ダメパパが私立小学校受験に挑んでみた9 ~家庭学習編~
【3行でわかる前回のあらすじ】
起床時間が
1時間
早くなった
【ダメパパ私立小受験記まとめ】
【イトー家の紹介】
〈僕〉
30代後半。都内勤務のサラリーマン。不本意な小受に邁進中。
〈妻〉
僕と同い年。某私立小学校の卒業生。悪魔。
〈娘〉
4歳の年中。小受に奮闘中
〈息子〉
1歳。最高にハイな男児。
〈その他情報〉
神奈川県在住。ローンありの持家に住む。世帯年収は900万円ほど。
【本編】
娘が新年長にクラスアップし、いよいよ受験に向けて本格的に動き出す必要がでてきた我が家。
当然、授業時間や課題も多くなったことで、更なる協力体制が僕に求められた。
ここまで私立小受験について悪態をついてきた僕だが、実はさほど自分の時間を奪われるようなことはなかった。
ここまで読んできた読者ならお気づきだろうが、僕がやっているのは週一回のお教室に娘を送り届け、1時間半ほど授業が終わるのを近くのカフェで過ごし、娘と一緒に帰る。ただこれだけなのだ。
しかも娘お教室が終わるまでの待機時間中には、遊戯王カードに勤しんでいるので、実質娘の送迎をしているだけなのである。キャッシュバックにより実質無料みたいなものだ。
しかし新年長になり勉強量が増えたことで、僕は1時間早く起きて、娘のお勉強を見なければいけなくなってしまった。つまり本格的に自分の時間に、小受というものが浸食しだしてきたのだ。まるで殺人アメーバのように僕の大事な部分に浸食し、僕を壊し始めたのだ。
そんな大事な部分を侵食されることはもちろん嫌なのだが、なにより妻が死ぬほど怖いし、禍根を残したくないので、しっかりといつもより30分早く起きて娘の勉強をみることにした。要求されたのは1時間だが、勝手に30分に変更するあたり、ささやかな抵抗がみてとれる。いや、イタチの最後っ屁かもしれない。
ささやかに抵抗しながらも、実際に娘の家庭学習を見始めると、これがかなり大変であることに気づく。
僕が担当することになったのは、ペーパー課題である。つまりはお教室で配られた分厚いプリントの束をこなしていかなければならない。
しかしペーパーぐらい余裕だろうと思っていた。なぜなら娘はお教室でいつも楽しそうに過ごしているし、お教室でペーパーの課題に取り組んでいるときは特に不満な顔もせずにこなしていたので、家庭での学習も難なくこなしてくれるだろうと心の中では思っていた。
「まずはこのプリントだ!」
スラスラスラ
「正解!すごい集中力だね!これはもはや全集中の呼吸か!?では次のプリント!」
スラスラスラ
「また正解!判断が早い!さすが長女だ!!次!」
スラスラスラ
「またまた正解!よもや天才か!?よもやよもやだな!!次!」
という感じで、娘と共に楽しく課題をこなせると思っていた。
しかしリアルは全く違った。
そもそも娘はプリントをやろうとしない。お教室では文句もたれずにスラスラと取り組んでいるのに、家では全く手を付けようとしない。それもそのはずで、テンションが上がらない寝起きの眼前に、ドンッ!っとルフィがアーロンの前に現れる描写のごとくプリントの束がおかれるなんて、誰だって嫌な気持ちになる。僕だって、朝の出社直後に部下から稟議書の束とか渡されたら思わず舌打ちしながら「これだからZ世代は」とか言い出しちゃうかも。
しかしイヤイヤされても、あの手この手で娘が取り掛かれるように気持ちをもっていくしかないのだ。
ようやく鉛筆をとって問題を解きはじめても、ひとたび難問に躓くと「あーもうわかんないー!!」と喚きながらぶち切れだす。優しく教えようとするも、娘の機嫌は既に損なわれているので全く聞く耳をもたない。
こうなると手のつけようがなくなってしまう。
