僕と僕が僕のために未来からやってきた【短編小説】
「つまり君たちは未来の僕ってこと?」
僕の部屋に突然現れた二人の男を目の前に、僕は確認した。
「そういうこと。理解した?」
大学生の僕だと名乗る男が小馬鹿にしながら答えた。
「青天の霹靂だよね。君と同じ中学生の時に、やっぱり僕も同じ経験をしたけど、当然驚いたし」
高校生の僕だと名乗る男が僕の心理状態をくみ取ってくれた。でもにわかには信じがたい。
「証拠とかないの?」
「証拠か……あー……確か中学時代の俺はマミちゃんのことが好きだよな」
「!」
僕がマミちゃんのことを好きだなんて誰にも伝えていない。これは本物だ。
「信じます……」
二人の僕は満足した表情でニヤついている。
「そもそもなぜ過去に戻ってきたの?」
「俺たちはお前の……っとその前に、わかりづらいから中学生の俺をA、高校生の俺をB、大学生の俺自身はCってことで話しを進めるぞ」
さすが大学生。頭の回転が速そうだ。
「この時代に来た理由はAの将来を考えるためだ」
「学校の進路ってこと?」
「というより、“やりたいこと“のアドバイスかな」
確かにやりたいことや目指したいことなんて今のところない。ただ漠然と生きている僕に、僕自身が人生経験を活かして助言してくれるということか。
「じゃあBから言ってみ」
Cに促されてBは話し出した。
「とりあえず学校生活は中学の頃と代わり映えしないかな」
やはりというか、たった数年経っただけでは大きな違いはないらしい。
「でも学外で始めた油絵教室が凄い楽しい」
「油絵……?絵なんて全然描けないでしょ」
そもそも絵に興味なんて全くなかったはずだ。
「テレビでやってた油絵の特集を見て楽しそうだったから始めたんだよね」
今の僕がそのテレビを見ても、恐らく教室に通うほど感銘は受けないだろう。高校生になったBだからこそ興味を持てたのかもしれない。
「なるほど。ということはもっと早くから油絵をやればよかったと後悔してるの?それが伝えたいこと?」
「そういうことだね。早くから始めてたら満足できる絵が描けるかなって」
これが赤の他人の助言だったら鼻で笑って終わっていたが、今話しているのは未来の僕だ。僕が油絵に興味を持つのは確定なのか?とするとBのいう通り早い段階からやり始めた方がいいのか?
「僕から言えるのはそんなところかな」
「じゃあ次は俺の番だな」
そう言ってCはにやけながら僕ではなくBに向かって話し始めた。
「まず最初に、油絵はやめとけ。俺はもう描いてない」
「え!?」
僕よりもBが驚いた。
「いくら努力しても周りとの才能の差が縮まらないことに気づいてやめた。あれは時間の問題じゃないな」
愕然とするBを気に留めずにCは続けた。
「俺は特に新しいことはしてないな。適度に勉強して、最近は就活をし始めているところだ。そんな中でお勧めすることはネット配信者を目指すべきってことだな」
「ネット配信者?」
僕とBが同時に聞いた。
「お前らの時代ではまだそんな人はいないけど、俺の時代にはインターネットに面白い動画をアップロードしている奴らがいるんだ。個人が作るバラエティ番組みたいな感じかな。人気配信者になるとガッポリ稼げるぞ。だからライバルのいない今のうちに目指すべきだと思う」
つまり、時代を先取りして成功する準備をしろということか。就活をし始めた大学生っぽい意見だ。
「でも稼げるってことはそれを目指す人がたくさんいるでしょ?」
「掃いて捨てるほどいるな」
「その中で人気者は一握りなんだよね?そんな才能なんてない気がするけど……」
「そこはあれだ、努力でなんとかしろ」
先ほど努力では超えられない壁があると豪語した人のセリフとは思えない。
「うまい話なんて過去にも未来にもないんだな」
有意義な情報を得られないことに僕は落胆した。
「結局はA次第だな。俺らも未来の自分から全く別の助言をもらったけど、結局自分の意思で歩んでるしな」
達観した様子でCが言い、その横でBが頷く。
「状況は何も変わらないね」
僕は残念な気持ちでいっぱいになった。
「じゃ、俺らはそろそろ帰るわ」
そう言って二人は部屋から出ようとする。いったい何しにきたんだろう。
「あ、一つだけ変わらないことがあった。高校生になってもマミちゃんとは付き合えないよ。そこは覚悟しとくように」
「え!?」
Bが驚愕の事実を語った。
それを聞いてCが去り際に言った。
「マミちゃんどころか大学になっても彼女いないから。そこは覚悟しとくように」
「え!?」
Bも目を丸くして驚愕した。
「精々未来の俺の為に今を頑張ってくれ」
そう言ってCは先に部屋をでた。
「大学になっても彼女いないのか……」
Bが悲しそうに呟いた。
「なんかCの口調が変じゃなかった?一人称も“俺“だったし」
「変な方向に大学デビューしたのかもね。あれは彼女できないな」
Bの言うとおりだ。
「……とりあえず油絵は続けようかな」
呟きながらBも部屋を出た。
後には僕一人が残った。
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