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なぜ組織開発にプロセスワークなのか?(組織開発×プロセスワークVol.1)

「どうすれば本質的な変化を生み出す組織開発ができるのか?」

近年、「組織開発」に取り組む企業が増え、様々な取り組みが行われています。一方で、経営者、事業責任者、現場リーダー、人事の皆さまの中でも
「どうすれば組織開発の成果を最大化できるのか」
ということへの悩みも増え続けているように感じます。

私たち、バランスト・グロース・コンサルティングは、
"変化の心理学"とも言われる「プロセスワーク」の智慧を活用し、
15年以上もの間、様々な企業の組織開発を支援
してきました。

また、Netflix・Intel・シティグループといったグローバル企業の組織開発・人材開発にもプロセスワークのコンサルタントが関わる事例も増えてきています。

「組織開発×プロセスワーク」の連載企画では、現場で組織開発を実践していく武器となるようにプロセスワークを活用した組織開発に関する理論・アプローチ・実践事例を紹介していきます。

馴染みのない方もいると思いますので、まずは、
「そもそもプロセスワークとは何か?」
「なぜプロセスワークなのか?」
といった視点からアプローチの土台となる考え方をお伝えしていきます。


プロセスワークとは

プロセスワークの成り立ち

プロセスワークは、プロセス指向心理学とも呼ばれ、米国民主党議員や世界のビジネスリーダー、国連などでメンターやコーチを努めたアーノルド・ミンデルによって1980年代に提唱されました。

米国MITで物理学を学んでいたミンデルですが、チューリッヒ工科大学に留学した際、深層心理学のユング研究所に出会い、ユング派分析家へと転身することになりました。
ミンデルの両親はユダヤ系であり移民としてアメリカ(ニューヨーク)へと移住しました。ミンデルの思想が多様性に開かれて発展していったことは、人種や宗教の坩堝であったニューヨークでの原体験がありました。

その後、個人の心や深層を分析するユング心理学をミンデルは独自に発展させていきます。東洋思想や物理学のバックグラウンドも活かしながら、身体性というユングの残した課題に向き合い、人間関係や集団、組織、社会へと深層心理学のフレームワークを応用することでミンデルはプロセスワークを生み出していきました。

プロセスワークは人も組織も社会も、常に学び変化していくものであり、起きてくる事象にある「意味」を見出し、そこから得た「気づき」を変化に活かしていくアプローチであり、"変容の心理学"とも言われます。

特に、変化を生み出していく中で、それを妨げる価値観や信念、背景にある文化、人間関係、対立を扱うことから、組織開発分野においても世界中で活用されるようになっています。

組織開発の発展とプロセスワーク

現在、日本でも様々な組織開発のアプローチが実践されてますが、組織開発のルーツには現象学や社会構成主義、フロイトやユングの深層心理学などの影響が大きくあります。

深層心理学は集団への発展としてサイコドラマやゲシュタルト療法、Tグループなどいわゆる集団精神療法へと発展していきますが、ここまでは個人に対するアプローチやセラピーとしての位置づけに留まっていました。

そこから、現実社会の組織課題や世界の問題へと応用していった数少ないモデルがプロセスワークです。問題というのは普通の人たちの日々の営みに起きており、集団の力動を扱いながら、経営や組織の文脈で理論と実践を深めていくところまで応用しているのがプロセスワークという存在です。

INSEADビジネススクールでもマンフレッド・ケッツ・ド・ブリース博士が「集団における深層心理学的な力動」を専門的に教えており、ビジネス組織の分野でも研究が進んでいます。プロセスワークはより実践的ですが、海外ではNetflixやIntel、シティグループの組織開発・人材開発分野にもプロセスワークのコンサルタントが関わる事例があります。

特に、プロセスワークは「関係性」に強く、難解で複雑な人と人の関係性の扱いに長けていることから、近年組織開発に関わる方々からのニーズが高まっています。

組織開発においては、ハーバード大学で教鞭を取られるハイフェッツ教授がいう「技術的課題(既存の方法で解決できる課題)」ではなく、一人ひとりのモノの見方や周囲との関係性が変わらないと解決できない「適応課題」に取り組むことがほとんどです。

「適応課題」とは対話なくして解決することができないものです。組織内の「関係性」を専門的に扱うこと、新たな「気づき」を組織に生み出すことが求められる中で、まさに「プロセスワーク」の智慧が活用されるようになってきました。

つまり、プロセスワークは、組織開発の土台となる哲学的基盤を持ちながら、個人の問題やセラピーという精神療法を超えて、組織の現実的な課題や人と人の関係性にまで応用と実践を広げているという意味で、これからの組織開発に大きく貢献していく存在と考えています。

