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トヨタに続きパナソニックも-相次ぐ五輪協賛社の撤退

オリンピックの最高位のスポンサーである「ジ・オリンピック・パートナー(TOP)」であるパナソニックが、今年末をもって契約を更新しないことが発表された。すでにトヨタ自動車も国際オリンピック委員会(IOC)との契約をパリ五輪を最後に今年で終了することが報じられており、世界的な日本企業の相次ぐ撤退となる。五輪のマーケティングに何が起きているのか。


37年間も最高位のスポンサーであり続け

契約終了にあたって、パナソニック・ホールディングスの楠見雄規社長は「これまで37年間、協賛活動を通じて多くの価値ある経験を積み重ね、世界中のスポーツファンやアスリートの方々との絆を深めることができました。長年にわたり、スポーツを通じた世界平和の実現をパートナーとして目指し歩んできたバッハ会長をはじめとするIOCに感謝申し上げます。今年のパリ大会でも、グループの最新技術や商品、運営スタッフなどオペレーションサービスで世界最高峰のスポーツイベントを支えることができたことを光栄に思います」とのコメントを出した。

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旧松下電器産業だった1987年からパナソニックは五輪の協賛を続けてきた。五輪の商業化「元年」は84年ロサンゼルス五輪といわれるが、IOCが本格的にビジネスに乗り出したのは、88年のカルガリー冬季、ソウル五輪からだ。スポンサーを「1業種1社」に限定し、協賛金を競わせるロス五輪組織委員会のビジネス手法を踏襲し、これをIOCが世界的に展開したのである。

世界規模で五輪マークを商業利用できる最高位のスポンサー、TOPの第1期に名を連ねたのはコカ・コーラやVISAなど9社だった。その中の一つとして、ビデオ機器のカテゴリーで松下電器産業が選ばれたのだ。同社と五輪の関わりはそれほど古い。以後の五輪でも、大会が開催されるたびに新しいビデオ技術を開発し、その商品化を世界の人々に披露した。

だが、このビジネスも時代の流れからは逆らえなかった。テレビよりもインターネットによるストリーミング配信がスポーツ中継の主流となり、ビデオではなく、サブスクリプションの契約で見逃し配信もなされている。わざわざビデオ録画するような時代は終わろうとしている。

パナソニックは現在、電気自動車(EV)向け電池を重点分野に位置付けるなど、テレビやビデオ中心の事業構成を見直しているという。五輪を協賛する効果が薄れてきたのだろう。

トヨタはパラリンピックの協賛継続を希望か

パナソニックに比べれば、トヨタ自動車は五輪協賛の歴史は浅い。東京五輪の開催が決まった後の2015年、自動車メーカーとしては世界で初めてTOPに選ばれた。結局、冬季と夏季5大会の協賛を務め、10年間で契約を終了することになる。

パナソニックは五輪と同時にパラリンピックの協賛からも撤退するが、トヨタはパラリンピックの協賛は継続したいとの意向を持っていると伝えられている。IOCは「五輪とパラリンピックの協賛は一体だ」と主張しているそうだが、その調整も行われているのだろう。

もし、トヨタと国際パラリンピック委員会(IPC)との契約が更新・継続されるのであれば、IOCはその原因を考えるべきだろう。五輪の魅力に陰りが見えつつあるようにも思えるからだ。

電通とスポーツの関係はどうなるのか

日本企業が五輪から手を引き始めている背景には、広告代理店最大手、電通の存在もある。東京五輪の協賛社選びを巡る汚職で、元専務が逮捕されるなど、「五輪ビジネスの影」の部分が表面化した。

TOP制度が始まった頃から、電通は世界的な五輪ビジネスの中枢にいた。五輪にとどまらず、サッカー・ワールドカップなど巨大イベントを裏で取り仕切り、スポンサーやテレビ放映権の交渉に深く関わってきた。

バブル経済に踊った時代から日本企業は、電通を通じてスポーツ界に関わり始め、世界的にも存在感を高めてきた。しかし、そのような時代も終わりつつあるのかもしれない。電通の今後の動向も気になるところだ。

五輪に対する相次ぐ誹謗中傷

4年後の五輪は、商業五輪の先駆けとなったロサンゼルスで開かれる。トヨタやパナソニックに代わるスポンサーも現れるだろうが、果たして五輪の魅力がいつまでも永遠なのか、疑問も残る。

交流サービス(SNS)の広がりによって、パリ五輪では選手や関係者が相次ぐ誹謗中傷にさらされた。IOCは人工知能(AI)を使って自動的に削除する仕組みをプロバイダーとも協力して構築。投稿を調べたところ、大会中に8500件以上もの中傷投稿が確認されたという。五輪に共感する人ばかりではなく、選手や審判を攻撃の対象とする人が増えているのだ。スポンサーもその標的となり得る。

巨額の協賛金に見合うメリットがなければ、企業はスポンサーになることをためらうに違いない。日本企業の中ではブリヂストンもTOPに名を連ねているが、協賛社撤退の動きは日本だけでない。かつて、コカ・コーラと並ぶ五輪スポンサーの代表的存在であったマクドナルドも、16年リオデジャネイロ五輪を最後に協賛から下りている。IOCは将来を見据え、新たな時代に合わせた大会像を改めて問い直す必要があるのではないか。

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