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【トレードの分散を考える①】そもそも私は何を分散したいのか

2024年3月に米国株トレードを始めて、いまは自分なりの研修期間をやっています。テクニカル分析をベースに様々(マーケット、時間軸、順張り/逆張り、などなど・・)な短期トレード手法を勉強しながら試していますが、そろそろポートフォリオ、つまりトレードの全体設計についても考えをまとめておく必要があると感じています。
最終的に目指す方向はあくまでリターンの最大化とリスク最小化の両取りです。つまりリスク・リワード比率を最大にしたい。

具体的な目標としてはトレードのみで生活できる額を稼ぐことをゴールに設定しているため、アクティブにトレードして市場平均を上回るリターンを目指しながらも、同時に資金を失わないことを両立させる必要があります(可能ならば大儲けもしたいと考えていますが)。

・・・そんなチートのようなトレード戦略はありえるでしょうか?
以下で自分なりに考えてみたいと思います。


米国株が常に最高なわけではない

恐らく私の世代とそれより下の世代の人だと、(多少なりとも経済を意識するようになる)社会人になって以降、米国株が常に上がっている印象を持っているはずだと思います。新NISAでもオルカンと並んで米国市場に連動するETF($SPY, $VOO, $IVV)の流入額がずば抜けているようです。
一方、事実を見てみると、資産クラス別の年次リターンで米国株がトップとなったのは、実はこの10年では2019年と2023年の2回だけです。

資産クラス別リターン (2013~2023) - Goldman Sachs

米国株はその他に4回、年次リターンで2位になっている年があります。一方、マイナスリターンの年も2回あります。11年間の年平均リターンは13.8%です。
日本株の場合、全資産クラスを上回ったのは2015年の一度のみである一方、3回の年次マイナスリターンを記録しています。
その他にも債券がトップになったのが2回(2016年は世界的な低金利が背景、2018年は米中貿易摩擦のパニックからの逃避需要)、コモディティも2回(ともにコロナ禍以降、原油がドライバーです)、小型株や新興国株(中国のミックスが高いでしょうか?)が最大リターンをあげる年もあるなど、個人的にはだいぶ見どころのあるチャートです。

トレードの素人である自分としては結構なサプライズを感じたチャートなのですが、いずれにせよ、米国株を中心にトレードを行うのが中長期的にも短期的にも「お金を失わずに平均以上のリターンをあげる」目標に対して良いのか悪いのか、自分で手を動かして考えてみる必要があると感じました。

原則から考えるならば

大手ヘッジファンド、ブリッジウォーターの創業者であるレイ・ダリオが「投資の聖杯」と呼ぶ、無相関を前提とした分散トレードを中心として考えるべきでしょうか。

有名な「投資の聖杯」チャート - レイ・ダリオ『PRINCIPLES(プリンシプルズ) 人生と仕事の原則

レイ・ダリオの概念は、私の理解ではかなりシンプルです。ただ、実際に私個人の目標に合わせてこのコンセプトをトレードの手順やルールに落とすには、いくつかの疑問も出てきます。それらを明確にし、解決するか妥協する必要があると考えています。

疑問① とはいえ結局のところ、トータルリターンなら米国株?

以下は、上掲の資産クラス別リターンチャートを累積リターンの推移がわかるグラフに落としてみたものです。

初期資金=50,000 USD。実線は株式類、短破線は債券類、長破線はコモディティ。個人投資家の投資ユニバースに入らないヘッジファンド系は除外。
資産クラス別リターン (2013~2023) - Goldman Sachs を元に筆者作成

少なくともこの10年の傾向は、見出しの通り「とはいえ結局のところ、トータルリターンなら米国株」です。米国株をバイ&ホールドしていた場合にドローダウンを被った2018年や2022年のような年と、他の資産クラスが優勢だった2015年や2017年のような年には分散は間違いなく聖杯だと感じられたはずですが、同時に、分散しすぎて米国株が順調な年に機会損失を被るようなトレードはできれば避けたいところです。トレンドがあるときにはトレンドに乗っていたい。

