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知能と感性、肉体をフル活用せよ!八百屋が教える市場仕入れその③〜実践、相対取引編〜

 これまでの〜八百屋が教える市場仕入れ〜シリーズでは、市場仕入れの基本知識である卸売市場の売場の種類や取引形態、事前注文取引などについて説明してきました。

 ここからは数回に分けて、実際八百屋がどのように市場で仕入れを行なっているのかについて、具体的な八百屋の一日のスケジュールと一緒に解説していきます。

 八百屋(青果店八彩)の一日のタイムスケジュールは下記の通りです。

<八百屋の一日のスケジュール>
AM4:30  起床
AM5:00  市場到着、相対取引で仕入れ開始
AM7:00  セリ取引開始
AM7:30  仕入れた荷物の回収
AM8:00  市場を出発
AM8:30  店舗到着、荷下ろし開始、陳列、パッキング、仕分け作業
AM10:00   店舗オープン
AM12:00 お昼休憩
AM13:30 他店舗分の追加パッキング、配送
AM16:00 販売ピーク
AM19:00 閉店、締め作業開始
AM20:00 帰宅

八百屋の朝は早い。なぜ早いのか・・・。

その理由は大きくふたつ

青果物は作り手や産地によって一つ一つ品物の質が異なるから

そして、市場での仕入れ(当日取引)は早い者勝ちだから

前回のnote(詳しくは〜相対取引と事前注文取引について〜を参照)で解説した通り、市場仕入れには事前注文取引当日取引の二つが存在すること、また、それぞれのメリット・デメリットを説明しました。

 小さな八百屋が、仕入量が大きく肉や魚、加工品なども扱っているスーパーなどの量販店(巨艦のような存在)に勝つためには(消費者がスーパーではなく八百屋で青果物を買ってもらうようにするためには)、小さいがゆえ(小回りのきくこと)のメリットを生かして戦う必要があります。

 そのメリットが最も発揮されるのが、当日取引です。前回のnoteでも説明した通り、スーパーなどの量販店の最優先事項は品物を十分に揃える、すなわち確実に必要な品物を仕入れるということです。

 そのため、当日の入荷量や入荷品目により必要な品物・数量の仕入れができたりできなかったりする当日取引は量販店にとってはリスクが高く、量販店の仕入れは基本的には事前注文取引によって行われます。

 前回のnoteでも説明した通り、事前注文取引はある程度確実に商品の仕入れができる一方で、仕入価格については流通事業者側に主導権があるため、すごく安い値段で仕入れをするということが基本的には難しくなります。

 また、商品となる野菜や果物についても、実際に品物を確認して仕入れを行うわけではないため、品質の面でもバラツキがでたりもします。

 一方で、一つの品目あたりの仕入量が比較的小さい八百屋にとっては、良質な品物を安く仕入れられる可能性のある当日取引がある意味(仕入れにおける)勝負の場となります。

 下記では当日取引を中心に、八百屋の具体的な仕入れの流れやポイントを説明していきます。

<AM4:00〜AM5:30 市場に入荷した品物を把握せよ>
 朝市場に到着すると、まずは事前注文を入れていないが、確実に仕入れをしたい品物(キャベツや人参、ネギ、レタスなど定番品が多い)を確保しにいきます。

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 市場は品目(野菜や果物の種類)によってそれぞれエリア(売り場)が分かれており、荷物のある場所にいくと通常であれば品物が積まれています(たまに需給が崩れて市場への入荷量が少ない場合、売り場に一つも荷物がなく愕然とすることもあります)。

 荷物の上には、仕入表が置かれており、ここに自分の買参権の番号と欲しい数量(原則ケース単位)を記入し、品物にマジックで自分の番号と数量を書いておきます(荷物はあとでまとめて回収するため、一旦売り場の脇に置いておきます)。

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 市場によって仕入表に値段が記入されている場合もあれば、記入されていない場合もあります(弊社が仕入れをしている豊島市場は値段が記入されているのですが、他の市場では値段は記入されていないことがほとんどです)。

 ここで普通の人なら、「値段が記入されていない場合どうするの?」となると思います(自分もはじめ値段が分からないのに他の買参人の人たちがどんどん仕入れていくのが意味がわかりませんでした)。

