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コロさん日記(15)〜物事の終わり〜

どんな物事にも終わりはある。

振り返ってみれば昨年の晩夏。同居人のニンゲン(女)が運営するラブコという会社から、コロさんはうちのホスピス(重ねがさね言うが、おれの書斎)へと移ってきた。

なぜならコロさんは腎臓に持病のある老猫で、今や食がすっかり細くなって衰弱がひどく、医者にも手の打ちようがないため、だったらうちのホスピスで静かに余生を過ごしてもらおうと、ラブコのニンゲンが考えたのだった。

当時のコロさんは、確かにやつれていた。全身に骨が浮かんでいて、あまり動かず、歩き方もふらふらして、食事にも口をつけずと、それはもうどこから見ても、今にも命の炎が燃え尽きようとしている生き物の姿であった。口には出さなくとも誰もが感じていた──この猫はもう先が長くない、と。

あれから半年が過ぎ、年に何度かの雪がこの街に舞い降りた頃、コロさんは──

復活した。ギンギンに。えええええ。マジかよ。

何が良かったのか不明だが、ホスピスへ移ってきてから、コロさんは徐々に食が戻り始め、やがて力強く鳴いて、ニンゲンにあれこれ要求するようになった。目にも力が戻った。あいかわらず点滴は毎日必要だけれど、ごはんはもりもり食う。出せば出すだけ食う。君は本当に、半年前まで棺桶に片足を突っ込んでいた、あの猫なのか?

断言しよう。コロさんは今すぐ死にそうにない。むしろ今が人生の春といったぐあいに、我が家のリビングで大きな顔をして過ごしている。

そう、コロさんはホスピスを退院した。

元気を取り戻していくにつれ、手狭なホスピスでは物足りなくなったのだろう、ドアの前で「開けろ開けろ」と鳴くようになった。それはいつまでも病人扱いするなという、プライドの表明だったのかもしれない。今や歳相応の健康体を取り戻したコロさんが、退院を要求することは必然の流れとも言えた。

唯一の懸念は我が家の先住猫たち──コロさんは猫嫌いなのだ──と、うまくやっていけるかどうかだったが、リビングで過ごす時間を徐々に増やしていく作戦が奏功したのか、かまってちゃんのマダラ猫に対して、たまに「シャア」とキレるくらいで、残りの猫たちとはそれなりに折り合いをつけて過ごしている。

いやさ、誰がこんなエンディングを予想しただろう。この日記は本来、コロさんの葬儀の写真とともに終わるはずだった。そこまでは既定路線に思えた。運命は変えられないものだと。ホスピスへ移ってきた頃のコロさんはそれくらい、はっきりと死相が浮かんでいたのだ。

なんだか騙されたような気分だけれど、それはそれで悪くはない。

こうして我が家の臨時ホスピスは役目を終え、おれの書斎へと戻ったのである。

(「コロさん日記」はこれにて一旦終了、今後は通常の「猫暮らし記」の中で、我が家の猫たちと併せてコロさんの近況も紹介していく予定です。)

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“コトバと戯れる読みものウェブ”ことBadCats Weekly、本日のピックアップ記事はこちら。武道家ライターことハシマトシヒロさんが、名作『ロッキー』について愉快に軽妙に綴ります。

寄稿ライターさんの他メディアでのお仕事も。ライター&エッセイストの碧月はるさんによる、虐待などのテーマを含む体験手記。とてもハードな内容ですが、助けが必要な時に役立つ情報も網羅された、貴重な連載コラムです。

最後に編集長の翻訳ジョブを。翻訳を半分ほど担当しました、西部劇テイストのアクションRPG『Weird West』がリリースされました!“奇妙な西部”で巻き起こる、5つの奇妙なストーリーをお楽しみください。

これもう猫めっちゃ喜びます!