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【やまなしプラザ】上映会「フジヤマコットントン」を見に行く

はじめに

 山梨の映画館事情は非常に脆弱です。昨年の暮れより甲府市内に映画館は一軒もありません。常設の映画館は郊外型シネコンでイオンモール(昭和町)の東宝シネマのみです。
 そんな事情で映画「フジヤマコットントン」は地元出身の監督作品にもかかわらず、単館系ドキュメンタリー作品のため東宝シネマにはかかりません。単館系の作品を見たい場合は、都内まで行くしかないのですが、本作品の地元上映会が計画され「やまなしプラザ」の「オープンスクエア」で行われると聞いたので足を運びました。

予約いっぱいを知らせるボード

フジヤマコットントン

 「フジヤマコットントン」は甲府盆地(たまたまイオンモールに近い)にある障がい者福祉施設「みらいファーム」の日常を撮ったドキュメンタリー作品です。2024年2月10日に封切られ、ポレポレ中野といった単館系劇場を中心に全国20ヵ所で上映しました。
 タイトルのフジヤマコットントンとは、ファームで利用者が育てている綿と機織り機の音、そして盆地からいつも見える富士山、これらを合わせた言葉だそうで、どこかやさしげであたたかいタイトルです。

「フジヤマコットントン」山梨上映会チラシ
裏面には出演メンバーの紹介

 監督の青柳拓氏は、山梨県市川三郷町出身30歳の若手監督です。作品は、大学の卒業制作で撮った「ひいくんのあるく町」(2017)、コロナ渦の東京で自らウーバーイーツの配達員となる「東京自転車節」(2021)があり、いずれもドキュメンタリー作品です。

 ある上映会で「ひいくんのあるく町」を見たとき、何か魅かれるものがあり青柳氏に少し注目しておりました。ひいくんというヘルメットをかぶっている障がいのある彼はいつも町の人のお手伝いをして歩きます。町の人もを暖かく彼を受け入れている雰囲気がとてもよく、もう一度見たい作品です。「東京自転車節」の方はというと青柳氏自身が東京で稼ぎながらもいろいろな欲に負けてしまうダメダメな姿をさらけ出しつつ東京のいまを切り取っています。こちらはAmazonプライム(400円)で観ることができます。
 そして新作となるのが甲府盆地の障がい者福祉施設を撮った本作となりました。2作品の流れからして監督は都会よりやっぱり田舎を愛しているのだろうと思えます。
 ふたたび障がい者を扱うドキュメンタリー作品に至った経緯の中に「障害者は生きている価値がない」と言い放った相模原障害者施設殺傷事件の死刑囚の存在があり、それに対するアンサーであるといいます。

山梨日日新聞 2024年5月1日付

やまなしプラザ

 さて会場ですが、「やまなしプラザ」の「オープンスクエア」と聞いてすぐに分かる人は山梨でも少数派ではないでしょうか。むしろ、ジュエリーミュージアムなどが入る山梨県庁の防災新館のイベントスペースというほうがすぐに分かります。残念ながら「やまなしプラザ」も「オープンスクエア」も名前は定着していないのです。

 下記画像は舞鶴城のある陸橋側から見た、県庁本館と防災新館です。防災新館のビルの建つ場所はかつて西武百貨店があった場所で跡地に県庁がビルを建てました。
 甲府駅の南側も北側も一等地に国の出先機関、県庁、市役所など行政の建物が林立してしまい観光向けの商業施設はほとんどありません。一時期、甲府駅周辺から書店すら一軒もなくなりました。

防災新館(左)と県庁本館(右)

 続いて、甲府駅から南に伸びるメイン通りである平和通りに面した入口です。手前にはカフェがあります。観光パンフが入手できたりジュエリーミュージアムなど情報発信場所としては上々です。

平和通り入口、手前にカフェを併設
入場待ちの行列にて

上映会

 上映会は、5月3日と4日の2日間で、11:00、14:00、16:00の1日3回上映です。定員はそれぞれ150人です。
 舞台挨拶のある11:00と14:00の回は予約ですべて埋まり、16:00の回に当日券が出たようです。みらいファームや地域の関係者も多く足を運んでいるようでした。
 開場前かに行列が出来ていました。開場すると予約名を確認して料金を払います。現金対応なので時間がかかるのですが、筆者は前売り券を入手していたので予約名だけでスムーズに入れました。
 座席はすべてパイプ椅子自由席です。映画館ではないので前の人の頭が少し気になるのが、少し残念です。

