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WhenもWhereも居場所をなくし、Whoだけが意味を持つ世界を描く『TENET』

時は流れない。それは積み重なる。

と言ったのは誰だったかな。(*以下部分的にあらすじを含みます)

時間が逆行する装置をめぐって繰り広げられる、世界を救う英雄譚。
世界各国を飛び回り、時間移動によって様々な「記録地点」へジャンプするダイナミックな設定とは裏腹に、非常に狭い人間関係の中だけで物語が完結するコントラストがなんとも興味深い。既視感のあるセカイ系を思わせますが、映像表現の巧みさと相まって非常に楽しめました。

あらすじ

ウクライナのオペラハウスで、突如としてテロ事件が発生。現場に突入した特殊部隊に、ある任務を帯びて参加していた“名もなき男”は、大量虐殺を阻止したものの自身は捕らえられ、仲間を救うために自害用の毒薬を飲まされてしまう。
しかし、その薬はいつの間にか鎮静剤にすり替えられていた。目覚めた“名もなき男”は、死を恐れず仲間を救ったことで、フェイと名乗る人物から、未来の装置「時間の逆行」を使い未来の第3次世界大戦を防ぐという、謎のミッションにスカウトされる。鍵となるのは、タイムトラベルではなく“時間の逆行”。混乱する男に、フェイはTENETという言葉を忘れるなと告げる。

すでに起こった出来事を過去に戻って介入し、未来を変えようとするのは人間の性なんですかね。

色々な登場人物が「時間逆行装置」で時間移動を繰り返しつつ、うまくいったり失敗したりしながら「あぁ、この時のこいつは、誰それだったのか!」というタイムトラベルお約束の展開もみなさん想像どおりです。

とはいえ時間移動によって経験した事象はそれを経験した個人のみが把握し、他の人はその過去改変を認識できないと説明されます。

人類が平等に持つ「水平に流れ去る近代的時間」神話を、個々人の行動(と時間逆行装置)によって、各々に「垂直に積み重なる時間」へと転換させるギミックは、単純な設定でありながら物語の重層化に一役買ってますね。

「いつ = When」「どこ = Where」もない

時点を指し示す日付や時計は映像上には現れず、それが「いつ = When」であるのかといった情報はほとんど提示されません。登場人物が気にかけるのは「残り10分」といったあくまでタイムリミットを示す時限のみ。時間がいかに「相対的」であるかを示すようです。

場所を指し示す地図や地名も映像表現では現れません。各国の地名も言葉によって語られるのみで、「移動中」の(航行中の飛行機から地上を眺めるといった)シーンもことごとく削られています。ページをめくればいつの間にか次の目的地の空港に着くようなテンポの良さで、「どこ = Where」がいかに本作の中で意味をなさないかを如実に表しているようです。

「時間」と同じく「場所」自体もほとんど意味を持たず、「誰 = Who」が何を為すかという点のみにフォーカスが当てられ物語は進んで行きます。

いや目的は「第3次世界大戦」を防ぐ事なんですけど?と当初の目的が無かったかのように自分勝手に突っ走る主人公が、なんともすがすがしく見えてくる後半。

結局どんな便利な道具があっても、人としての愛や使命感が普遍的なんだよねと突きつけられているようで、胸が熱くなります。

時間や場所がその意味を見失い、一人一人にただ「現象」のみが積み重なる世界において、それでもなお自らの愛する人を護ることや、使命感といった(もはや描くこと自体が陳腐にすら思える)テーマを、瑞々しく描き切ったまさに人間賛歌だなぁ、となんとなく無理矢理まとめてみました。

そういえば

冒頭の

時は流れない。それは積み重なる。

は、サントリーテーゼと呼ばれる秋山 晶さんの有名なコピーでした。

サントリー12年のCMに使われたそうで、12年も経ったらあの金髪の子供は成長してニールになるのかな?とか思ったり。

(個人的に好きなのは後半山場の作戦シーン、流れる時間の順行と逆行が同居する映像体験はそれだけでも見る価値があるほど素晴らしいと思いました。こういうのは映画にしか出来ないよなぁ。)

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