 仕入表に値段が記載されていない場合には、とりあえず番号と数量を記入して品物を確保しておき、卸売会社の担当者が来た際に値段を確認する必要があります。

 これも市場によって異なるのですが、各品目の担当者(卸売会社の社員)は通常6時前頃に出社してくるため、その時間までは値段がわからないけど、前日の相場などを踏まえながら、一旦品物を抑えておく(購入しておく)ということになります。

 たまに前日から相場が急騰していて、品物を抑えていたは良いものの、その価格だったらこんな量絶対にいらないということもちょくちょく発生するため、値段の分からない状況で商品を購入するリスクはあります。

 このようにして、仕入れの優先度の高い品物から卸売場で仕入れを行っていきながら市場を周り、その日の市場の入荷量と品物を頭にいれていきます。

 市場は日によって入荷量や入荷する品物が異なるのですが、今日は全体として入荷が多いのか、少ないのかを理解することで、後ほど行う担当者との価格交渉のスタンスを判断していきます。

 全体的に入荷量が多いと担当者としては、多少値段を下げても販売しなければならない状況でであり、逆に入荷量が少ないと値段を下げる必要がない状況となるからです。

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 また、上記で品物を抑えると言いましたが、ここが八百屋の目利き力が試される一つのポイントとなります。当然、青果物(農産物)というのは工業製品とはことなり、品物一つ一つが大きさや形、味などが同じネギ、トマト、キャベツであっても全て違っています。

 一つ一つ異なっているものをそのままにすると、取引がスムーズにいかない、安定しないという理由で市場流通には"規格"という概念が存在します。この規格については賛否両論あり、語り出すとかなり長くなるので、ここでは規格というものがあるということを一旦説明しておきます。

 規格は品目や産地によって異なっているため、唯一無二のコレというものはないのですが、通常は大きさ見た目で分けられることが多いです。

 業界的にはこの大きさを階級(カイキュウ)、見た目を等級(トウキュウ)と呼び、ふたつを合わせて等階級(=規格)と呼んでいます。

 階級は、大きい方から4L、3L、2L、L、M、S、2Sといった感じでいくつかのグループに分けられます。

 等級は産地によって表示の仕方が異なりますが、代表的なものとしては、A、B、C、D、○(マルと読む)、地域によっては秀、優、良、果物などは秀(赤色で記載されてアカシュウと読む)、秀(青色で記載されてアオシュウと読む)など様々な等級が存在しています。

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 したがって、例えば、ネギの売り場であれば、千葉県産や茨城県産などのA3L、A2L、AL、AMといったネギが置かれています。

 さらに同じ産地の同じ規格であっても、作り手である生産者によって品質が異なるのもポイントです。そのため、プロの仕入れ人は、それぞれの品目、産地ごとに質の高い品物を作っている生産者の名前が頭に入っており、こうした生産者の品物から早い者勝ちでなくなっていく傾向があります。

 また、かなり抽象的な表現になりますが、同じ産地、規格のものでも、野菜やくだものによって元気さ、美しさがそれぞれ違います。

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 この元気さ、美しさを感じる力というのが、仕入れにおける目利き力だと言えるのですが、なんともこれ以上表現のしようがないのですいません(笑)

 自分も市場に仕入をし始めたころは、この元気さ、美しさの違いはそれほど感じなかったのですが、経験を重ねるうちに(毎日野菜やくだものを見ているうちに)、一目で品質の良い野菜、そうじゃない野菜がわかるようになっていきました。

 ただ、この元気で美しい野菜は、すべての八百屋(バイヤー)が一目惚れするため、(値段次第ではありますが)基本的には取り合いとなり、すぐになくなってしまいます。

<AM5:30〜AM7:00 売り子さんと交渉しながら商品の仕入れ>
 6時前後になると各品目の売り場に卸売会社の担当者(以下、売り子)が立つので、狙いをつけておいた品物について値段交渉をおこなっていきます。

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 例えば、かぶが仕入表に1ケース1,500円と書かれていた場合、売り子さんに対して「3ケース買うので(1ケース)1,300円でどう?」といった交渉をおこないます。

 基本的な値引き交渉の内容としては、複数ケース買うので安くしてほしいというものになります。売り子さんとして早く売ってしまいたいということであれば交渉に応じるし、相場的に供給の方が少なくて他にも買い手は見つけられると判断すれば交渉には応じません。

