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次の人が見つかるまで

今夜は何となく思いつめた様子だ。
気まぐれでひょっこり来店してくれる。
30代 クリエイター?
僕の勝手な想像だ。

初来店は友人と二人だったのをはっきり覚えている。
それ以後来店は一人。

転職を考えている。

という話を聞きながらだらだらと時間が過ぎた。

しかし口調は重い。

今夜は何かが違う、と感じながら
彼の話に聞き入った。

どうやら
既に

「辞める」

話は済んでいるらしい。

とろこが、
「次の人が見つかるまでやってくれないか?」
と、上司にお願いされた。

ということだった。

「どうすれば良いですか?」
と僕に意見を求めてきた。

これに悩んでいたのだと直ぐにわかった。

「会社に対しては遠慮は要らないと思うよ」
「もう、辞めるのだから」
「辞める人間に会社は未練は無いはずと思う」
「それより、上司との関係性を重要視しした方がいいんじゃないかな。」

辞めた後も関係が続きそうなら、或いは在職中にお世話になったという
義理ががあるなら、お願いに応えても良いのでは?
とかなり昔の僕の経験を思い出しながら彼に伝えた。

きっぱりと断れずに悩んでいるのは彼の優しさなのか、
上司との関係が良く断りにくい状況なのだろうか?

いずれにせよ察する事は出来なかった。

何故だか
彼はちょっと涙ぐんでいた。
言葉にできない重いものが背景にあるのかもしれない?

安易に話したつもりはないが、今の僕には過去の自分の経験から
それが適切な答えだと思っている。

僕の話で決断するという事は無いと思うが、
伝わったのだろうかという不安はあった。
お決まりだが、
「他の人の意見も聞いてみるのがいいよ」
と促した。
彼としてはすんなり辞めれるものだと思っていたところ
予想外のお願いに困惑している。
という状況だ。

煮え切らない様子だが、今ここで結論を導かせるつもりはない。
いずれ時間が解決してくれるに決まっている。

初めての退職

というものは凄い緊張感と重い決断が必要である。
入社当時の緊張感は日に日に安心感に変わる。
慣れてくれば職場は安心できる場所になる。

その安心感を捨ててまでも新しい緊張感が時として必要になる時が有る。

未知なる緊張感は不安だらけだ。

だから
安心感を捨てる決意は中々決まらない。

人には沢山の可能性がある。
いろいろやってみることでその可能性が開花する。
結局
転職してしまえば、前職の事は忘れてしまう。
あの時の迷いは何だったんだろう?
誰もがこういう経験は持っているのではなかろうか?

あれから、
かなりの日時が経った。
しかし、その後を聞くことは無かった。



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