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【レポート】場の発酵研究所:第1期#09 [ゲスト]手塚純子さん

こんにちは、事務局の渡辺(わったん)です。

10月12日(火)は、場の発酵研究所・第9回でした。第7回以降は研究員と共に話し合って決定したゲストです。今回は研究員から推薦のあった、WaCreation代表の手塚純子さん。まちづくり事業に関わりつつ、コミュニティスペース「machimin」を運営されています。

第9回ゲスト:手塚純子さん

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1983年大阪生まれ。神戸大学経営学部卒業。体育会アメリカンフットボール部で組織マネジメントを実践。ゼミは人的資源管理を専攻。リクルートに入社し、営業・人事・企画を経験。2018年にWaCreationを設立、同社の代表取締役社⻑兼コミュニティースペース「machimin」オーナー。19年4月より千葉大学非常勤講師。企業、組織のビジョン策定・浸透や企画プロデュースを強みに、まちづくり事業を行っている。

手塚さんの著書のタイトルは「もしわたしが”株式会社流山市”の人事部長だったら」。もともと流山市には「母になるなら、流山市。」というキャッチコピーがあり、手塚さんも移住者の一人。2016年に自身がポスターのモデルになったことから、まちに興味を持ったそうです。

大学時代のアメフト部マネージャーやリクルートでのビジョン策定浸透や採用育成などの経験から、ひとつの組織の人事担当として何かに向かうのに慣れていたという手塚さん。今回、人事の視点でどのようにまちに関わっているのか、話してくださいました。

市民がお客さんだと、まちは続かない

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手塚さん:

「株式会社流山市」が、市民が「税金を払ってるんだから行政がやってよ」とお客さんのようなモチベーションだと、税収入が減っていく時代では成り立たないことは明らかです。

市民が当事者意識をもって、自分でまちをつくるという意識を持たない限り、10年・20年後のまちの未来はありえないと思っています。

「まちづくりなど、いわゆる公共などを仕事にしようと思ったことはなかった」という手塚さん。むしろ考えていたのは、『市民一人ひとりの「したい」という気持ちは、何よりも尊いのではないか』ということ。個人のモチベーションによって組織は変わっていくことを、大学での学びや前職での経験から知っていました。

また手塚さんは、市民がお客さんのようになっているような社会、誰かの期待や正解に合わせに行くような社会に疑問を持たれていたようです。何よりも個人の「したい」が大切で、そのフィールドとしての地域やまち。そんな考えを土台としながら、3年半前から活動をスタートしました。

公共を与えられるのではなく、自分たちでつくっていく

行政に税金を払って公共を作り与えてもらうことはもう限界が見えていて、自分たちで公共をつくっていかなくてはならない。そんなことを言葉だけで伝えるには限界があるので、体験しながら楽しみながら気づいていく場所をつくりたい。そんな想いで2018年にオープンした「machimin(「まち」を「みん」なでつくる)」は、みんなで観光案内をしながら自分たちも観光名所になるという活動として始まりました。

手塚さん:

最初は一人で始めて、縁側にただ座ったり、周辺の草むしりをしながら「こんにちはー!」と挨拶をしていました。「何してるの?」「何をしたいの?」と聞かれ始めて、一緒に過ごす人が増えていくうちに、「ゴールが遠いし、ずっと一人でやっていると壊れちゃうよ」「面白そうだから手伝うよ」と言ってくれる人が表れました。

今はそんな人が120人くらいいて、みんなボランティアで手伝ってくれています。誰も雇ってはいなくて、場のテーマと各自の好きや得意をかけ合わせた商品をつくって、売っています。利益や給料のやりとりがなく、上下関係もない、”粘着”を楽しんでいます。

「公共をつくろう」と掲げるのではなく、活動を楽しみながら話す中で「これって公共かも?」と自分たちで気づくこと。そのようなコミュニティ形成を通じて、自分の人生を自分で生きていく人たちや、また公共を支える人たちを育てていくことにつなげています。(なるほど、たしかに「株式会社流山市」の人事部長だ・・)

事業へのこだわり

machiminをやっていると、企業などから出資やスポンサーなどの声がかかることや、また、市民からも寄付のお話もあるそうです。しかし手塚さんは基本的に、自分たちの事業でお金を得ることを大切にしてきました。だからこそ生まれているコラボレーションがあるようです。

