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空と水とSigma FPのパウダーブルー、春が来ない街

新学期、新年度の始まりとともに、SNSのタイムラインには春の訪れを感じさせる写真が溢れている。桜のつぼみ、野に咲く花、暖かな日差し。そんな投稿を見るたびに、春はもうすぐそこまで来ているのだと感じずにはいられない。

我が家の周りの雪もようやく解け始め、今日は散歩に出かけるのに悪くない陽気になってきた。そこで、カメラを手に近所の湖がある公園へと向かうことにした。湖畔の景色を、Sigma FPのパウダーブルーを求めて生まれた「憧れる者への眼差し」の設定で切り取ってみようと思ったのだ。

まるで浮き上がるように鮮やかな黄色い消火栓。古枯れた森の中で異質な存在感を放っている。
錆びた欄干と木製の橋に綺麗に影がかかっていた。奥にある樹々にはまだ芽吹きの兆しもないが、その茶色い色合いと、淡い青空とのコントラストが何とも言えない雰囲気を醸し出している。

「憧れる者への眼差し」の設定が生きてくる。空の色合い、木の質感。撮った直後にモニターに映るこの絵には本当に心躍らされる。

公園の中をさらに進んでいくと、バーベキューグリルが視界に飛び込んできた。米国の私が住んでいる地域の公園では至る所で見かけるものだ。

色味の寂しさからも佇むグリルが人々が戻ってくるのを待っている様子がうかがえる。

グリルは焼きたての料理の香りと賑わいを予感させ、やがて訪れる春の息吹を静かに予告している。F2前後のボケ味を活かしつつ被写体の存在感を引き出すことができた。被写体の立ち位置、構図、設定の妙。

湖に目をやると、水面から突き出た枯れ枝が不思議な造形美を見せていた。

冬の終わりを飾る葦は、春への橋渡しをしているようであり、
その姿には自然の儚い美しさが息づいている。

たちまち心を奪われてしまう。「憧れる者への眼差し」は、この美しさをしっかりと捉えてくれた。湖面に映る空の青、前ボケの枝のライン。この1枚だけで、散歩に来た甲斐があったとすら感じてしまう。

写真とは、目にはっきりと見えない季節の変わり目を記録してくれるものだ。葦の穂がゆらぎ、水面がきらめき、冬がゆっくりと春に姿を変えていく。この一枚の写真に、そんな変容の美しさが凝縮されている。撮影者として、これほどの喜びは他にはない。

そして次が今日イチの一枚。

画面奥の湖畔に置かれたベンチを、立てかけられたカヌーを前ボケさせて際立たせた。

青空とベンチ、ぼんやりと映るさかさまのカヌー。それらが織りなすドリーミーな空間に、思わずシャッターを切った。現実と夢の間を彷徨うような、素敵な1枚が生まれた瞬間だった。

風が強く波打つ湖と打ち上げられた丸太。
周りの世界は活動を始めているのに、この丸太だけは昨日に取り残されてしまったようだ。
枯葉が積もる森の斜面に取り残された丸太。暖かくも、春はまだ見えない。
パウダーブルーの極み。空や水との相性は抜群だ。

こうして湖畔の散歩は終わりを告げた。春の息吹を感じられたかと問われれば、正直まだまだ先のような気がする。木々に芽吹きの兆しはなく、冷たい風が体を包み込んでいた。

しかし、それを上回る喜びを、この散歩では得ることができた。「憧れる者への眼差し」が生み出す色調と、己の感性が融合することで生まれたスナップ写真。JPEG撮って出しとは思えないクオリティに、我ながらほくそ笑んでしまう。

パウダーブルーは、水と空、そして冴える黄色の被写体とも相性がよいのかもしれない。

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