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料理のプロが考えたホットプレート「BALMUDA The Plate Pro」製品化までの道のり|Deep Dive into BALMUDA

バルミューダの新しいキッチン製品、BALMUDA The Plate Proが9月14日に発表となりました。いつもバルミューダの新製品は、企画段階で心躍るような“新しい体験”がなければ日の目を見ることはありません。今回の企画を牽引けんいんしたのは、シェフという特殊な立場で会社に所属する岡嶋伸忠おかじまのぶただ。BALMUDA The Plate Proがどのような経緯で世に出ることになったのかお伝えします。


一流レストランでの料理長も経験した岡嶋伸忠。バルミューダで「シェフ」の肩書きでキッチン家電の味の責任を担う

自由時間から生まれたアイデア

家電メーカー専属のシェフとして岡嶋がバルミューダに入るきっかけは、どのようなものだったのでしょうか。

「入社したのは2021年6月で、その前は外資系ホテルでシェフとして働いていていました。ある日(バルミューダ代表の)寺尾さんが私のいるレストランで食事をした際に、ご挨拶をしました。お料理にご満足との声をいただき、そのときのことが印象に残ったのでしょうか、後日お会いした際にバルミューダへの入社を提案いただきました。ちょうど私も違うことにチャレンジしようと考え始めていたタイミングでしたので、自分の経験が活かせるならと入社を決めました」(岡嶋)

シェフとして入社した岡嶋ですが、BALMUDA The Toaster Proのサラマンダーモードを考案したりと、キッチン家電のアップデートに大きく関与していくことになります。

「入社後は、トースターやオーブンレンジ、コーヒーメーカーを使ったレシピをつくるのがメイン業務となりました。せっかくバルミューダに来たのだから、今までにないキッチン家電を提案できないかと思い、いろいろなことを考えました。自分は料理人だから大体の料理はつくれるけれど、専門性が特に高かったり、道具がないと厳しいものもあります。たとえば天ぷらやお寿司、鉄板焼きなどがそうです。その中でも鉄板焼きなら、いい道具さえあれば誰でもいい料理がつくれる気がしました。クオリティの高いホットプレートさえあれば。そして、それは世に出ていないと気付きました」(岡嶋)

理想のホットプレートが世の中にないと考えた岡嶋。料理人として、どのようなものが理想的なのでしょうか。

「デザインとかメンテナンス性とか、家電メーカーとしてはいろいろあるのですが、料理人の私からすれば“温度の安定性”に尽きます。市販のホットプレートは高温なものはあっても、安定してそれをキープしてくれるものって、私の知る限りほとんどありません。比較的高価な製品でもユーザーが設定した温度から常に10〜40℃のブレが生じているのです。このブレ幅が少ないほど、クオリティーの高いものだと私は考えます」(岡嶋)

社内プレゼンが一発で成功

ものづくりは、ひとりではできません。思いついた企画を、どのように推し進めていったのでしょうか。

「2022年初頭、今ではプロダクトデザイン部の部長になられた比嘉さんに、こんなホットプレートがあったらいいなという案を伝えました。比嘉さんと試作機をつくっていろいろな議論をしていたら、プロジェクトになっていない製品の話をしている様子が寺尾社長の目に留まり、ランチを振る舞う形で試作機を用いたプレゼンを行うことになりました。プレゼンが終わるや否や、来年、すぐに出そうということになり、正式にプロジェクトとして組み込まれ、開発部と連携して進めることになったのです」(岡嶋)

プロジェクトが正式に動き出したら、次は開発部との連携です。シェフの岡嶋が、ハードウェアチーム、ソフトウェアチームと密なコミュニケーションを繰り返しながら、地道に開発を続けました。

「金型の前のプロトタイプの作成においては、とにかくいろんな種類の鉄板、厚みを一緒に試しました。銅はすぐ色が変わって緑っぽくなる、鉄は重たくて錆びやすい、アルミは蓄熱性が低く温度にムラがある、ステンレスは錆びにくいが値段が高いなど、鉄板についていろいろな知識を身に付けました。検証を重ね、最終的にはステンレスとアルミを組み合わせた3層構造のクラッドプレートで行くことになりました。素材や厚みが変わるたびに温度制御ソフトウェアをチューニングするので、私はその都度、表面温度を測ったり実際に調理したりといった確認をし、フィードバックを行いました」(岡嶋)

クラッドプレートの構造

コードネームはFlatフラット

BALMUDA The Plate Proは、社内ではFlatというコードネームで呼ばれてきました。これは、デザインが由来しています。

「縁なしデザインでいこうというのは最初のプレゼンの時点で決まっていたので、大きな変遷はありませんでした。平たいから、なんとなくフラットって呼んでいたら、そのままコードネームになっていました」(岡嶋)

