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ひそかなナポリタンのこだわり

料理は自由だから、たとえ有名な名前のついた料理でも自分の好きなようにアレンジしたらいいと僕は考えている。

でも、若い頃の思い出と共にこのメニューはこうでなければいや!というものは結構誰でも一つ二つは持ってるんじゃないかな?

僕のこだわりは昭和時代喫茶店でよく食べたスパゲッティナポリタン。
妙にもちもちした麺が鉄板に焼き付いていて、食べたら口の周りがオレンジ色に染まる、粉チーズをたっぷりかけタバスコを振ってフォークに巻き巻きして食べるアレ。ちなみにフォークは紙ナプキンで固く結ばれて出てくるのが定石だ。

今はリバイバルというか、「昭和のナポリタン」とか「懐かしの味ナポリタン」などとおしゃれなカフェでもメニューにあったりする。
僕も懐かしんで頼んだりするのだが、ハッキリ言って全部ダメだ(笑)
どれもこれもナポリタン「風」でしかない。

ただ茹でたスパゲッティをケチャップの味付けにしたり、具材が昭和風に玉ねぎ、ピーマン、ウインナーだったりしているだけだ。

まぁそもそもナポリタン自体がイタリアには存在しない、イタメシブームがくるまでのアメリカンイタリアンを更に当時の日本人ができる範囲で真似して発展したガラパゴス料理なのだから、こだわるのがおかしいと言われればそれまでだが、昔の思い出と共に刻まれているあの味わいはやはり再現してこそ「昭和の」を名乗りたい!

まず昭和のナポリタンは、パスタ専門店でもなんでもない喫茶店の、しかも比較的数が出るメニューのひとつだった。
いちいち注文があってから茹でていてはフレックスタイムなどというモダンな制度がなかった忙しいサラリーマンの昼休みが終わってしまう。
前日に長めの時間茹でておいた麺を水で締めたものを一食分ごとに保存しておき、注文があってからフライパンで焼くのだ。
冷蔵庫で一晩寝た麺は硬くなっているので水か牛乳を加えて炒める。

炒めながら水分を吸った麺は当然アルデンテなんておしゃれなものではなくブヨブヨしているのだ。
大体日本人は米でも柔らかく炊くのが好きで、もし米をアルデンテなんかにしたら単に「芯が残っている」と感じるのが自然だ。
たこ焼きでも焼き魚でも、外カリっ、中ふわっが好きなのが日本人であり、中が硬いのはそもそも文化に合わないのだ。

そして水分を吸ったスパゲッティをケチャップを焼き付けるように炒めると、外が焦げついてきて、まさに日本人が好きな外がしっかりとして中がモチモチな麺が出来上がる!

これこそが昭和を名乗れるナポリタンではないか!?

一晩寝かせるなんて面倒だ!と思うかもしれない。でもそもそも昼の時間帯に量産するために考えだされた実は時短メニューなのだ!

さらに焼いた鉄板に乗せて供されるナポリタンはジュウジュウと激しいシズルと共にテーブルに無造作にお置かれ、モチッとした麺はフォークに容易に巻きつけることができ、大口を開けてスポーツ新聞を読みながらのサラリーマンたちの口に収まっていくのだ。

これぞ至福と至高の時!


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