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【エッセイ】輪ゴム

生まれてこのかた、輪ゴムを使いきれたことが一度もない。

だいたいそんなに使うか、輪ゴム。我が家では食べかけのチップスや生野菜パックの袋の口を留めるのに使っているが、それでもせいぜい週にひとつかふたつだ。ところが輪ゴムは通常、箱で大量にまとめ売りされている。子どものころから、そうやって売られている気がする。

調べてみると、例の有名ブランドでは一箱に六百個くらいの輪ゴムを詰めてあるらしい。めっちゃ多いな。しかも安いし。そんなに気前よく売っちゃって大丈夫なのか、輪ゴム。なんだか不安になってくる。

が翻って考えるに、何年もそうやってまとめ売りされているということは、輪ゴムを使いきれない私なんかのほうが実は少数派なのではないか。一般の家庭では、もっと頻繁に輪ゴムを使っているのではないか、という疑念が生じる。

他人の家庭のリアルなありようを覗き見られるチャンスは、意外と少ない。世の中には私だけが知らない輪ゴムの使い方が、ふつうに浸透している可能性は十分ある。

例えばそう、インテリア。あれを鎖状につないで部屋に飾ったりする文化が、どこかの地域では根付いているのかもしれない。そういう使い方であれば、大量の輪ゴムも使いきれそうな気がする。むしろ一箱では足りなそうだ。

そういえば昔近所に、輪ゴムをいくつも手首に巻いている爺さんがいたが、あれも意味があって巻いていたのだろうか。血行が良くなったりするとかで。あの爺さんは十個ほどの輪ゴムを手首に巻いていたから、ひと月に一箱くらいのペースで輪ゴムを消費するヘビーユーザーだった可能性がある。

みんなそうやって、それぞれのやり方で輪ゴムを消費しているのだろうか。もしや料理の材料にもなったりするのか。まさか食えるのか、輪ゴム。そういえば横浜スタジアムのラーメンは輪ゴムを食っているような味がしたが、あれは実際輪ゴムだったのかもしれない。

そんなことを思いながら、ピストルよろしく指に輪ゴムをはめて、バン、と撃ってみる。

輪ゴムがヘナヘナと飛んでいき、我が家の在庫がひとつ減った。


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寄稿ライターさんの他メディアでのお仕事。

編集長の翻訳ジョブ。永遠の氷雪に閉ざされた街を舞台にした、幻想的なローグライクアドベンチャー。


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