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【エッセイ】寮暮らし

共同生活をしたことは今まで三回ある。

いわゆる「寮暮らし」というやつだが、なぜか私は部屋運がなかった。

初めての寮暮らしは、大学卒業後に住み込みで働くことになった弁当屋の寮で、そこは会社が買い上げた一軒家に男四人で暮らすという、当時はそんな言葉はなかったがシェアハウスというやつだった。

弁当屋の詳しい話はまた別の機会に譲るとして、他の三人はちゃんと鍵の掛かるドアがついている部屋だったのに、私の部屋だけなぜか入口が、ふすま式、だった。なので鍵が掛けられない。そのためつっかえ棒で、なけなしのプライバシーを守っていた。

次の寮暮らしは二十代の終わりに、ワーホリでカナダへ行ったとき。それはナイアガラの街にあるお土産屋さんの寮で、緑のこぼれる美しい通りに面した、いかにもカナダっぽい庭の広い平家だった。

が、私の部屋だけなぜか『マルコヴィッチの穴』という映画に出てきたオフィスを思わせる、階と階の合間にむりやり詰め込んだみたいな、半地下っぽい部屋で、広さも土地の有り余っているカナダなのに三畳くらいしかなかった。ベッドの上で生活していた。

次の寮は、空にオーロラが踊っているイエローナイフという極北の街のホテルに勤めたときで、広さは三畳以上あったが、セントラルヒーティングの調節メモリが隣の同僚の部屋にしかなく、そちら方に恋人などが訪ねて来ているときは、こちち方はいくら寒くてもコトがすべて終わるまで待ってから「ごめん、温度あげていい?」と、恐縮して頼み込まないといけなかった。

ある日とつぜん窓が割れて、マイナス四十度の外気がびゅうと吹き込んできたときは、文字どおり肝が冷えた。

どの部屋もとても思い出深く、今でもたまに現在はどうなっているのか、グーグルアースで見てしまう。

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