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コロさん日記(14)〜コロさんにできた友だちの話〜

そういうわけで、コロさん改めコロ沢は今日も元気だ。

ごはんもたっぷり食べるし、膝の上にも軽やかに飛び乗ってくる。ラブコから当ホスピス(おれの書斎)に移ってきた当初は、ここで一人静かに死を迎えるのだろうと思っていたが、気がつけば体調も盛り返して、最近は友だちもできたようだ。

その友だちは慢性的な皮膚病のため、爪で体を掻いてしまわぬよう首にドーナツ様のエリザベスカラーを巻いている。二重に。加えて腎臓が悪いため、日々の点滴も欠かせない。

猫が嫌いなコロ沢だけれど、このドーナツ猫とだけはなぜか気が合うようだ。日々の点滴ユーザー同士、ニンゲンにはわからない言語で励まし合っているのかもしれない。ふたりで控えめに追いかけっこをしたり、オイルヒーターの横で並んで暖を取ったりしている。

穏やかな時間が流れている。

それでふと、このあいだ鑑賞した『クライ・マッチョ』という映画を思い出した。御年九十一歳になる映画界の伝説、クリント・イーストウッド監督の最新作にして主演作である。

自身もまた死を身近に感じているであろうクリントが、この『クライ・マッチョ』で伝えようとしたもの、それは「終わったあとの生き方」ではないだろうかと私なんかは思った。

主人公のマイクはロデオ界の元スターだが、今は完全に落ちぶれて寂しい余生を送っている。映画が始まったとき、マイクの人生は終わっている。あとはもう死ぬだけ。本人もそう思いながら、残された日々を無為に消化している。

けれども一人の血気盛んな若者と旅をするなかで、マイクはその終わった日常の先に新しい居場所を、人生を締めくくるための最後の幸せを見つけるのだ。

そんなマイクの姿が、自身も命のカウントダウンを受けていながら、ドーナツをつけた新しい友だちとじゃれ合うコロ沢とかぶった。生き物はやはり、一人ぼっちでは逝きたくないのかもしれない。

けどな、コロ沢。
その友だち、こないだ死んじゃったんだよ。
ごめんな。

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“コトバと戯れる読みものウェブ”ことBadCats Weekly、本日のピックアップ記事はこちら。武道家ライターことハシマトシヒロさんが名作『キッズ・リターン』と、なぜか心中について綴ります。

寄稿ライターさんの他メディアでのお仕事も。ライター&エッセイストのみくりや佐代子さんが、月刊ノベルメディア「文活」に寄せた一作です。

最後に編集長の翻訳ジョブを。カンフーアクション「Sifu」が大ヒット中ですが、私が翻訳した前作の「Absolver」もぜひどうぞ。こちらも硬派な格闘アドベンチャーです。

これもう猫めっちゃ喜びます!