実際、全ての資産クラスに均等に分散投資した場合、及び伝統的な分散型投資である60/40ポートフォリオ(株に60%、債券に40%投資する)を米国株のバイ&ホールドと比較してみると、以下の通り、あまり筋の良い戦略ではないように見えます。

資産クラス別リターン (2013~2023) - Goldman Sachs を元に筆者作成

米国株のバイ&ホールド10.4%に対して均等な分散投資の年平均リターン は4.5% (-6.4%) となります。60/40ポートフォリオは7.4% (-3.5%) とややマシですが、こちらも控えめに感じます。

疑問② 分散には限界がある?

結局のところ(この10年では)トータルリターンの大きい米国株とその他全世界株を細かく分割し、幅ひろく分散投資をすればよいでのは?と考えてみたくなるもの、そうともいかなそうです。

以下は株式クラス内の主要なカントリーETF、セクターETFの相関係数をまとめたものです。数字の取得はPortfolio Visualizerを利用しました。見ての通り、ほとんどのセルに色がついており、(カントリー・セクターを問わず)大半の株式は相関があると言えそうです。白色(=相関係数 0.0~0.4)が目立つのはトルコETF($TUR)と公共財ETF($XLU)だけです。

0.7以上は「非常に強い相関」、0.4~0.7は「強い相関」0.0~0.4は「弱い相関または無相関」、0.0以下は「逆相関」と一旦定義して色分け

例の「投資の聖杯」チャートで言えば、60%以上相関する資産をいくつ保有していてもリスクは低下しません。年平均で40%、つまり2.5年に1回の確率でドローダウンが発生します。現在の上昇相場の起点となった底は2022年10月なので、確率的には2025年上半期には株式しかやらないトレーダーがドローダウンに見舞われる下落相場が来るのかもしれません。(ちなみにその前の大底は2020年3月のコロナショック、ちょうど2.5年前です・・・)

疑問③ 私はそもそも分散して何がしたいのか?

次に資産クラスごとの相関について見てみます。
以下は主要な資産クラスを代表するETFの相関係数を示したテーブルです。株式、債券、コモディティに加え、日本人トレーダーとしては為替の分散も意識する必要があるので日本円も含めてあります。

0.7以上は「非常に強い相関」、0.4~0.7は「強い相関」0.0~0.4は「弱い相関または無相関」、0.0以下は「逆相関」と一旦定義して色分け

これを見ると、ざっくり半分近くの資産ペアには互いに強い相関があります。
米国大型株を代表する$SPYと欧州株($IEV)は非常に強い相関があり、中国株やインド株とも強い相関があります。それどころか、ジャンク債($HYG)と適格社債($LQD)、原油($USO)との間にも中程度の相関が見て取れます。(原油価格の上昇は企業業績を下げる影響がありそうなので、ちょっと意外です。この点は要勉強。)
無相関といえそうなのは金($IAU)と農産物商品($DBA)。逆相関のエリアに踏み込んでいるのは米国債($SHY, $TLT)と日本円($FXY)ですが、ほぼ無相関の範囲だと見えます。
また、強く逆相関する組み合わせ(相関係数が-0.4以下)が実質的に存在しません。ポートフォリオ内で逆相関の組み合わせを作るには、ショートポジションを持たなければならなそうです。

このデータをもとに「投資の聖杯」を目指すには、米国株を中心に金・米国債・農産物(小麦や大豆などのコモディティ)を合わせたものを1:1で保有すればようやく10%以下の相関となるポートフォリオが作れます。これはブリッジウォーターが展開するオールウェザー型ファンドの戦略。一方で上掲の通り、この11年間においては機会損失があり、恐らくインデックスを下回るパフォーマンスだったはずです。

やはり私個人のニーズに対しては、あらゆる経済環境に備えるポートフォリオ、具体的には60/40やオールウェザー型のようなポートフォリオはやや保守的だと思っています。個人トレーダーはリスクオンできるときには大きく稼ぎ、リスクの高い時期にはキャッシュに逃げてじっとしておけば良いからです。受託責任を果たすべき顧客はいません。
アセット間の相関を反映するだけの静的な分散ポートフォリオでは、いつか来るリスクに対しては機能するがリターン最大化を目指すための攻撃的な分散としては物足りない、と言えそうです。