手塚さん:

例えば、障害のある人の仕事が簡単な仕事しかなく、さらには低賃金である現状に違和感を持っていましたが、そんな状況を一緒に変えたいという精神内科が母体の就業支援企業とのコラボレーションが生まれています。

いろんな人といろんな事業がうまれたり、個人事業主や起業家のようになったり、machiminはインキュベーションセンターに見えることもありますが、そう表現したくはありません。あくまでも、みんなが自分の「したい」や幸せに向き合うこと、それが公共につながっていくことを体験できる場所、ということにこだわっています。

また例えば、machiminに会いたい人がいるからと家を出て、やったら良さそうなことをやり、たまたま出会った人との何気ない会話で、「そう言えばやってみたかったこと」を思い出すというシニアの姿もみられています。machiminを通じてシニアが元気に活動するようになると、年金などの莫大な社会保障費が必要最低限となり、その分を子どもの教育や新しい公共サービスづくりに投資していけるのではないか。そしてゆくゆくは、税金の配分を住民自身が決めていくことができる仕組みをつくれないか。という構想も話してくださいました。

流山市にある4つのmachimin

手塚さんの活動の中心となっているmachimin、現在は既に4つもあるそうです。最初のmachiminは、古民家を紹介してほしいと言ったのに、駅前のガレージを紹介されたそう。そこで発想を転換し、ガレージを古民家にしてみよう、と。

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コミュニティスペース 兼 観光案内所
今あるモノで始める、みんなでつくることにこだわり、「これからこんなことをしていきたい、こんなバショにしたいから、ご自宅で不要でここに合うモノがあればください」という看板を出すところから。おばあちゃん家の縁側をイメージしている。菓子製造所を併設、人が増え喫茶営業免許も取得。ヒトやモノ、商品が増えてパンパンになったところで、2拠点目へ。

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コミュニティスペース 兼 駆け込み寺
地域のために使って欲しいと、自由に改装していい条件で空き家を譲り受けてオープン。子ども食堂をやりたい人、子どもの学習支援をしたい人たちが集まる。特に子ども食堂は、フードロス対策として食材提供を受けて、食材費ゼロでいろんなメニューが作られる料理教室にもなっている。たくさんのことが実践型で学べるので、通う子の親が活動をまとめ学校に報告すると「総合学習に等しいので出席扱い」と認められた。市の高齢者支援課のふれあいの家事業でもある。

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コミュニティスペース 兼 田んぼ公園
不登校対策に取り組んでいた小学校の先生が、machiminに関わる中で、ご自身が子どもたちとやっている田んぼを紹介してくれた。稲刈りを終えた田んぼは空き地のようになる、そこで田んぼを公園として活用。トレーニングに使う人もいればコンサートに使う人も現れ、「こんな使い方をしたい」が増えたので、田んぼに加え畑も運営し、今はオーナー制のプライベートな公園になった。6次産業化体験も可能になっている。

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コミュニティスペース 兼 移動図書館
公園や図書館や公民館など「公」がやっているものをmachiminの考え方でやるとどうなるのだろう、という実験。公園に椅子と本棚を置くだけ。いろんな人に声をかけてもらい、アイデアも増えて運営して10カ月、市と公園活性化にまつわるパークマネジメントの要件を模索する協定を締結した。

またmachiminでプロジェクトを立ち上げるときには、4つの要素を掛け合わせることを大切にしているそうです。

・好き、得意、してみたい、できる
・まちがよくなる
・誰でも参加できる
・多世代交流になる


たくさんのプロジェクトが生まれているようで、例えば、「本みりん研究所」。流山市はみりんの発祥地であり、みりんを「洋」の視点で捉え直してスイーツに活かすなど、machiminに来るいろんな人がオープンに関わる商品開発です。

https://honmirin.net/
(本みりん研究所)

固めない、パターンにはめ込まないということ

研究所発起人の2人からの質問が始まります。坂本は、手塚さんが「固まろうとするときに固めない」ところがおもしろい、と感じたといいます。ふわっとしている状況、それを保ち続けているのは手塚さんの素養なのか、手法なのか。。何なのでしょうか?