開発の過程で、シェフから要望を出して加わった機能もあるといいます。

「クラッドプレートの加熱状況を、LEDの状態でわかるようにしたかったのです。具体的には、加熱中は点滅し、指定した温度になると点灯に変わるようにしてもらいました」(岡嶋)

それぞれのモードの設定温度に達すると、LEDが点灯状態に変わる

岡嶋が開発に携わった製品は、BALMUDA The Toaster Proに続いて2製品。一度ものづくりの大変さを知った後だったので、第2弾の完成は感慨深いものがあったといいます。

「トースターのサラマンダー機能もそうでしたが、私の細かいこだわりを懸命に形にしてくれ、実にやりがいを感じました。料理人が家電メーカーで製品企画をつくるチャンスを得たのだから、普通の人とは違うベクトルで製品を提案しようと心に決めました。ただ、言うのはらくですが、つくるのは本当に大変だということは、バルミューダに入社して痛感します。困難や無謀な提案に対しても、なんとかして解決策を考え、必ず良い形で製品を仕上げるエンジニアチーム、デザイナーのチームがいて、頼もしい気持ちで企画を進めることができました。トースターで培ったソフトウェアチームの温度制御も素晴らしい完成度です。自分の中では、なんとなくProシリーズイコール火入れみたいなところができつつありますね」(岡嶋)

付属のヘラもシェフのアイデア

余談になりますが、付属品の金属ヘラには、岡嶋シェフの考案で目盛りが付いています。これにも理由がありました。

「レシピなどにおける肉の焼き方を見ると、“中火で”など曖昧な表現が多いのですが、BALMUDA The Plate Proは温度が安定しているので“何㎝のお肉だったら何分で─”といった具合に、レシピ内で具体的にお伝えできます。せっかくそれができるのだから、食材の厚みがいつでもヘラで測れたら便利だと思って提案しました。デザイナーとエンジニアが連携してすぐにつくってくれましたが、量産直前のタイミングでとても焦ったと後から伺い、無茶ぶりに顔色ひとつ変えず対応してくれたことを感謝しています」(岡嶋)

食材の厚みを計れる目盛りが付いたヘラが付属
先端は鋭利になっていて、クラッドプレートの油汚れの除去にも便利に使える

初めてBALMUDA The Plate Proを使う人には、とにかくいろんな料理を試してほしいと岡嶋はいいます。

「いろんな温度で、さまざまな料理を試していただいて、自分流の使い方を探っていただけたらと。クラッドプレートの温度は20度刻みで設定できます。本体やマニュアルにも記載ありますが、各温度設定でつくれる料理は以下のようなものがメインです。200℃は万能ですので、迷ったら200℃の設定を試してみてください」(岡嶋)

  • 160℃ ホットケーキ、クレープなど

  • 180℃ 鶏肉、冷凍餃子など

  • 200℃ ステーキ、魚介、野菜、お肉など

  • 220℃ サッと火を通したいもの、焼き色を付ける、たこ焼き(別売のTakoyaki Plateを使用)など

シェフ曰く、特におすすめしたいのは、お肉。まずはステーキを試していただき、焼き鳥やハンバーガーにも挑戦してほしいといいます。

「そうですね、やはり、まずはお肉をと思います。ステーキを加熱する際、フライパンに置くと表面温度が下がってしまい、煮えた感じが出てしまうのですが、6.6ミリのクラッドプレートは蓄熱性が高く、食材を置いても温度が下がらないから、メイラード反応で綺麗な焼き目が付くんです。香ばしく、中はレアからウェルダンまで思いのままに焼けます。あとは、焼き鳥もぜひやってみてほしいですね、縁がないから焼きやすいんです。ライブチーズバーガーも3つまではいっぺんに焼けるので、おもてなしの際に振る舞ってみてください」(岡嶋)

まずは、ステーキを
ハンバーガーは3つ同時に

道具にこだわる人に使ってほしい

趣味の料理人や、料理をふるまうのが好きな人、食卓の団らんを楽しみたい人、調理器具や道具にこだわる人に、ぜひ使っていただきたいBALMUDA The Plate Pro。最後にシェフからメッセージをいただきました。

「ただ“つくる”ではなく表現として、ライブ感を味わえるホットプレートは、世の中にこの製品だけだと思います。そのためにクラッドプレートの上で直接、刃物が使えるようにしました。キッチン家電とプロの調理具の間の絶妙なポジションにある製品です。ぜひ、料理をパフォーマンス込みで楽しんでください」(岡嶋)

その場で振る舞うライブ感を食卓を囲むみんなで楽しんでもらうため、刃物に耐える強靭な素材を採用

マガジン「Deep Dive into BALMUDA」では、普段あまり語ることのない開発現場のディープな情報を、スタッフの声を交えて紹介しています。