そうこうしているうちに、幼稚園に送っていく時間が差し迫る。机にはまったく終わっていないプリント。ノルマが達成できなかったことによる妻からの叱責が脳裏に浮かぶ。焦りが募る中、娘に何とか声掛けするも、やらない、泣く、わめく。
そんな状況に立たされる毎日を過ごしていた。稀に機嫌よくプリントが終わることもあるが、ほとんどの場合は泣きながら、あるいは怒りながらプリントをこなしていく娘。
さらにプリントというノルマを課されたことによって、娘が全くやる気になってくれない現実に僕自身もイライラしてくる。もともと小受に乗り気ではないはずの僕なので、プリントなんて終わらんでもいいじゃん、という余裕のある大人な精神力で臨もうと思っていたはずなのに、妻からの小言や朝のクソ忙しい時間帯での出来事、睡眠時間の減少によって子供に勉強を強要するクソみたいな親がここに爆誕してしまったのだ。
娘が全くプリントに取り掛かろうとしなければ「そんなんだとお教室のみんなにおいてかれちゃうよ!」とか「今日やらなかったら明日は今日の分も増えるからね!」とか「ちゃんと聞いてる!?聞かないならもうやめていいよ!」などなど……
数々の暴言を自分の子供に吐いていた。しかし終わらなければ妻に怒られる。終わるまで待っていると幼稚園や会社に遅刻する。でもこれ以上早くはおきたくない。そもそも早くおきても娘がやらなければ意味ない。という悪循環に苛まれ、この頃の僕は常にイライラ状態で朝を過ごしていた。
「うわー、完全に毒親だなー」と思われるかもしれないし、実際こんなことをするような親にはなりたくないはずだし、こんなに子供に当たり散らしているような親が目の前にいたら軽蔑すること間違いないのだが、多少なりとも当事者になって初めてわかった。この状況に立ったらみんなこうなる。こうならない親は菩薩かガンジーぐらいだろう。
この頃の僕は以前と違って、不本意ながらも多少は小受に前向きになっていたふしがある。妻が望むならちょっとは協力するかー、娘のためになるかもしれないし、と思いながら徐々に小受界隈に片足を突っ込みだしていた。しかし、そのせいで結構ヤバめの親が出来上ってしまったのだ。これには新兵を怒号で教育していったハートマン軍曹もにっこりである。
いやいや、でももしかしたら大人になった娘から感謝される日が来るかもしれない。
「お父さん、あの時は厳しくしてくれてありがとう。あのときの厳しさがあったから、色々なことを乗り越えることができて、立派に育つことができました。今日、しげるさんと結婚することができたのも、お父さんのおかげです。お父さん言ってたよね、何かを成すためには努力が必要だって。その言葉を信じてやってきたから、あの時私立小学校に入学することが出来て、それをきっかけに富み、名声、力、この世の全てを手に入れることができました。これからもたくさんのことを教えてくれたお父さんの大きな背中を思い出しながら、しげるさんと二人であたたかな家庭を作りたいと思います。厳しくも優しいお父さんの子供にうまれて本当によかった。今までありがとうございました」
バタフライ今日はいままでの〜♪
ってなるかもしれない。
……………………んなわけあるかヴォケくそが!!
恐らく小受界隈の親は、外ではお高い服を着て、利発そうな子供と一緒にさっそうと町中を歩いていく、そんなかっこいいイメージを醸し出しているが、家庭では机にしがみつきながら暴れ泣く子供を、なんとかコントロールするために怒り狂っているはずだ。実際にはそんな親はほとんどいないだろうけど、小受を目指す親はみんなそうだよ、っと思っておかないと心の平穏を保てない。
そうして、何と戦っているのかよくわからない中で、娘との地獄のスキンシップは小受本番まで続くのであった……
続く