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書評 望郷の道 考えずに感じる圧倒のサーガ!

望郷の道 (上・下)
北方謙三

台湾で製菓業を起こしたという、著者の曽祖父夫婦をモチーフとした一代記。
物語は著者の故郷でもある佐賀から始まりますが、ある事情で台湾に舞台を移し、彼の地で生業を変えながら、圧倒的な熱量のサーガを展開します。

主人公は、藤(旧姓 小添)正太。
佐賀で水運業や賭場をやっている大店小添家の五男坊。
自分を持て余し気味。
この男がもう一人の主人公、藤瑠瑋と出会うことで、商才やその他諸々を覚醒させていくのが序盤の流れ。

瑠瑋は女だてらに親の賭場を継いだ「親分」。正太は藤家に婿入りし、「こんな都合のええ人おるんか!」的な商才と漢気の覚醒を見せるのが序盤の流れです。
が、幸せな?結婚と事業の成長の裏で起こっていた陰謀は、物語を大きく方向転換してしまいます。

所が変わっても、正太の「性」は変わらず、豪快キャラに似合わぬ生真面目さ+凄まじいばかりの馬力で、新天地で頭角を現し、そこでもまた商才と漢気が・・・というお話。
日経新聞の連載を意識したとは思いませんが*、ビジネス小説としてもエキサイティングです。
*なんせ日経の連載には渡辺淳一センセイの愛ルケがあるくらいなんで・・・

内容以外だと、リズムが抜群に良いのも北方節のなせる業か。
主語を省略しがちの出だし、削ぎ落しが効いた短い文、佐賀弁。
文で描かれる出来事をリアルタイムで見るような感覚があります。

また、意外に表現や情景の美しさや細やかさもあって、随所に「読ませる」要素がちりばめられている、珠玉の作品だと断言しておきます。

正太も瑠瑋も一種の超人なので、感情移入は難しいですが、やることのディテールにどこかしらリアリティーがあり、共感できる部分はあります。

さきにご紹介した落合信彦の「あめりかよ!アメリカよ!」とはちょっと違った、モチベーションの焚き付けになる、そんな本です。

自分的元祖、新聞連載読んだのに買った本!でもあります。


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