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マーク・フォーサイズ『酔っぱらいの歴史』/読書感想文

お酒を肯定するひとはたくさんいて、同じように批判的な意見もたくさんあります。

お酒に関する有名な本では、例えば山口瞳さんの『酒呑みの自己弁護』なんかがあって、酒呑みからするととてもユーモアな言い訳がたくさん連ねてあって楽しい本なのですが、山口瞳さんはもともとお酒を売る側の人であって、どうしても題名にあるように「自己弁護」感はぬぐえません。たばこの会社に勤める人がたばこに優しいように。

けれど、それでもお酒を飲む側には、飲む側の主張があります。
例えば、町田康さんや曽我部恵一さんがお酒をやめて生産性が上がった、お酒をやめて一日が3時間増えた、と話しています。
お酒を毎日飲む人が、1日3時間くらい無駄にしているのは多分真実でしょう。ですが、町田さんや曽我部さんは、自営の芸術家で、集中できる時間が増えることが人生と仕事に直接レバレッジを産みやすいということもあるのだと思います。
私はお酒が大好きですが、一生懸命仕事して、時折勉強して、たまに夜遅くまで働いて、家族と過ごす時間を作っても、週数回3時間酩酊する余裕は問題なくあります。その時間を酔っていようがいまいが生産性に変化はありません、と主張したいですが、残念ながら声を大きくして言えるようなことではなく。

『酔っぱらいの歴史』を書いたマーク・フォーサイズさんはイギリスの文学者の方で、酒呑みの立場的にいうと一般の方です。一般の酒呑みが、いかに人類がお酒を楽しんできたかを神話の時代から史実を基に延々とユーモアを交えて論じてくれています。酒サイドから言うと、そうだ、そうだ、とうなづくことばかり。

私が好きなイントロダクションの一節だけ引用させて頂きます。

“自分はたいていの人よりもずっとたくさん酒を飲んでいるけれど、八歳のときを最後に誰も殴ってはいない。そう言うと彼らはこう答える。「うん、そうだね、でもほかのやつらはどうだい?」いつもこれだ、くそう、ほかのやつらめ。”

好きなお酒を片手に人生の無駄だとされる3時間を過ごすのにとてもおすすめの本です。
ただ、山口瞳さんも開高健さんも若くして病気で亡くなっています。お互い健康には充分気をつけましょう。

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