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募る想い、繊細な愛の形

第161回芥川賞候補になった李琴峰氏の作品を読みました。

日本で働く台湾人の私、台湾に渡った友人の実桜。平成最後の夏の日、二人は東京で再会する。話す言葉、住む国―選び取ってきたその先に、今だから伝えたい思いがある。募る思い、人を愛するということ。そのかけがえのなさを繊細に描き出す21世紀の越境文学。(「BOOK」データベースより)


台湾人の私ー林妤梅(リンユーメイ)は、大学院留学のため東日本大震災直後に日本に渡航、 地震による影響で止まっている大学事務所で、大学院で同期となる浅羽実桜と出会います。

2年後修士課程を終えた2人は卒業式に出席、妤梅は実桜の振袖姿に心が揺さぶられます。

妤梅はその気持ちを漢詩にして実桜に送りますが、彼女からは返事もなく、台中で日本語教師の仕事を見つけて台湾に渡ってしまいます。

日本で就職しノルマや差別でヘトヘトな妤梅は、台湾人と結婚し、台湾に移り住んだ実桜と平成最後の夏に5年ぶりに東京で再会、1日を一緒に過ごします。

「人間はイベントを皮脂がっているからイベントを作った、ただそれだけかもしれない。理由なんて結局のところあってもなくてもいい。本当に理由が欲しいならいくらでも後付けで作れる。そうやって、伝統や文化ができあがる」p79

三日月の懸かる夜空の下で、花火に火をつけて踊る2人。

今度こそ気持ちを伝えようと書いた漢詩のカードを、妤梅は実桜から別れの言葉が出ても渡せずにいます。

暫くして、私は心の中で決めた。次に目を開けた時、実桜が歩いていった方向へ振り向こう。もし実桜の姿がまだ見えていたら、まっすぐに気持ちを伝えよう。そこにはいないけれど、ホームに行くとまだいるのであれば、カードだけ渡そう。もうホームにいないのであれば、全てを諦めて、気持ちを隠そう。一生隠し通そう。話す言葉、住む国、勤める職場。もう既に色々なことを自分で決められる年になったけれど、こればかりは自分でなく何か不確かなものに頼るしかないような気がしてならなかった。p86

台湾で成長した主人公には同性を愛するという、家族にも未だ完全に理解されない自分がいます。

その彼女が国が違い、母国語も違う女性に惹かれて、さらに惹かれた女性が自分の母国に嫁ぐという私には理解が難しい状況に、戸惑いながらゆっくりと、再読しながら読み終えました。

簡単には感想が書けない、繊細な愛の物語でした。難しかったです。

今日も読んでいただき、ありがとうございます。

愛するということは、対象を限定すべきでないことは理解しているつもりですが、直面したら自分はどうするのか、今複雑な気持ちでいます。

週末の金曜日、素敵な時間をお過ごしください。



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