ダメパパが私立小学校受験に挑んでみた1 ~序章~
202X年のある日、妻が僕に一つの提案をしてきた。
「私立小学校を受けたいと思ってるんだけど」
これが地獄の始まりだと、この時の僕はまだ何も知らない……
※本記事は事実と異なる点を織り交ぜながら書かれております。
※本記事は小学校受験のためのハウツー記事ではなく、あくまでダメパパ視点の思いが書かれた記事となります。そのため小受に気乗りしない配偶者の考えを量るときの参考にしてもらえればと思います。
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娘が生まれて5年になろうとしている。
特に大きな病気もせず元気にすくすくと育ってくれて、今は幼稚園の年中にまでなった。
娘はとても素直でいい子に育ってくれている。子供ながらの活発なところもありつつも、大人しく、親の言うこともしっかりと聞いてくれる。
幼稚園での生活も特に問題なく、親バカも多分に含んではいると思うが優秀な子だと思う。
あと1年ちょっとで卒園、そして小学生になるのか、早いもんだな―。
そんな思いを巡らせていた夏のとある日、妻が僕に話しかけてきた。
「ねぇ、うちの住んでいるところだと、〇〇小学校(地元の小学校)だよね?」
「調べたことないけどそうなんじゃないかな、近いし」
「あのさ、公立小学校じゃなくて、私立小学校を受けさせたいと思ってるんだけど、どうかな」
「え?小学校から私立?」
小学校から私立に行かせることなんて考えてもみなかった。なんとなく、妻としては私立に行かせたいという願望を持っているんだろうなと想像してはいたが、うちの経済状況的には無理だろうから、小学校から私立に入れることを諦めていると思っていた。
そんな中でのこの提案であった。
娘を私立小に通わせたいという願望を妻が持っている理由は、妻の生い立ちを知れば容易く想像がつく。
突然だが、ここで当時の我が家(イトー家)を紹介しよう。
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イトー家の紹介
【僕】
30代後半。小学校は公立。中学校受験にて私立中学に進学。一貫校であったため、そのまま大学まで受験を経ずに進学。卒業後は普通のサラリーマンとして生活(都内勤務)。だいたい妻の尻に敷かれる。
【妻】
僕とは同い年。某私立小学校に入学後、同学校で大学まで過ごす。卒業後はOLとなり、現在は育児休業中。トイレにこびりついた汚れと同等の頑固さをもつ。頑固の申し子。ざわざわ森のがんこちゃんとはこの人のこと。
【娘】
4歳の年中。幼稚園に在園。自分から話しかけにいくような明るいタイプではなく、どちらかといえば受け身な性格だが、仲の良い友達といるときは快活になる。何でもそつなくこなす。熱中しているものがないので、何が好きなのか親でもわからない。お父さんよりもお母さん大好き。
【息子】
1歳半。1歳になったタイミングで保育園に入れず、家で過ごしている(故に妻は育児休業を延長中)。姉に反してめっちゃ活発。男児ってこうも育てにくいの?ってほど活発。元気がありあまりすぎて生傷が絶えない。お父さんよりもお母さん大好き。
【その他情報】
神奈川県在住。ローンありの持家に住む。世帯年収は900万円ほど。
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妻が娘を私立小学校に通わせたいと望んでいることを、何故僕が予想していたかというと、妻自身が私立小に入学しているからだ。
妻は私立小がどんなところか、自分自身の経験によって知っている。逆に公立小のことは経験がないから何も知らない。大切な娘を未知の世界である公立にぶち込むより、勝手を知っている私立に入れた方がアドバイスもできるし、娘の幸せになると思っているのだろう。
少し話が脱線するが、子供の進路や将来を考えるときに、まず初めに親が参考にするのは自分自身の人生だろう。
親である自分自身が、どのような経験を経て生きてきたか。そして、その経験を経た”今”がどれだけ幸せか。そういったものを尺度にし、子供へのアドバイスを考えるだろう。
例えば、今自分が働いている業界がとんでもなくブラックだったら、子供にそんなつらいおもいをさせたくないがために、その業界は敬遠するように伝えるだろう。逆にとてもホワイトな業界であれば、おすすめするようなアドバイスをするだろう。
極論すると、今が幸せなら自分の歩んできた道を正として子供にも似たような道を歩んでほしいし、今が不幸なら自分の歩んだ道は誤りであったとして別の道を歩ませたくなるだろう。大なり小なり、親としてのバイアスがかかり、子育てを考えるケースが多いのではないだろうか。
妻が娘を私立小に行かせたいと思うことも、このケースに当てはまる。自分自身が私立小学校で過ごした日々は、とてもいい思い出として残っているのだろう。そんな経験を娘にもさせてあげたい。だから私立に入れたい。そう考えるのは自然なことなのかもしれない。
「どうかな?」
妻が再度聞いてきた。
「どうもこうも、経済的に厳しいんじゃないの?学費とか結構するでしょ」
もっともらしい理由をつけて、僕はやんわりと断った。しかしそこは妻の方が一枚うわてだった。
「そんなことないよ。貯金もそれなりにあるし、入る学校によって学費の幅は結構あるしね。余裕ではないけど、狙うところによっては通わせられる」
「そうなの?それでも厳しくなるんじゃない?」
「まぁ余裕ってわけではないから、手始めに私とあなたのお小遣いは1万円になるね」
「1万……だと?」
この機会に乗じてとんでもない提案をする妻に、僕は心の底から震え上がった。
