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#7:子のDeparture ー おわり、はじまる

こんにちは、ババかずおです。

マレーシアで働く妻、現地インター校に通う子を家族に持ち、居残り一人家長として日本で働きながら暮らしています。さて、Departureシリーズ#7では、約2か月ほどの父子生活の日常をそれぞれの視点から切り取って紹介します。
一部時制が現在形で進みますが、ドラマ「24」のように今起こっている風にしているだけですのでご留意ください。


子、スクールバスを下車して

「そうだった、帰ってもお母さんはいないんだった。お母さん、マレーシアでちゃんとやってるのかな。」スクールバスを降りた僕は、家にお母さんがいないことを思い出した。

いつも通りが、変わったんだ。
新しい、いつも通りなんだ。

バス停から家までは歩いて3分。
いつもより、ちょっと長く遠くに感じる。
そして町は色を失ったように、景色がさえない。

玄関のカギが開く音が鳴る。
前のいつも通りに、ただいまを言ってみる。

「ただいま 今日は理科と算数の宿題があったな  きょうはどのお菓子を食べようかな 少しyoubuteでも見よっか  お母さん ちゃんと仕事やれてるのかな」

リアルに声を出したのか、心の声だったのか、僕はわからなくなる。僕の声が部屋に吸い込まれるだけで、誰の声も帰ってこないんだから。

宿題をする。じゃがりこを食べる。
たまにyoutubeを見る。
外が暗くなってくる。まだ家には僕一人。

公文をする。デカビタを飲む。
携帯が鳴る。ーあ、お父さんからの電話だ。

父、子の待つ家に帰る

会社の仲間には2ヶ月弱、父子での生活となることは言いふらしていた。その間、少し早めに帰ることに理解を得なければならない。ちょうどあの小言の多い管理部長さんのところのプロジェクトも小康状態だし、それほど皆に貸しを作らなくて済みそうだ。

そういえば、これまでは「家族の待つ家に帰る」という手応えのある生活ではなかった気がする。妻と子がいるのが当たり前だし、たいてい帰宅する頃には、妻と子は布団の中。よかれと思って早く帰れば「なんで今日は早いの?」と、妻からは煙たそうな言葉が返ってくることもあるわけで。

さて、子が一人待つ家に帰るというのは、これまでの帰宅とはわけが違う。晩御飯を出さなきゃならないし、明日の弁当の仕込みもある。風呂上がりにアイスが欲しくなるのではないだろうか、親の務めと想いがここに生まれる。

母のいない家で、子どもは父の帰りを待っているはずだと意気込み、会社を飛び出し、子に電話をする。

lulululululululululululululululululululululu
もしもし?お父さんだけど、今会社出たよ。
ご飯は帰ってから作るから7時くらいかな。
え?分かった。バニラでいい?
じゃあ、明日の学校の準備、しっかりな。
lulululululululululululululululululululululu

子の返答は全て「あぁ」であった。「あぁ」で済ます言葉の投げかけに終わってしまったことを反省する。強がっての「あぁ」だったのか、いつも通りに「あぁ」なのかはよくわからない。どうも電話越しだと生意気ぶる。

Departureの前日

そんな調子で始まった父子生活も今日で最後。振り返ればあっという間だった。実家にも世話になり、お義母さんには何度か出張に来ていただき、会社の仲間にはいろいろと融通してもらった。あっという間に過ぎていく、父子生活のあれこれ。

出発は明日なのに、まだ荷造りが終わっていない。焦って会社を飛び出す。久しぶりに会う妻には、一つ角を寄り道して、老舗の和菓子屋で羊かんを買っていく。きっと、日本の味に飢えているに違いない。

子どもに連絡をすると、近所の友達に手紙を届けに行くという。そういえば、私も何かあれば妻に手紙ばかり書いていた。当時は手紙こそが心に響く贈り物とばかり思っていたが、どうやら子どもは私に似たのかもしれない。

手紙をもらった側は、リアクションに困り、気を遣い処分も出来ず、結局はいつまでも引き出しや本棚に無造作に残るものになってしまうだけだと妻から指導を受けた。そして私はライトな手紙を控えるようになった。(手紙を書くことを否定しているわけではない。ただ独りよがりをやめたということだ)

今日の晩御飯は、最後の出張となったお義母さんが作り置きしてくれたちらし寿司である。色鮮やかな具材が見るものを楽しませる。何かがおわり、そしてはじまる。それぞれは違う色や手触りを持っているようでもあるし、重なり合う色が自然に混ざり合っていくようでもある。

ーお父さんと食べるご飯もこれで最後だね。
ーあぁ、またいつでも食べれるよ。

そんなわざわざしんみりすることは言わない。今までのいつも通りを、ただただなぞるだけだ。言葉にしなくてもわかっている。これからは新しいいつも通りがお互いにあることを。


翌日の早朝に私と子は家を出発し、お友達が見送りにきている中、Departureゲートの向こう側へと歩みを進めました。さて、次回は久しぶりの妻・母と再会の時。とうとうDepartureシリーズも締めくくりになるでしょう。

機内からの富士を眺め

それでは、次のNOTEで
ーババ かずおー


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