現代的なハードタングとオールドファッション
現在の北東アーネム・ランドの葬儀や割礼の場で使われる楽器は「F~G#」というハイピッチな楽器が主流になっているようです。それは60-70年代に勃興したと言われている「Nganarr-dal(ハードタング)」と彼らが呼ぶ、新しい演奏スタイルです。
ハードタング以前のイダキ演奏をどう呼ぶのか?英語で「オールド」という言葉の表現として「オールド(古い)スタイル」、「オールドマン(老人の)スタイル」、「オールドファッション(古風な)スタイル」という3種類の表現を聞いたことがあり、それぞれちょっとずつ意味が違うんじゃないかなと思っていました。
随分前にイダキ・マスターD. GurruwiwiにLPレコード「Land of the Morning Star」を聞いてもらった時、「あー、これはオールドファッション(古風)なイダキ演奏だね」とコメントしていました。
そこでイダキ・マスターの言う「オールドファッション」、「古風な」とか「昔ながらの」といったニュアンスの表現が、60年代より以前のハードタング演奏以前のスタイルを言い表すのにピッタリだなぁと思うようになりました。
オールドファッションなイダキの特徴は?
50年代後半から60年代の古い音源を聞くと、明らかに今の演奏との違いを感じます。またダーウィンの博物館のバックヤードやYirrkalaのアートセンターのミュージアムコーナーの楽器を触らせてもらうと(当時は音を鳴らすことができた)、描かれているアートはもちろん、形状やピッチやマウスピースのサイズなど今のイダキとすごく違っていました。
オールドファッションなイダキの特徴
ソフトパワーをのりこなす
70年代初頭にDhalwanguクランから勃興し、その後M. Mununggurrが時代の寵児として登場し、現在の北東アーネム・ランドに定着した「Nganarr-dal(ハードタング)」によるイダキ演奏。それより以前の、昔風のイダキ演奏。それはヨォルング自身が認識するほど、現代的な演奏とは楽器も演奏スタイルも違っているようです。
個人的に現代的なハードタング演奏と違いを感じる点は、オールドファッションなイダキの演奏にはどこかゆるやかさが必要なんじゃないかな、ということです。単純に音程が低くなることで振動がやわらかくなるので、唇のアパチュアも大きくなりますし、単にグッとおさえこむような演奏ではキープしずらくなります。
また、オールドファッションなイダキを演奏する楽しさは、少しMagoやKenbiと似てい所があるような気がします。刻みが少なく展開がシンプルでゆったりしていること、そして空洞がオープンでローピッチで、マウスピースが大きくてロープレッシャーになることで、よりハミング重視の演奏になるという点に共通性を感じます。
こういうイダキを確かさを感じながら乗りこなすにはリラックスしたゆるやかな感覚が必要なんじゃないかなと思うんです。このソフトパワーをのりこなし、リラックスした方向性で演奏する感じにオールドファッションなイダキのおもしろさがあるように思います。
ローピッチなイダキで練習したあとにハイピッチな現代的なイダキを鳴らした時、いつもよりやわらかくディープに鳴らせたり、グっとつまった演奏感が解消されたり、大きくおおらかに鳴らせてる感じがしてくることがあります。これはオールドファッションなイダキを演奏すると生まれてくるラッキーな副産物な気がします。
幸いなことに現地では「C~D#」前後のローピッチの楽器がいまだ作られています。よりディープなサウンド、より奥深い演奏感を追求していくのにオールドファッションなイダキを練習のレパートリーに取り入れてトライしてみてください。