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3000文字でShitkidをかっこいいと褒める

本稿は特定のアルバムについてのレビューではなく、敢えてアーティスト評のような形をとっています。2020年のアルバム発売後、新たに何か書くかもしれませんし、書かないかもしれません。

ジャック・ホワイトが好きな女性?

「影響を受けたのはホワイト・ストライプス。世界で一つ何かスキルを手にできるとしたら、私はジャック・ホワイトみたいにギターを弾けるようになりたい」(オーサ/ Vo)

・・ジャック・ホワイト?

ひび割れたうわ言のようなヴォーカルが甘い声で癖のあるポップチューンを口ずさんでいて・・ビートはしっかりしているが(聞いた感じは打ち込み?)、かなり変則的でアグレッシブな構成の・・いわゆるローファイ・ガレージか、もしくはアウトサイダー寄りのサウンド・・に聞こえる。

どこがヴァースでどこがコーラスなのか?

ベースはかなりシンプルな重低音をねちっこく鳴らしているし、ギターリフもあったりなかったりする。ただし、ヴォーカルのリフレインはとても耳に残る・・壊れてしまいそうなバランス・・スリリングで、魅力的だ。

音は決してスカスカというわけではなく、ベースやギターはSunn O)))やエレクトリック・ウィザードのようなドゥームメタル然とした重低音を鳴らしていたりする。(かと思えば、ギターをご機嫌に鳴らしていることもあるが。)

メロディラインをどうにか聞き取ろうと何度も聞いているうちに、いつしか虜になってしまうーShitkidは不思議なバンドだと思う。

音楽的にシャッグス(The Shaggs)ほどスカムな不協和音を鳴らしている訳ではないが、ガレージロックを複雑骨折させたような独特のローファイ加減からは、レッツ・レッスル(Let's Wrestle)のように地下室で作られた荒削りで生々しいバンド・サウンドか、

・・或いはこの擦れっ枯らしたような反抗的な佇まいから、リバプール出身のガールズ・デュオであるロボッツ・イン・ディスガイズ(Robots in disguise)をつい思い出してしまった。 

ただし、彼女のアティチュードは「anti-popstar」などとメディアで評されている一方、自身の佇まいについては、敢えてオルタナティヴであろうとするわけではなく、「Shitkidはいつもメジャー」と語っていたし、

また、技術的な向上があるからこういう音楽を作り続けるのは難しいのでは?という質問に対しては「別に気にしない。次のアルバムは、もっと洗練されてると思うし」と答えている。

つまり、奇をてらっているわけでは決してない。(前述したバンドが奇をてらっていた訳でもないが)

反・反メジャー(と言われればそうでもないかもしれない)

Shitkidとは、前進でフェミニストのパンクバンドをやっていたというオーサ・セーデルクヴィスト(Åsa Söderqvist)が始めたプロジェクトである。

※ちなみに、フェミニストのバンドでは男性へのヘイトを歌っていて彼女も気に入っていたが、メンバーが妊娠したり、他人とスケジュールを合わせることの難しさに直面し今に至る・・と語っていた辺りもとても面白かったので、機会があれば読んでいただきたい。

https://newsflash.bigshotmag.com/features/57442/

筆者がいくつかインタヴュー、ライヴ映像を見たところによると、基本的にはフロントマンのオーサ、また、ベース等のパフォーマンスをリナ・エリクソン(Lina Molarin Ericsson)が行なっている。

また、Shitkidのキーボードやシンセサイザーを担当しており、Shitkidのヴィデオクリップを撮影しているリンダ・ヘッドストローム(Linda Hedström)というメンバーや、サポートメンバーも入れているように見受けられるが、ライヴでは基本的にはオーサとリナの二人、というかなりミニマルな構成で行われているようだ。

Shitkidのイメージとして、破滅的で気だるくて機嫌の悪そうな女性のバンド、というものがあると思うが、こちらについてはリンダが下記のように語っている。

「スウェーデンには物理的なプラットフォームは今は一般的じゃなくて、YouTubeを見ていると、”他にもこんなアーティストがあります”って出るから、それを観ているわけで。(中略)曲とヴィデオは同時に作られていて、ヴィデオは可能な限り再生数を稼ぐために目立たせるーこういう目的でMVを作るアーティストは今後増えるんじゃないかな?わかんないけど」

・・なるほど、バンドのイメージ戦略にも意欲的で、クレヴァーだ。

日本版「WIRED誌Vol.32」によると、YouTubeの平均視聴率は60分だそうだが、そのうち70%の動画はアルゴリズムにレコメンドされたコンテンツでありーつまり42分間は受動的にレコメンドを流していることになる。

YouTubeのレコメンドを「セレンディピティ」と表現するのは些か乱暴ではあるが、少なくとも彼女たちのMVは「Tropics」が7.7万回、「Sugar Town」が6.8万回再生されている。

表現においてどのように発信するか?という点は今後のアーティストの課題、と言われているが、媒体が有料か・無料かという論点以外に、このアルゴリズムに意識的、という点は個人的に興味深い。

ちなみに、バンド名である「Shitkid」は、スウェーデン語でいうところの「Skitunge(=英語ではbrat、悪ガキの意)」を英語で直訳した名前で、子供が悪いことをすると襲いに来るブギーマンのように、両親が子供をロック・ミュージックから遠ざけるために使われるものだという。

これに関連するものではないかもしれないが、彼女のアティチュードについて、オーサが「ロックは死んだ」というタームについて語っている言葉がとても印象的だった。

"That’s why ShitKid only makes rock ‘n’ roll music for the good old sex and drugs, before it disappears."
(だからシッドキッドは古き良きセックス・ドラッグ・ロックンロールをやっているの。完全になくなる前にね)

実際のところ、彼女はほとんど全てのインタヴューでジャック・ホワイトへのリスペクトを語っていたし、次点でヤーヤーヤーズや、EP「This is it」の元ネタであるストロークスや、あるいはフォールアウト・ボーイ、グリーン・デイなどのバンドに影響を受けていると語っている。

存外に、オーセンティックなロックをやろうとしているのか?ーー初めて彼女の音楽を耳にした際はそうは思わなかったが、話を聞いているうちにどうも納得してしまった。

Duo Limbo​/​"Mellan himmel å helvete"

彼女たちの新しいアルバムは、2020年の1月に発売されるようだが、英語の歌詞と合わせて、スウェーデン語でレコーディングされた曲も収録される。

「気づいたんだけど・・スウェーデン語での歌をいままで歌ったことがなくて。60年代に戻ると、たくさんのスウェーデンのアーティストがイギリスやアメリカの曲をカヴァーしてて、歌詞を翻訳してて。私たちもできるんじゃないかと思って。」(オーサ)

トレイラーを聞いた感じ、アプローチは同じように聞こえるが、筆者はこのキッスのようなメイクと佇まいからMGMT「Kids」のこのヴァージョンを思い出し、なんとなくノスタルジアを感じた。

セクシーだがスリリング、ビールを飲みながらライブをする、かなり古臭いバンドスタイル。とてもかっこいい。

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