開会前、埋まっていく席

 冒頭、青柳氏は映画とは疑似体験であるとして、映画を通してみらいファームを感じ取ってほしいと語っています。

マイクを握る青柳拓監督

 内容としては、ごくごくありふれた、障がい者の通う作業施設の1年です。けれど個性あふれる面々として利用者さんたちにうまくスポットを当てています。
 こちらでは、近くの畑で和綿を栽培していて、秋に収穫しては、綿の糸繰りをして機を織って製品にしているのです。あと温室で花の苗をポットで育て出荷しています。
 朝礼をしてラジオ体操をして、別れて作業をして、お昼にはお味噌汁が出て一緒に昼食をとる。そして午後となり、夕方帰っていく。施設の1日、1年を丹念に納めています。特別ドラマチックな展開もないですが、くすっと笑うようなほほえましい光景が描かれています。
 青柳監督の母親がこちらの施設の職員として長年勤務されているとのことで、劇中にもインタビューで「青柳さん」という名前が出てきます。
 あとは、山に囲まれた盆地の風景はずっと出てきます。山ばかりですが筆者はほっとする山梨の風景です。ほかの県の上映ではどのように思われるでしょうか。

舞台挨拶

 1日3回の上映のうち、午前と午後の2回は上映後に舞台挨拶があります。監督とみらいファームの出演者が舞台に上がります。みらいファームの利用者さんは毎回交代で別の人が立ちます。
 筆者が訪れたのは2日目の午前の上映で、舞台に立ったのは、温室で販売用の花を育てるベテラン「けんちゃん」とデジカメでファームの様子を撮影するカメラマン「たつなりさん」でした。
 「けんちゃん」は休日に実家近くの菩提寺へ父の墓参りに行くシーンが描かれています。また、「たつなりさん」は機を織る「ゆかさん」に恋心をいだいてふられて悩む姿が描かれています。

撮影タイムから
(左より)けんちゃん、青柳監督、たつなりさん

 監督に段取りなく突然、二人が温室で栽培している「希望の花」のポットをプレゼントされていました。両手に持ったままSNS向けにフォトセッションです。会場からは「かっこいいよ」と声もかかりました。

 舞台挨拶のほうは、監督が聞き役のトークショー的な感じで進みました。
 「たつなりさん」は、この映画を見たのは2回目だといいます。ためらうこともあったり、受け止められない気持ちなどもあったようです。片思いもありましたが、でも今は前向きだといいます。仕事とはなんだろうと劇中での問うていましたが、「みらいファームのみんなを幸せにすること」といっていました。

カメラを構えるたつなりさん
ぜんぶ「たつなりさん」の撮影

 青柳監督と「けんちゃん」は母親の勤務先だった関係でずっと長いつきあいだそうです。当日の「けんちゃん」は大型連休で実家に戻っていてJR塩之沢駅(身延町)から身延線で来たそうで「来る途中に高校生に声をかけられた」と話が脱線します。よほど嬉しかったみたいです。
 最後に「たつなりさん」が、みらいファームみんなで俳優としてデビューしたいと、大きな希望(野望?)を語りしめくくりました。

ファームの作品

 パーティションで仕切られた隣のフロアではサイン会をするとともに、みらいファームの様子が紹介されています。

終了後、行列はサイン待ちの列
サイン会の「たつなりさん」と「けんちゃん」
出典 : 青柳 拓 Aoyagi Taku 公式X

 12色のマッキーマジックペンで丹念に色を塗っていく「たけしさん」がいるのですが、作品がありました。

「たけしさん」の作品
劇中ではすごい集中力で塗っていました

 富士山の見えるファームの畑で和綿栽培の一年の様子も分かります。

種まきから収穫まで

 コツトントン、採った綿の実は糸に紡いで機織りします。また、糸を染めたりもしています。

糸つむぎから機織りまで

 こちらは、機織りの「めぐさん」と「ゆかさん」のコーナーです。
 「めぐさん」はゆっくりだけど、しっかりと機織りをする人で生地の注文がいくつも寄せられています。
 「ゆかさん」はざっくりの人で手早く機を織りをこなします。
 劇中でお互いに相手の好みの色を聞いて、織って生地を贈りあうということをしました。その生地で作ったベストがありました。

ゆかさん(左)とめぐさん
出来上がった二人のベスト

 ほかにも販売コーナーには綿の製品やサシェ(香りの袋)などがありました。

綿製品
サシェとクリーム

 「けんちゃん」と「たつなりさん」が温室で丹念に育てていた「希望の花」を購入してきました。「たけしさん」のイラストのポストカードがついてきます。

さあ、プランターはどこだ

おわりに

 少々映画にも関心のある筆者です。しかし、noteでは映画は扱ってきませんでした。しかし今回は山梨で撮ったドキュメンタリーであることや、やっと叶った地元での上映会を応援したいという気持ちで紹介しました。お付き合いくださりありがとうございました。


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