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「月に憑かれたピエロ」に憑かれた僕(2)

「月に憑かれたピエロ」(以下「ピエロ」)は、オーストリアの作曲家アルノルト・シェーンベルク(Arnold Schönberg, 1874 - 1951年)による、アンサンブル伴奏付き連作歌曲(全21曲)です。

先にお断りしておくと、この記事は「ピエロ」の紹介記事・解説記事・ファン記事のどれでもありません。

なので、「ピエロ」自体について詳しく知りたい方は、こちらに川島素晴先生(作曲家・国立音楽大学准教授)の素晴らしい記事と演奏動画がありますので、そちらを御参照ください。

正直、なんの曲でもよかったのかもしれませんが、僕は指揮を始めたころのある時期「書かれた音楽作品をどう読み、咀嚼し、音にするか」というプロセスにおいて、とても大事なことを、たまたま「ピエロ」という作品に教わったので、その話です。

僕がこのイカれた作品とどう出会い、どう取り組2み、これからどう向き合ってゆくか、というコボレ話。

※前回記事はこちら

5)再びマヌエルにすがる
6)「詩人の一撃」を発見
7)一気に開眼
8)「兵士の物語」のバイオリン

1)再びマヌエルにすがる

ベルリンドイツオペラ食堂事件(前回参照)からほぼ1年、「全部の音と言葉を読んだ」自信はあるものの、この先に進む道が見つけられずに悩み、結果マヌエルに助けを求めた僕。

バ「結局、マヌエルが教えてくれたようなことを自分で見つけるには至らなかったよ。。。」

マ「まあ、そういうこともあるよね。俺にもあるよ。」

いわく、

マ「ついこのあいだ弟(物理学者)に会って、なんでか『相対性理論』の話になって、説明を受けたとき、『なるほど!これでようやくわかった!』と思って家に帰って『忘れないようにメモしよう』と机に向かった途端、何も書けない。そこでようやく、『本当は何も分かってなかった』ことに気がつく。」

まさにソレです、ソレ。

「1回歌詞から離れてみて、なにがある?ここにはスタッカートとレガートがある。」

「この一見対立する2つの音楽要素、だけど、歌詞は『月光の青ざめた血』。レガートは『光』、スタッカートは『血の滴り』、って考えるのは、どお?」

※ちなみに、「血の滴りスタッカート」は後に何度も出てきます。

「ぶっちゃけ、僕らがここで喋ってることは、僕ら以外には誰も興味がない話かもしれない。そんなこと知らなくても『ピエロ』は出来るかもしれない。でも、こんなことを考え始めると、自分の『解釈』に確信が持てるし、もっと楽しくなるかもしれない。だから僕はこの作業を辞められない。」

※まるで映画評論家の町山智浩さんのようです。

「映画は、何も知らずに観ても面白い。でも、知ってから観ると100倍面白い。観てから知っても100倍面白い!」

2)「詩人の一撃」を発見

マヌエルにすがった後も「うーん、そう言われてもねえ。。。」となってた僕。それでも、とりあえず「ピエロ」のスコアは何処にでも持ち歩いてて、気づいたらパラパラめくる。

「。。。ん?」

ある日僕は、第14曲「十字架」を見てる時に、ひとつのことに気が付きました。

チェロだけFFpp。なんこれ!

そこで僕は考えました。

「チェロ=詩人=シェーンベルク」なんであれば、ここで「詩人が音もなく血を流す(dran die Dichter stumm verbluten)」なら、このフォルテピアノは「詩人の痛み」なんじゃないか!

いまでも覚えてる、家のすぐ前のスタバ笑 1人で飛び上がりました。誰も知らない宝物を、1人で見つけた気分。

3)一気に開眼

その日はもう、目が冴えちゃって、夜も寝ずにずーーっと「ピエロ」を眺めてました。

てゆーことは、この突然のフルートのスタッカートは「Ein närrisch Heer von Schelmerein(悪戯物の愚かな1団)」で

このピッコロの「ピー」は「Kerzen(ロウソク)」の炎で

このアクセントスタッカートは、冷たい水に手をつけた時の「冷たいっ!」って感覚で

ということだろうか!!!???

これは楽しい!!!!

4)「兵士の物語」のバイオリン

そんなわけで僕はますます『ピエロ』に釘付けになり、常にスコアを持ち歩き(小さいんで)、どんな少しの休憩時間も『ピエロ』を眺める、という、なんとも精神衛生上不健康な生活をすることになりました笑

そんななか、この「ピエロ活動」が、僕の他の音楽作品に対する視点を変えていることにも、気づかざるを得ませんでした。

再びベルリンドイツオペラ、2016年1月、再びマヌエルのアシスタントとして参加した「Sensor」の初日公演帰り道、マヌエルと2人、ベルリン地下鉄U2の中にて。

バ「最近疑問に思ったことがあってさ。ストラヴィンスキー『兵士の物語』のバイオリンは、なんであんなに開放弦が沢山なのかって。考えたんだけど、『兵士』は下手な趣味バイオリ二ストだし、『悪魔』は『兵士』からバイオリンを奪ったばかりで弾き方をよく知らないし、そーいう人達は開放弦をガチャガチャ鳴らして遊ぶんじゃないかな、って。どう思う?」

マ「(ニヤニヤして)『どう思う』もなにも、『兵士の物語』はそれについての物語だろ?」

まだ「ピエロ」を指揮するとこまで来てないけど、まだまだ長くなるので、次回に続く!

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