【エッセイ】ひとつまみ
昨年末からオイシックスをよく使っている。
他業者のミールセットと比べてちょっとお高いのがネックだけど、生きることのすべてを家の中で完結させたい私のようなメジャー級の無精者には、買い物の手間が省けるのでとても助かる。なにより美味い。
レシピも美しい写真が添えてあって調理欲をかき立てられ、ほどよい時間と労力でもって、本当にこれはものぐさなじぶんで作ったものなのかと目と舌を疑ってしまうほど、立派な一品ができ上がる。すごい。
そういうわけで、おおむね不満はないのだが、時にレシピを見ていて、はたと手が止まってしまう瞬間がある。
ひとつまみ、だ。
ひとつまみってどれくらいよ。
例えば「大さじ一杯」なら、標準的な軽量スプーンで計れるので紛れはない。「少々」も、さっと振るくらいだから感覚的になんとなくわかる。
でも「ひとつまみ」はわからない。そもそも「つまむ」というからには、よっぽど天邪鬼な人でなければふつうは指でつまむわけで、だとしたらそうやってつまむ量には、当人の指のサイズに起因する個人差があって然るべきだ。ぼくのひとつまみとあなたのひとつまみがまったく同じ、ということはないはずである。
すなおに考えれば、「つまみ」アクションに用いる指先の面積が広い人のほうが、ひとつまみの量は増えるだろう。相撲取りのひとつまみと幼稚園児のひとつまみなら、ゆうに倍以上の差が出てくるかもしれない。
加えて、どの指でつまむかによっても変わってくる。親指と人差し指でつまむのか、親指と中指でつまむのか、あるいは親指と人差し指と中指の三本をすべて使うのか。いずれの場合も、ひとつまみの量は変わってこよう。
そんなことを考えているうちに、しばらく呆然となってしまうのだ。
それとも「つまみ」という、つまみアクション専用のキッチン用品が市販されているのだろうか。私が知らないだけで。それ一回でひとつまみ、みたいな。
そうだ。そうにちがいない。
今度東急ハンズで「つまみ」ありますか、と訊いてみよう。彼らは親切だから、きっと懇切丁寧に教えてくれるはずである。
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