見出し画像

仏師・鈴木謙太郎さんが提案する心のひとやすみ。“仏様と一緒の暮らし“。

画像14

「仏師」という職業をご存じですか?
仏師とは、仏像を専門に作る彫刻家のことです。
今回、仏像彫刻の匠、鈴木謙太郎さんにお話を伺い、“仏様と一緒の暮らし“について考える機会をいただきました。
これまで、たくさんの方にインタビューさせていただきましたが、仏様との距離がこんなにも近い方にお話しを伺うのは、わたしにとって初めての経験となります。
まるで観音様のような柔和な印象で、一言ひと言、話される言葉に繊細さが溢れている鈴木さんとの仏様談話。世界中に不安が広がる今、より多くの方にご一読いただけますように。


仏師のつとめは
仏様の魂が入る器を作ること。

画像14

鈴木さんの作品を最初に目にしたのは、千葉県にある本光寺というお寺の中でした。本堂ではなく、広い座敷の部屋の奥でひと際輝いて見えた美しい仏様。すべてを包み込むやさいい面差し、凛とした姿。大袈裟なようですが、見とれていたのだと思います。
少しの間、動くことができませんでした。
こんなに心が動かされる仏様を作ったのは、どんな方なのだろう…。

画像15

わたしの思いが叶い、仏像を作られた仏師、鈴木謙太郎さんとの初対面。イメージしていたとおりの方で、作品は作り手の内面が現れるものだとつくづく感じました。

作品へのこだわりが知りたくて、早々質問させていただくと、やっぱり一番のこだわりは“顔“だそうです。仏様も顔が命というわけです。

「そうですね。一番こだわるのは顔です。何度作っても難しいと思うし、自分が思い描く顔に100%到達してはいません。それと、本当に難しいのは目なんです。目にはいろいろな作り方があって、技術も必要。目の作りによって、全然印象が変わってくるし、完成度にも影響します。
自分の作った作品は愛おしいし、思い入れがありますが、仏教的な思想に影響されたり、入り込みすぎてしまうようなことはありません。作品は仏様の入る器。魂を入れるのはわたしではありません。だから仏様が入る美しく、丁寧な仕上げの器を作ることだけ集中します。それが仏師の務めだと思っています。

画像14

鈴木先生、作品を作っているときの楽しそうな表情が印象的。

画像14

すべて手仕事。仕上げも細かく削り(ちりめん削り)で表面を整える。

★鈴木さんの作品作りはブログ・Instagramでも見ることができます↓

手をあわせて心もひとやすみ。
それが仏様のいる暮らし。

仏師という仕事にも、“仏様“という言葉にも、安易に踏み込んではいけない崇高な響きを感じいる人は多いのではないでしょうか。わたしもその一人、そのせいか、鈴木さんの勧められる日常の中に仏様がいるという環境、まるで同居(?)のような生活がすぐにはピンとこないというのが正直なところです。
家には仏壇もなく、旅行やお正月にお寺にお参りする時にしか仏様に縁がないという人が多い時代です。日々の生活の中に仏様がいるということは何がいいのか、何か変わるのか…。

日常のふとした瞬間に仏様に手をあわせる、それだけで心がホッと休まります。毎日、少しの時間でいいんです。心がちょっとひとやすみする時間ができると、肩の力が抜けて楽になると思います。
今、とくに不安なことが多い時期なので、そんなときこそ、日々の生活の中で仏様がそばにいてくれると、不思議と安心できるという人がたくさんいます。
心を落ち着けるために、わたしのところに仏様を作ってほしいと注文される方もいるんですよ。」

画像14

見ているだけでホットするお地蔵さんも制作依頼が多く人気が高い。


仏壇がなくても、お経を知らなくても大丈夫でしょうか?

「大丈夫ですよ。ただ手をあわせるだけで、いいんじゃないでしょうか。お経まで唱えたら毎日大変ですしね。
それは違うと言う人がいるかもしれません。でも、わたしは、仏様との縁が薄くなっている今の世の中、とくに若い人が仏様をもっと身近な存在に感じてもらうには、生活の中に無理なく溶け込んでいくことが必要だと思うんです。
だから、何かしなければいけないというような決まりなんかナシでいい。家に仏様がいるだけで、自然と手をあわせるようになるものです。手をあわせているときは、ほんの一瞬でも時が止まったように、心が仏様に向けられます。忙しいと、一息つくことってなかなかできなくなってますからね。それだけでいいのだと思います。
手をあわせた一瞬、ホッとした気持ちになったり、もやもやがハレたり、心が軽くなる。気づかないうちに仏様に救われているってことなのだと思うんです

画像2

薬師如来様にコロナ終息を願う。
穏やかなお顔が作者である鈴木さんに似ている。

画像4

本光寺の愛らしいキャラクター「ぽっくん」も鈴木さんの作品。


仏像彫刻教室「木彫りの会」
仏様のいる暮らしを広げていく

鈴木さんは、高校卒業後に京都の伝統工芸を学ぶ学校に入り、彫刻を専攻しました。卒業して仏像をつくる工房に入って修行を積み、生まれ育った千葉県に戻って独立したそうです。
仏師である鈴木さんにとって、京都という街はこのうえなく理想的な環境に思えます。それなのに、地元に戻って活動することを決めたのはなぜ?