 売り子さん側も当日取引は値引き交渉を八百屋に持ちかけられることを折り込み済みで朝の値段をつけているように思います・・・。

 そして、値引き交渉のポイントとしては、指値が重要です。いくらでもいいから安くして、という交渉ではなく、明確に○○ケース買うので、〇〇〇円にしてほしいと伝える必要があります。

 この指値ということは意外と難しくて、前日の相場や当日の相場、買おうとしている商品の質、自分のお店で売れる値段や在庫量など様々な要素を考慮しながら、売り子さんにっても絶妙の値段を提示することが重要になります(そういう値段を提示すると担当者は非常に悩み出します)。

 センスの良い指値を提示しているかどうかは、売り子さんのリアクションをみると一目瞭然です。

 指値が安過ぎる場合、売り子さんからは一蹴されます(これをやりすぎると売り子さんから嫌われる、または軽蔑されます笑)。逆に指値が高過ぎる場合は、即レスで交渉が成立します。

 センスの良い指値をした場合、売り子さんは非常に悩みます。これは絶妙な指値のラインであることの兆候です。

 やはり市場の中でもやりての仕入れ担当者と呼ばれるような人たちは、上記で述べたような前日の相場感や商品の良し悪し、自分の店舗での売れる販売単価などが長年の経験と日々の地道な努力により頭の中に叩き込まれており、売り子さんにとって非常に悩ましいギリギリのラインで交渉を行なっています。

 ちなみにこの指値は、当たり前ですが購入する数量とも紐づいているため(購入する数量が大きければ大きいほど、大きなディスカウントを提案できる)その点には注意が必要です。

 自分も初めの頃は、値段だけ先に交渉してしまい、交渉した値段で1ケースだけ持っていこうとすると、売り子さんから「今の値段は全部まとめて持っていったときの値段じゃないの!?」と騙したような形となるので、指値を提示する際には必ず数量もセットで交渉する必要があります。

 また、青果市場での仕入れの際に重要となるのが、"符丁(ふちょう)"と呼ばれる市場独特の数字の表現方法です。基本的に市場内でやりとりされる数字は、この符丁を使って行われるため、符丁を理解していないと商品がいくらなのかが分からないという状況が発生します。

 例えば、売り場に置かれているキャベツについて、売り子さんへ「このキャベツいくらですか?」と尋ねると、「チョンブリだね」みたいな感じで返ってきます。

 チョンブリは「12」を意味する符丁で、ここでいうと、キャベツは1箱1,200円ということになります。

 その昔、市場に飛び込んで最初の頃は、この符丁が頭にはいっておらず、(でも売り子さんになめられたくなかったので)、分かったフリを装って仕入れしていましたが、結局値段が分からずじまいで全然仕入れになりませんでした(笑)

 今は、符丁が分からなくても売り子さんに尋ねると通常の数字で教えてくれますが、符丁が分からない=素人と見なされる(値段ふっかけても大丈夫かなと思われる)リスクがあること、後ほど説明するセリでのやりとりが理解できないことから、市場仕入を行う場合には符丁の理解は必須になると思います。

 符丁については下記にまとめてあるので興味があれば見てみてください(符丁は、地域や市場ごとに若干異なります)

https://docs.google.com/spreadsheets/d/1vE2rivK7h7cZhEL2Bxymqwi7C4JsSbKbt17ZlP_BFz0/edit?usp=sharing

 前回のnoteで、卸売市場には、卸売場と仲卸売場の2つの売り場があることを説明しました(詳しくは〜売り場の種類と買参権について〜を参照)。

 上記で説明したのは卸売場での仕入れなのですが、仲卸売場での仕入れ、すなわち仲卸業者さんからの仕入れも重要なポイントになります。

 仲卸売場の特徴としては、商品が単品単位で仕入れられること(卸売場では商品の仕入れはケース単位となります)、仲卸業者さんが深夜に卸売場で大量に購入した商品などが卸売場よりも安く売られていること、仲卸業者さんが産地から直接仕入れてきた珍しい野菜や果物があることなどがあげられます。