手塚さん:

第一に、自分が素人であることを大切にしています。そして、固めることでおもしろくなった経験がないことが大きいです。パターンに当てはめると「つまんなくない?」と飽きてしまう傾向があるかもしれません。

坂本が思い出したのが、デンマークの「カオスパイロット」。デザインスクールやビジネススクールをミックスしたような学校ですが、まずはプロジェクトをやってみてからセオリーを知る、ことがポイントだそう。

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手塚さん:

自分としては、人材育成という一本軸でやってきたつもりが、専門家の方々から、ある時はティール組織のようだと言われ、都市計画の手法だと言われ、ソーシャルビジネスやアート思考とも言われることがあります。そのカオスパイロットについても、そう。

カオスが混乱だとすると、混乱はひとつの手法だと思いました。いろいろと新しい情報があって混乱するけれど、そこで考え抜いたことが、本当にやりたいことだったりします。

いろんなことを言ってもらえる中で、興味を突き詰めている感じです。

「利益ゼロでやっていく」実験

藤本からは、プロジェクトの収支について質問がありました。ここにも、手塚さんならではのこだわりがあります。

手塚さん:

リクルート時代は、脳みそを売ることで利益があがりました。その真逆をやってみたいと思ったんです。ガレージを借りて、お菓子などの商品をつくって収入を得ること。ぜんぜん利益が出ないので、すごく頭を使って工夫し経験がたまります。

machiminをやっていると、お金に関するいろんな話をいただくことがありました。広告をだしたいとか、保険や不動産の仲介や、人材紹介などの依頼も。でも、信頼は売りたくないし、創造力も落ちる気がして、仕事としてやることは断ってきました(つまり企業側ではなく、仲間やお客様の希望であればボランティアとしてやりました)。

その方々とも何かしら繋がりが残るもので、困った時には助けてくれたり、スタッフが足りない時の店番をしてくれたり、売れる商品やwebサイトを作ってくれたり、会計業務や法務業務を手伝ってくれる人が現れます。そうして自分で利益を上げること、でも信頼だけは売らないこと、周囲に素直に頼ること、結果的に固定費や仕入れなどのコストが下がって、そんなに利益は必要なくなりました。

発起人の2人からは、精算しない関係性、買わない関係性、渡し合う関係性など、いろんな表現が飛び交いました。しかしここまでの話を踏まえると、手塚さんは「machiminは◯◯な関係性」とは言わないのだろうと思います。「お金がなくてもできることにこだわる」、それはメリットでもなんでもなく、手塚さんと仲間たちの「やってみたい」「おもしろい」が集まっているところなのだなあと思いました。

研究員からも感想や意見が飛び交います。研究員には、企業で働く人もたくさんいます。やりたいことをやる、利益ゼロでやっていく、といった話は、生き方そのものを考え込んでしまうような内容だったようです。「自分の運転手は誰なのか?」という印象的な問いも挙がりました。

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手塚さん:

目の前の事実は一つだけど、現実は人数分あると思います。

自分が自分のオーナーとなり、オーナーが集まって個々が幸せを追い求める中で、「一緒に暮らすのにルールは必要だよね」と公共が生まれていくのではないかと思います。

しかし今は、そのルールが先にきているのが問題なのかもしれません。

様々な関係性の中でプロジェクトを進めてきた手塚さん、もちろん失敗もたくさんあったそうです。コラボレーションする時に、お互いに譲れない部分があって戦ってしまったこと。関係性が絶たれてしまうようなことを言ってしまったこと。「正解を出そうとしている時こそ失敗している」と。しかし同時に、「その瞬間は失敗だと思っても、長い目で見ると成長、ちゃんと反省して次につなげていける、というポジティブな思考もコミュニティづくりでは大切」と、手塚さんは力強く語ってくださいました。

本当は正解なんてないのに、正解を出そうと考えてしまうことは、自然と型にはまっていく思考になるのかもしれません。カオスな状態、もやもやしている状態こそ、創造性を保つ源泉。場の発酵研究所もまた、問いはあるけど、正解は出そうとしないし求めないというスタイルです。今回もまたもやもやと、発酵しながら次回につながっていきそうな回となりました。


いつもご覧いただきありがとうございます。一緒に場を醸し、たのしい対話を生み出していきましょう。