そもそも私個人の状況にあてはめれば、トレード資金の他に生活資金として$SPYと無相関の日本円を持っているので、すでに「聖杯」ポートフォリオを構築済みとも言えます。リスク回避のためにトレードのポートフォリオ内で分散を図る必要はあんまり無くて、どちらかというと必要なのは攻めの分散、機会損失が最小化されるポートフォリオ(もしくは分散トレード的手法)ではないかという気がしてきました。

"攻撃的な分散トレード" のヒントは動的分散化

イメージするのは、『新マーケットの魔術師』で取り上げられていたギル・ブレイクというトレーダーの戦略です。

ブレイクは、いわゆる投信のタイマーである。一般的に投信タイマーは、株や債券のファンドに発生する利回りを、その収益環境が悪化すると考えられるときはいつでも、MMF(マネー・マーケット・ファンド)に乗り換えることによって向上させようとする人たちである。
ブレイクの場合、一つの投信とMMFの単なる乗り換えだけではなく、セクター・ファンドのグループからどのセクター(企業分野)に、その日の最高投資機会が移っているのかも加味している。使っている純粋なテクニカル・モデルからのシグナルを利用して、ブレイクはその日の投資計画を最適化する。ポジションの保有期間は比較的短く、通常一~四日である。このアプローチで、投資をしていたファンドが大きな損失を記録した月であっても、彼は安定した利益を各月ごとに実現することができたのである。

新マーケットの魔術師

彼の戦略は私がやりたいことにフィットしているように感じています。

  • 様々な投資信託(=資産クラス)をユニバースとして、その時々で最もパフォーマンスの良いものに乗り換えていく

  • 投資環境が悪いときは、MMF(=キャッシュポジション)に逃避する

  • テクニカルなシグナルでその作戦を運用する

同じインタビューの中で、トレードの分散化についても面白い意見を言っています。

投資の分散化にはあまり興味がありません。その質問に対する私の答えは、一年間に必要な回数だけトレードすれば、それで十分な分散効果が得られる、ということです。

分散というアイデアに反対しているようで賛成している意見です。保有アセットではなく、保有する時間軸でトレードを分散させるということですね。

結局のところ、トレンドに乗って高いリターンを確保しながら時間軸で分散効果を出していくような動的な分散トレードが最も筋が良いのではないか。各年ごとのチャンピオン資産にタイミングよく次々と乗り越えていくようなトレードができれば、市場平均を上回りながら時間軸でリスクを分散することで「聖杯」のメリットも享受できるのではないか。

そうだとすれば、準備のために取り組むタスクはとてもシンプルです。1)ユニバースを定義する、2)ユニバース内で、現時点で最高のモメンタムを持つ銘柄を特定するためのシグナルを定義する、3)乗り換えるタイミングを定義する、以上となりそうです。
また、現実的には、バックミラーで見てその銘柄がチャンピオンだったと後から分かるわけで、リアルタイムに正解を選び続けられるわけではないはずです。複数のチャンピオン候補に分散投資すること、リターンの一定部分は乗り遅れてしまうことで捉え損ねること、などは妥協する必要がありそうです。

これで自分のトレードの全体設計の重要なコンセプトと、戦略の一部がおぼろげながら見えてきた気がします。
更に可能なら、トレードの戦略や手法でもさらに分散を模索したい。例えば、上記のようなトレンドフォローと平均回帰戦略、ロングとショート(の使い分け)、テクニカルとファンダメンタルまたはグローバルマクロなど。以上のような相反する戦略を時間軸に応じて使い分けられれば、逆相関ではなく無相関の「聖杯効果」を得られるはずだと思うからです。

とはいえ次のステップでは、ひとまず、"動的でアクティブなアセットアロケーション"戦略の具体的なトレードルールについて検討してみたいと思います。



参考文献


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