本質的な変化を生み出すフレームワーク

変革の必要性が生じている時、「変革の必要性(なぜ変革するのか)」「方向性(どこへ向かうのか)」「進め方(どのように取り組むのか)」について必ず心理的・構造的な葛藤が生じています。

もちろん変化への葛藤を一方的な力で押し切ることもできます。この葛藤の“火を消そう”としてしまい安易に妥協することも可能です。しかし、いずれにしても、消しても消しても火は燻り続け、組織の関係性もパフォーマンスも悪化していきます。

火を消すのではなく、“火の本質を理解しよう”とするスタンスを取ることで、葛藤は組織の生命力と創造性に寄与する前向きなエネルギーに変化します。

そこで組織内・外関係者の「感情や想い」が絡み合う集団心理の構造を俯瞰して捉え、何が葛藤の本質なのか、変化を阻むものは何かに意識を向けながら、組織の「これまで」「これから」を丁寧に見立てていくことがスタートになります。

ここでは、その際に活用できるプロセスワークのモデルを2つ解説します。

個人と集団の変容ロードマップ

プロセスワークでは、「一次プロセス」と「二次プロセス」という視点で組織を見立てます。どの組織もそれぞれ相対的に慣れ親しんだアイデンティティ(一次プロセス)を持っており、組織開発においては、そこから個人も集団(関係性)も未知のアイデンティティ(二次プロセス)に移行していくことが求められます。

そこには多くの場合、時代の変化やビジネスの衰退、市場・技術の変化やモデル転換の圧力といったアイデンティティの変化を促すディスターバー(危機・脅威)の存在があります。ディスターバーの存在によって組織や個人は変化を強いられるわけですが、その際に価値観や信念、プライドや成功モデル、常識や思い込み、関係性や対立といった変化を阻害するエッジが立ち現れます。このエッジをいかに扱うかがプロセスワークの真骨頂とも言えます。

また、危機感だけだと個人や集団の様々なエッジが抵抗を引き起こすため、未来に持続可能な姿や時代の変化にあった新しい組織の構築といったアトラクター(進みたい未来)を自分たちで創り上げることが重要になります。組織は明確なビジョンを持っていると方向性を持って変化しやすく、また当事者意識を持つことでエッジを超えやすくなります。

つまり、何が脅威(ディスターバー)で、何が進みたい未来(アトラクター)で、取り組むべき課題(エッジ)が何かが明確になり、適切に扱われることが組織開発においては重要であり、プロセスワークの地図を持つことは組織の変革を促すうえでの第一歩になります。

変化変革を進めるにあたり、今の姿は次の姿に変容しようと常に動いていくものです。この地図を常に持ちながら歩むことができるか否かは、結果に大きく作用していくのです。

3つの現実レベル(深層民主主義)

もう一つ欠かせないコンセプトが3つの現実レベル(深層民主主義)というモデルです。プロセスワークでは、個人や集団・組織は3つの現実から構成されていると考え、組織の変化を促していく上でより深いレベルでの見立てと介入が必要になります。

普段私たちが見ているもの、現状や課題として捉えているものの多くは「合意的現実レベル(Concensus Reality)」と呼ばれます。組織の戦略や業績、評価、製造やマーケティングといった組織の機能などは、私たちが現実として合意しているものですが、実はこのレベルでのみ話を進めても組織の課題は解決されないことが多くあります。

そこで、一人ひとりの感情や期待、恐れ、あるいは、組織の慣習や文化、関係性、対立など、もう一つ深いレベルの「ドリームランド(Dream Land)」を扱う必要が出てきます。「ドリームランド」は非常に主観的性質が強いものであり、個人や組織のエッジはこの主観と主観の間(間主観性)から生まれてくることが多いため、しっかり扱われないと組織の変化が阻害されることになります。

そして、エッジを乗り越えるためにも、個人や組織のパーパスや共通の価値観にあたる「エッセンス(Essense)」レベルの繋がりが必要不可欠です。このレベルでの対話が生まれて初めて、対立を超えた先に組織やチームが一つになり、本当に必要な変容が生まれてくると考えています。

この3つの現実レベルを行き来することで、組織の中で語られていない声が表出し、より深いレベルで課題を見立て、本質的な変化を促す介入を実行していくことが可能になります。

今回は、そもそもプロセスワークとは何か、プロセスワークと組織開発の関係性、プロセスワークの基本的なモデルについてご紹介してきました。少しイメージの解像度は上がったでしょうか。

次回以降は、プロセスワークの知恵を活用した組織の変化の見立て、組織課題の構造分析、対立のマネジメント、リーダーシップ開発などについて解説していきます。

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