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弁理士業の魅力 キャリアとともに専門領域を広げていけること

こんにちは。40代、弁理士の石川です。今日は、弁理士として業務を行うと、経験年数とともに、少しずつ専門領域を広げていくことができる点についてお話ししたいと思います。これは、弁理士業の大きな魅力です。

特許事務所において弁理士になると、資格を取る前に比べて、様々な業務を経験をすることができます。その結果、業務範囲が広がるという現象が起こります。業務範囲が広がる話の前提として、まずは、特許業界の構造についてお話しします。

特許業界の構造を網羅的に説明しているものは、特許庁のホームページを含めて、あまり良いものがありません。このため、当方のこれまでの経験(大手特許事務所、小規模特許事務所での20年弱のキャリア)に基づいて特許業界の構造についてお話ししますので、おおよその話としてご理解ください。

1.特許業界における分野毎の仕事量

日本国における特許出願業務の案件数としては、おおよそ、

電気・機械 >> 化学 >> バイオ・その他

また、意匠、商標出願業務に関しては、

商標 >> 意匠

となっていると思われます。この案件数の割合は、私がこの業界に入ってから過去20年間近く、ずっと変わっておらず、今後も大きく変動することはないと思われます。

特許業界でいう電気の概念は著しく広いです。電気の分野には、IT、コンピュータ、ソフトウェア、AI技術、電気回路、半導体、電気通信、光学、物理などが含まれます。

また、特許業界で機械といえば、概ね構造ものの案件を指します。この機械の分野には、自動車や自動車部品、搬送機械、昇降機、流体機械、プリンターや複合機、光学機器、日用品、雑貨、その他の構造物が含まれます。また、それらの制御を含む場合があります。

電気と機械は、カテゴリーの切り分けが難しく、電気と機械を厳密に分けることは困難です。両者の要素が混ざっている案件も多いからです。ですが、案件数としては、電気の方が機械よりも多い印象です。パチンコなどの遊技機は、電気と機械のいずれに入るのかは私には分りません(扱ったことがないので)。

それから、電気・機械よりもガクンと減って化学が続き、さらに化学よりもバイオおよびそれ以外がぐっと減って続く印象です。

大手企業になればなるほど、特許出願件数が増加する傾向があります。日本における大手企業の顔ぶれを見れば、日本における分野毎の出願件数をだいたい予想することができます。

自動車大手であれば、トヨタ、ホンダ、日産、スバル、マツダ、三菱自動車、スズキなどが存在感があります。電機大手であれば、パナソニック、ソニー、日立、東芝、NECなどが知られていますね。

化学大手であれば、富士フィルム、花王、積水化学、東レ、三菱化学、三井化学などでしょうか。

つまり、日本では、機械・電機の企業に存在感があり、それに化学メーカーが続いているという産業構造なのです。

これに対して、日本のバイオの企業は、ほとんど存在感がありません。最近だと、ユーグレナとかでしょうか。バイオ・医薬の分野で外国企業(アメリカ)であれば、ファイザー、メルク、ジョンソン&ジョンソンなどを挙げることができます。

したがって、日本における各業界の存在感を考えれば、自ずと特許出願数も予測できると考えられます。バイオに関しては、上記の事情から、国内企業からの出願依頼がほとんど期待できず、外国企業による日本への出願(外内出願)がメインであることが推定できます。

2.私のキャリア形成の例

続いて、私の例を参考に、弁理士としてのキャリア形成を見ていきたいと思います。

当方、元々の専門はバイオでしたが、特許事務所で働き始めた当時、バイオの出願依頼などは、ほとんどありませんでした。iPS細胞もゲノム編集も登場する前(約20年前)でしたので、仕方なかったですね。

このため、私が特許事務所でのキャリアのスタートした際には、扱う案件のほとんどは、専門外の仕事となりました。具体的には、機械の明細書をマスターすることから始まりました。生きていくために、頑張りました。でも、理学部生物学科出身ですが、元々機械や物理が大好きだったので、さほど抵抗なく入れたように思います。

私の場合、
機械系明細書作成(補助)+中間処理(補助)からスタートして、
→ 大手特許事務所に移籍
→ 弁理士試験合格・弁理士登録・特定侵害訴訟代理業務付記試験合格
→ 機械系明細書作成・中間処理を中心として、異議・無効審判・侵害通告事件などの当事者対立構造案件にも参入
→ その後、化学系明細書作成・中間処理にも参入
→ 小規模特許事務所に移籍
→ 機械系・化学系・バイオ系明細書作成・中間処理+意匠+商標
→ 現在に至る
のように、雪だるま式に取り扱い分野が広がっていきました。

このように、弁理士としてキャリアを長く積んだり、環境が変わったりすると、少しずつ専門領域が広がっていくことが理解できると思います。

その理由としては、弁理士業務では、自分の大学での専門分野の案件に当たることはほとんどなく、専門外の案件を担当するたびに、勉強しながら、案件をこなすことになるからです。新規案件を担当する都度、少しずつですが、専門外の技術をマスターしていくことになります。

意匠、商標に至っては、大学などで専門として学んでいる人はいないのですから、全員が、何も知らない状態からスタートすることになります。

一方、大学や大学院での研究は、一つの専門分野を深く掘り下げていくものです。長く続けると専門分野が広がっていく点で、弁理士業は、大学や大学院での研究とは大きく異なっています。つまり、弁理士業では、広く浅くの知識が求められるのです。

見方を変えれば、弁理士になると、大学時代の専門から離れて、広い専門分野で活躍できるようになるといえます。これは、私のように、日本国において産業が育っていない分野の専門を大学で選んでしまった学生にとって、大変なメリットであるといえます。

3.新規分野に進出する際の注意点

新しく担当する分野は、今までに経験したことのないものですから、大きな失敗を犯して、依頼者にも迷惑をかけてしまう可能性があります。このため、新規分野を担当する場合には、必ず、指導者となる弁理士と相談のうえで、慎重に案件を処理していく必要があります。

私も特許業界に入って、すでに20年弱のキャリアがありますが、新規分野においては、指導役の弁理士と逐一相談しながら、且つ、自分でも情報を集めながら、慎重に案件を処理します。それでも、ミスに近いことをしてしまうことがしばしばです。

要するに、指導者からの助言があったとしても、自分で痛い目に合わなければ、本当の意味で理解しないということです。それでも、できる限り失敗はしたくないものです。

4.まとめ

以上、長々と書きましたが、特許業界のことや、弁理士になれば専門を超えて活躍できることを多少は理解してもらえたでしょうか。

これから就職活動をされて、社会人としてのキャリアを積もうと思っておられる学生さんや、企業の研究者の方で、弁理士に興味のある方の参考になれば幸いです。

でも、いったん弁理士となったからには、引退するまで、勉強・勉強・勉強あるのみですよ。

勉強を怠ったり、独善的になったりすると、奈落の底に落ちることになるので、気を付けて、弁理士としてのキャリアを形成していただければと思います。

これから弁理士を目指す方には、試験をうまく突破されることをお祈りしております。

弁理士の石川真一のフェイスブック
facebook.com/benrishiishikawa


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