たされますように。
それではまた明日。

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