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川柳集(俳句・短歌・詩、おまけで絵)&超入門川柳の書き方

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へっぽこ川柳まとめです。続きます!「超入門!川柳の書き方」は完結しました!おまけでイラストも入れています。
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2017年5月の記事一覧

おはいりなさいの輪の中には

かつて

保健室と図書室は
生きにくい子のたまり場だった
真面目な子
そうでない子
教室では呼吸ができない子が
一息つける場所だった



頻繁に保健室に行くと注意され
図書室では授業はどうした自習でも教室に
といわれるらしい

「自習です」といって図書室にいた私
多分わかっていていさせてくれた司書さん
あの時間がなかったら
どう生きていけばよかったのだろう

時々手首に重ねたカッターナイフ

墓参り風も翔るか五月富士

亡くなった父の祥月命日は、毎回快晴です。
公園墓地の父の墓からは、正面に富士山が見えます。
父は、長距離陸上競技をずっと続けた生涯でした。

…っていいたかったのですが、難しいですね。

母よ

かあさんは いつも
天気の心配ばかりしている
暑くなるから脱ぎなさい
寒くなるから着なさい
少し寒くなるから
エアコンつけっぱなしで寝るんじゃないよ?

かあさん、Yahoo!天気予報、
それ、俺のスマホでも見れるから

かあさんは いつも
食事の心配ばかりしている
暑いけどちゃんと食べてる?
あなたは お金に困ると
食費から削るの知ってるのよ?
一日二食とか一食とかやめなさい!
かあさんのゆうち

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父よ

あなたが退院したら
家には戻れない
妻も娘も
あなたを支えられない
わかっていたこと

それなのにそのことが
胸をしめつけるのは
わたしのいのちが
もがくから おとうさん

おとうさん
おとうさん
わたしの半分があなたです
月曜日 父を求めて泣いた
こどものわたしが泣いている
おとうさんが家にいないと

あなたが少しでもしあわせに逝くには
どうすればいいのでしょうか
病院なんか行かず
いのちが枯れ

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鳥よ雲よ

ルービックキューブが大流行したとき、
町のおもちゃやではパチもんを売った
やがて、おもちゃの大型店舗が台頭し

町のおもちゃやは消えた

漫画の単行本を手に入れたくて
町の本屋をはしごした
やがてネット書店が台頭し

町の本屋は消えた

小さな古本屋が消えて
古本の大型店舗ができて
魚屋はスーパーになり
八百屋はコンビニになって

消えていく、まちのお店やさん

子どもの情景は失われていくもの

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静寂という偽善の中に

夜は沈黙しない

風に揺れる雨戸の
隣家の風見鶏の
松林の葉擦れの
音を一枚ずつ剥いだ
レタスの芯のような
さらに奥の空洞のような
耳鳴りと区別がつかない音
ささやき
呟き
判然としない音で

死んでもいいことはなかった

この闇の中で私の母は
いつ息が止まってもおかしくない
脈々とした血のつながりが

夜の
夢の
意識の下で
聞こえぬ音で
鳴り続ける

この杭はひき抜きにくい

息子よ
母に似て他人(ひと)に傷つく息子よ
心の皮膚をむき出しにするな
風から身を守るコートを持て
それは他人との関わりで得るもの
世を捨てるには
お前は若すぎる

息子よ
母に似て一徹に孤高な息子よ
その生き方を貫けば
強さにすがられて荷を負うぞ
背負いきれなければ
誰かに渡す術を覚えよ
世に逆らうには
お前は若すぎる

息子たちよ
あまりに生きる道が違って
口もきかなくなった息子たちよ
この母

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人間嫌い

世界が嫌いで
足の裏をむしり続ける
人魚姫の足に
陸の上は痛いのだ

ああ、世界が金魚鉢だったら
水草の陰で眠っていられるものを

私に頼るな
寄りかかるな私に
足は血まみれて
もう歩けない
その荷は自分で背負え

これからの歩みは
棄ててゆく歩み
電脳窓から見える世界は
平らかでうわべだけだ

風は歌わない

歌うのは樹。

歌うのは電柱。

歌うのは家。

家々の間を、
大きなものの口が、
楽器のように吹き鳴らす。

この地球に、
かさぶたのように、
営みを刻んだのは、
誰だ。

誰そ彼

夕暮れが嫌い。

ああ、すまない、薄暗いのは苦手だっけ、
と、カーテンを開けようとする夫を制し、

明るさじゃあないの。
黄昏。

夕方は頭痛くなるよね、
と、息子が言う。

太陽ではない。
生と死のあわいだから?
理由などわからない。
ただそこにある
見えないものの影。

だから私は夜を迎えに行く。
早く、早く、
夜の底へ、
闇の中へ、

人工灯をともせ。