 大手の量販店などは、仕入れを仲卸業者さんに丸投げしている場合がほとんどで、卸売会社の売り子さんだけでなく、この仲卸業者さんとどう付き合って行くのかも市場仕入れでは結構大切なポイントとなります。

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 仲卸業者さんと一言でいっても、それぞれの仲卸業者さんで取り扱っている商品の質のレベルや価格帯、品物、仕入先、(担当者さんの)性格などそれぞれタイプが違っているので、自分のお店のスタイルにあった仲卸業者さんを見つけることが大切です。

 とはいえ、それぞれの仲卸業者さんで扱っているものなども異なるため、出来るだけ幅広い仲卸業者さんと繋がっているに越したことはないのですが、やはり彼らも商売なので

 例えば、ある商品を仲卸業者さんで購入すると、別の仲卸業者さんから、「なんで向こうの仲卸で買ってるんだい?」、または、商品を卸売場(現場とも呼ばれる)で購入していると、馴染みの仲卸業者さんから、「現場でばっかり買いすぎじゃない?」といったことを言われたり(言葉はかなりオブラートに変換してます(笑))、無言のプレッシャーを感じることが多々あります。

 これがいき過ぎると、いざその仲卸業者さんから買いたいものがあっても、商品を売ってくれない、高い値段をつけられるなどといった弊害が生まれます(市場の世界は本当に難しいです(笑))

 そういう時に自分が実践していた方法としては、

● 別のところで買った荷物を運ぶときに、馴染みの仲卸業者さんの前をできるだけ通らないようにする(とはいえ、狭い市場なのでどこかでバレるのですが・・・)

● 商品を買わない場合でも、しっかりと毎日挨拶をしてコミュニケーションをしっかりととる(挨拶からの世間話でごまかす(笑))

 ということでした。特に後者の挨拶をしっかりとするというのは、市場に限ったことではないですが、特に市場では重要なことのように思います。

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 読者の中には、「そこまでして仲卸業者さんと繋がっておく必要あるの?普通に卸売場で直接卸売会社から仕入たらいいんじゃないの?」みたいな疑問を持つ方もいらっしゃるかと思うのですが

 卸売場の弱点は、商品の入荷量が日々安定しないという点で、産地から荷物の入荷が少ない場合に、売場に商品がまったくないような状況が発生します。

 一方で、仲卸業者さんは、様々なルートから仕入れを行っているため、そうした場合にも商品の在庫を持っていることがあり、自分たちのような八百屋からすると、最後に頼れるのは仲卸業者という感じになっているのが実情なのです。

 話は少しそれましたが、上記のような形で卸売場、仲卸売場の両方で仕入れが必要な商品を一つずつ仕入れしていきます。

 尚、卸売場での仕入れについては、すべての商品を売り子さんに対して当日交渉をしながら仕入れるわけではなく、必ず仕入れが必要な野菜や果物(主に主要な商品)については、前注文という形で前日に売り子さんに対して発注を行います(特にお店の規模が大きな事業者さんは必要数量を事前に抑えておいてもらう必要があります)。

 この前注文した商品がしっかりと用意されているのか、また値段はいくらなのかは当日に、それぞれの売り子さんに確認をしていきます。

 市場への入荷状況によっては、前注文を入れたとしても商品が欠品している場合があり、そうした場合には急いで当日に仕入れする必要があります。

 前注文を入れた商品の欠品時にもしっかりと商品を集められるのかというのも、仕入担当としての実力が問われる瞬間です。

 そうした場合には、自身の持つ様々なルートやツテを使って仕入れが必要な商品の仕入れができないか(場合によってはすでに購入している仲卸さんや八百屋さんに分けてもらえないか)などをあたっていきます。

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 市場内で普段からこうした横の繋がりや関係を築いておくことが大切な理由の一つは、そうした状況においてリスクヘッジにもなるからです(逆に、他の仲卸業者さんや八百屋さんが困っているときは、多少身を削ってでも助けてあげることが大切になります)

 そうこうしながら、市場を回り、各売り場の売り子さんと一商品ごとに相対で交渉をしながら仕入をしていきます。

 すると朝7時に市場全体に鐘の音が響き渡ります。

 これが次なる戦いである競売(セリ取引)の合図なのですが、ちょっと長くなってしまったので、セリ取引についてはまた別のnoteで。

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