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見知らぬ森に迷い込んだ羊

一匹の羊が、見知らぬ森に迷い込んだ。
首を右へ左へ小さく揺らしながら、恐る恐るその一歩を進めている。

そうだ。
改めて言っておくほどのことでもないが、これは、もちろん、見知らぬ森かどうかは羊本人にしかわかり得ず、その羊の挙動不審な様子を見て、「おそらく知らない森に迷い込んだのだろう」という、僕の仮説の域を超えない話である。
この羊と会話でも出来たらいいのだけれど、あいにく羊の言葉はわからないし、羊もまた僕ら人間の言葉はわからないのだから、それを確かめる手段もない。
そもそも、言葉という概念も人間だけのものかもしれないし、言葉そのものが実に曖昧なものであるのだから、どんなに言葉を駆使したかと言って、それが明確に伝わったという証明にはなり得ない。
もしかしたら、羊には言葉はわからないというのも一種の僕の思い込みなのかもしれないし、考えてみれば、この網膜に映ったその映像も虚構であるということも十分にある。
それは、同様に、この脳における記憶や思考、身体性も含めてこの現象が事実であることも証明できず、もし全てがまやかしであるなんてことになったら、人によっては発狂してしまうなんてあるものだから、整合性と言うものは、それが例え仮定であったとしても重要なものであり、一種の宗教とも言えるのかもしれない。
そうやって、我々は、わかり得ない世界でなんとなくで生きていくしかないのだから、人は孤独だと、そんなふうに決めつけてしまったりするのだけれど、それもまた人間お得意の逃避行のようなものなのだろう。

いけない。
話が大分ずれてしまった。
一匹の羊が、見知らぬ森に迷い込んだ話の続きを始めよう。

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