「京都は街中、素晴らしい仏像彫刻だらけ。確かに自分のような仕事人には刺激的で、勉強になる街です。
それでも地元にもどってきた理由は、此処(千葉)が京都とは反対に、仏様との縁が薄い土地だから。
仏師がいないし、町全体に仏教が深く根付いているといった環境がないので、そういう場所にこそ自分のようなものが必要だと思いました。それに京都のように何千年という深い歴史がない分、ゼロからスタートのようなものだから、やりがいがありますね」

鈴木さんのいう“やりがい“とは、仏様のいる生活が当たり前のように浸透し、広げていくこと。
その一環として、仏像彫刻の教室を開き、今では3つもの教室で、多くの生徒さんたちを指導されています。


画像14

画像6

画像7

障がい者アート1

近隣の人ばかりでなく、他県から通ってくる人もいて、教室はなかなかの人気のようです。仏師から学べるというというところに希少価値を感じる人も多いと思いますが、それにしてもどうして仏像彫刻を学びたいのか…。生徒さんたちに伺ってみました。

「仏様を自分の手で作る機会はめったいにない。一生に一度、体験してみたかった」

「彫刻とか手作りが好きで興味をもちました。仏様を作っていると気持ちが落ち着きます。」

「仏様が家にいたら、なんとなく安心できる気がして。作り始めたらハマってしまいました!」

「鈴木先生は仏様のことをいろいろ教えてくれます。仏像に興味があったので勉強になります。」

生徒さんの年齢が幅広いことが意外でした。年齢や生活環境が違う皆さんに共通する喜びは、仏様を作ることで幸福感を得られること。心の安らぎとは、案外身近にあるのかもしれませんね。

★「木彫りの会」※HPで詳細と活動状況が確認できます。


仏師だからこそできる新しい提案。
もっと身近に仏様を。

鈴木さんに、これからの活動について伺うと、とっても素敵な提案を教えてもらいました。

「今、もっと身近に仏様を感じてほしいという想いから、『ほとけすまいる』というテーマで、仏様と一緒に笑顔で過ごす日常を提案しています。
『ほとけすまいる』は、笑顔の“スマイル“と日常を共に過ごす“住まい“をかけて作った言葉です。もっと気軽に、仏様と付き合ってもらえる機会を作りたいと思って考えたんです。」

画像14

現代の家庭には、仏壇はないのが当たり前のようになっているし、きちんと仏様を置くスペースもないことが多い。それならば、インテリアに溶け込むような現代的なスタイルで仏様を作ってしまおう!そうすることで、気軽に、そして身近に仏様がいる生活が実現する。
なんて素敵な発想!! 面白いです!

「例えば、家族同然のペットが亡くなってしまった時、いつでも可愛い姿を思い出して手をあわせることができるように、ペットの位牌を作ってみました。これは猫なんですが、後ろに名前を入れてあげられます。オーダーも受けていて、少しずつ問い合わせが出てきています。」

画像16

この仏様との現代的なお付き合いのスタイルは、やはり仏師が作るということで成り立つのだと思います。すべて手仕事で、心を込めて作り上げられた姿は現代的でも、小さくても、祈る人の心を救ってくれる仏様です。
手をあわせて心が安らぐ、そんな仏様のいる暮らしは、今の時代にこそ必要なのかもしれません。
『ほとけすまいる』はホームページ、ハンドメイド通販の「Creema」にて注文を受け付けています。↓


知らないことだらけの仏様
なんで?どうして?の答えが奥深い!!

画像16

①如来、菩薩、明王、天部の順番で階層があります。
如来(悟りを開いた仏様)、菩薩(悟りを開く前)、
明王(如来の化身で怖い顔)、天部(インドの神様で帝釈天や大黒天等)
②くるくるパンチパーマは賢さの証明!
大仏様や如来様の髪型は螺髪(らほつ)と言って、すべて右巻き、知恵の象徴なんです!
③仏様の眉間のホクロ?
眉間の印は白毫(びゃくごう)といい人の苦悩を見抜く仏様の特殊応力の現れなんです!
④仏様の手の形は、仏様からのメッセージ。
仏様の手の形は「印」と言って座禅のポーズ。手の形は基本5種類あって、それぞれのポーズに仏様からのメッセージを読み取ることができます。

鈴木さん裏

Writing:Rie Maeda


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?