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決して諦めない猫のこと

我が家には、なつめぐというキジトラ猫がいる。コの字にぽっきりと折れ曲がった尻尾がチャームポイントだ。本人的にはどうなのか知らないが。

なつめぐの性格をざっくり言い表すなら、「しつこい」。これに尽きる。そう、彼女(雌だ)は決して諦めない。

人間にもいる。まるで少しでも意見を曲げたらそれは人格の否定であり末代まで呪われる、といった調子で譲歩をしない人たちが。そういった、自分の希望をどうしても通したい相手と対したとき、向こうが論理的に説き伏せようとしてきたなら対応は比較的楽だ。

論理的な相手は結果よりも、華麗な論陣を張って筋を通すことに美学を感じている場合が多いので、こちらが手をひらひら振ってまともに取り合わなければ、勝手に疲れて去っていく。正論にはスルーが一番きく。

が、厄介なのはじっと黙して引き下がらない相手だ。テコでも動かんとばかりに座り込むことで、あたかも自分が被害者であるかのような図式を確立させ、こちらが疾しいことをしているような気分にさせてくる。

なつめぐが使うのは、まさにこの手管である。

例えばおやつが欲しいとき。

なつめぐはただ、その澄んだ瞳でこちらを射抜くように見つめ、身動ぎもせずにちょこんと待っている。こちらの一挙手一投足を追尾ドローンのように逃さず追い、鍛え抜かれた目力で背中をじりじりと熱してくる。

やがて、さも自分がおやつを受け取る正当な権利を踏みにじられた被害者であるかのような、哀れみに満ちた、か細く、切ない声で「うにん」とひとつ鳴く。ふたつ鳴く。みっつ鳴く。よっつ鳴く。

そしてまたじっと睨めつけてくる。

これをしばらく繰り返されると、こちらは毎回のように根負けしてしまう。というか粘って勝てる気がまったくしない。そしてまんまとおやつをせしめたなつめぐは、これだけが生きがいなんだと言わんばかりの顔で、器用に両手を使いながら美味そうにおやつを食べるのである。

もちろん、礼は言わない。

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