だいたい、妻が公立小のことを何もわからないのと同じぐらい、僕も私立小のことがわからない。小学生という、子どもの人格形成のうえで重要な時期に、自分と同じ道を歩んでほしいという考えは、当然ながら僕も持っている。つまり、未知の世界である私立にいれるんだったら、僕と同じように公立小に通ってもらった方が、いい経験を得ることができるのではないかと思うのだ。
何より、私立小に入れるには受験勉強が必須である。それはあまりに面倒な気がする。うん、とても面倒だ。そんな面倒な思いをしてまで、わざわざ子供にとって吉と出るか凶とでるかわからないような博打をしたくない。だから僕は断った。全力で。
「そもそも子供にとって私立がいいなんてわからないよね。しかも本人にとっての入りたい小学校があるわけでもないし。受験がなんなのかもわからないような年齢で受験させるってのは、親のエゴそのものでしかないじゃん。何より小遣い1万は辛すぎませんかねぇ……?」
「もちろん、結果的に娘に合う学校であるかどうかは通ってみないとわからないよ。でもそれは公立だって一緒でしょ?それに公立って荒れてるイメージがあるし、娘の性格に合うような私立に通った方が、娘のためになるよ」
出ました。公立は荒れてる発言。いかにもお受験ママが良いそうなセリフだ(偏見です)。確かに、入学試験というフィルターを通している私立小であれば、生活水準や思考が似たような家庭ばかりになるだろう。私立小学校であれば、勝手に友達の家に入り込んで5時のチャイムが鳴っても家に帰ろうとせずにずっとゲームをし続ける佐久間君や、気に入らないことが起きると奇声を発しながら椅子を投げ飛ばしてくる小林君や、男子についての嘘八百を先生に言いつけてあらぬ疑いで叱られる男子を遠目でみて楽しんでいた近藤さんみたいなヤベー連中はいないのだろう。きっと妻の中の公立小では、「汚物は消毒だー」とかいいながら火炎放射をぶっ放すようなやつらが蔓延っているのだろう。完全に偏見である。
しかしながら、そんなヤベー連中がいる公立小でしか学べないこともあるだろうし、ヤベー連中と渡り合うことでたくましく育つのではないか。何より僕も通っていた公立小を「荒れている」の一言で忌むべき存在のように語られたことにカチンときた。「公立小は私立小より劣ってるだろ」。そんな言い方にしか聞こえなかった。それはつまり、公立小出身の僕を否定する発言ではなかろうか。だから僕は公立小のすばらしさをアピールした。
「公立小だっていいところあるでしょ」
「例えば?」
「確かに公立小は誰でも入れるから、佐久間君みたいなヤベーやつもいるよ。でも逆にそんなヤベーやつと出会えるのも、公立ならではの特徴だと思うよ。小学生の段階から、上から下まで色んな家庭があるってことを学べるじゃん。世界はきれいごとだけじゃなくて、色々な人や事情が存在するということを早い段階から体験できることは、処世術を学ぶうえではとてもいいことだと思うよ」
勝ったな。これは勝った。私立小の甘々な環境では学べないことが公立小にはあるんだよ。ポケモンカードをパクられて涙をのんだ経験なんて、公立小でしか味わえないはずだ。そしてその経験のおかげで、悪意のある人がこの世には当たり前のように存在することを知った。友達同士あっても安易に貸し借りをしないとか、人を安易に信じてはいけないということを学べたんだ。僕はそうして強くなった。
「その経験って必要なこと?そんな嫌な経験を娘にさせたいの?」
「え?……まぁしなくてもいいと思う」
「でしょ?」
確かにポケモンカードをぱくられる経験なんて、娘にさせたくない。涙を流してほしくない。鋭い指摘を受けて早くも劣勢に立たされた。何か他に公立小のいいところはないか……
「あとは、私立小って電車通学になるでしょ?放課後に友達と遊ぶ経験とかできないよね?放課後、ランドセルを家において、近くの公園で日が暮れるまで友達と遊ぶ。そういう楽しい経験はできないよね。そこで育む友人関係って人生において重要だと思うよ」
これはいいところをついてるぞ。私立小に通ったら、放課後に友達と遊べない。泥だらけになりながら、友達と遊ぶといった経験がないなんて悲しすぎる。これはもう公立にいくしかないだろ。
「あなたの言う通り、私立小だと放課後に公園で待ち合わせして遊ぶとかはできないね。でも帰り道の電車で一緒の友達が絶対にいるから、電車の中でお話しして仲良くなったり絆が深まるものだよ」
「ふんっ。長くて1時間ぐらいの電車の中で友情を育めるなんて、たかが知れてるんじゃない?」
「私は大人になった今も遊んだりする友達とかいるから、友人を作る点に関しては別に問題ないと思うよ。逆にあなたは小学生からずっと付き合ってる友達っているの?」
「……いません」
ああああああ!!負けちゃう!!このままじゃ私立を目指すことになっちゃう!!!根暗で友達が少なかったことがこんなところであだになるなんて。
何か他にないか、公立のいいところ……というか、冷静に考えると公立に入れさせたいがために公立のすばらしさをアピールするってどういう状況だよ。滑稽すぎるだろ。公立だけの素晴らしいとこなんてねぇよ。
「でもさ、やっぱり経済状況的に無理なんじゃないかなぁ……」
「それはお小遣い1万円にすれば大丈夫だから問題なし」
「わかったよ……好きにしてくれ……」
さすが頑固者の妻である。君が泣くまで殴るのをやめない、その典型なのだ、この人は。言い出したら絶対に曲げない。そもそも勝ち目のない戦いだったのだ……
こうして目指したくもない私立を目指すことが決まってしまったのだった。あと小遣い1万円も決まったのでした。
続く
【ダメパパ私立小受験記まとめ】
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